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東宮の入口から少し離れた広場に、巨大な瞬間移動の魔法陣が開く。
ルーブルを先頭に、レウとその侍女と護衛二人、リラとその侍女二人と護衛二人が出てくる。私とコロン、クーナ、ルピアがその後ろに続く。
「さすがですわ、先生。十四人を一度に運ぶなんて。オーガなんて四人分くらいありますのに。」
レウが、ルーブルを褒め称える。
でも私が四人分換算ってのは余計じゃないかな。
「さほど遠くありませんから、大丈夫ですよ。」
ルーブルは平静を装う。
本当は東宮の入口にバチッと到着するつもりが、少しずれてしまったので、内心ドキドキしていた。
オーガを一人分と数えてしまった単純ミス。運ぶ量が重すぎたのだ。
「東宮に研究のための部屋を用意しておりますわ。」
レウの侍女に先導されて、一行は東宮の門をくぐる。
道すがら、リラとレウは王子の悪口を言っているようだ。皆、聞こえないふりをしている。
私はたまたま隣に並んだルーブルに話しかける。
「レウ様の魔法の先生って、ルーブルさんだったんですね。」
「ええ。姫からの直々のご依頼と聞いて、キンユーから急いで帰ってみれば…まさか、あなたのことだとは思いませんでした。」
え。なんか、すみません。
でも、私は悪くないよね。
「こんなことなら、魔法の訓練の時にあなたの魔法を見ておくべきでした。魔法陣の解除に手こずるとは思っていましたが、あそこまで…」
なんか、愚痴が始まりそうだ。
話を変えよう。
「北部要塞って、今どうなっているんですか?」
マンガンも行っているという戦場。
知り合いが戦争に行くなんてことは、転生前にはありえなかった事だ。想像すらしたことがない。
だから、とても気になる。
「そうですね、今は膠着状態です。そもそも難攻不落の要塞ですし、籠城軍は攻城戦が得意ではありませんから。せいぜい戦車隊が砲撃を加える程度ですね。」
私たちも第一籠城軍の所属だ。いざとなったら戦わなければならないのだ。
怖い。
「たまにオーガやゴブリンの部隊が出てきて、小競り合いがありますが、大きな戦闘は起きていません。」
良かった。マンガンはそんなに危険な場所に居るわけではなさそうだ。
「今は、第十五籠城軍が北部要塞を囲んで、補給をできなくしています。」
「兵糧攻め…」
「そうですね。でも、瞬間移動魔法がありますから、完全に補給を断つことはできません。」
魔法があるから、私の世界の戦いとは戦略が同じではないんだ。
「補給を止められないなら、どうして包囲を?」
「物資を運ぶには魔力が必要です。要塞からシヘー軍を遠ざければ、その分補給が難しくなります。」
瞬間移動の魔法は、運ぶ物の重さ✕距離で必要な魔力量が変わる。
必要な魔力量が、その人が一度に使える魔力量の最大値(=魔力容量)を超えることはできないし、最大値に近づくと、たちまち魔法は不安定になってしまう。
魔法が不安定になると、さっきのルーブルみたいに到着地点が変わってしまったり、プラみたいに炎が尻から出てしまったりすることになる。
包囲作戦は、瞬間移動の距離を伸ばして敵の補給量を減らすための作戦なのだ。
「増援が来るまで、北部要塞のシヘー軍が態勢を整えるのを遅らせる作戦です。」
「でも、その対抗策を相手も考えているんじゃ…。」
そんな分かり易い作戦なら、なおさらだ。
「山脈の反対側にシヘー軍が部隊を集結しているという情報は得ています。一点突破で、包囲を突っ切って要塞に入る作戦でしょう。」
「大丈夫なんですか?」
「対策はあります。」
「どんな?」
「軍事機密です。」
そう言って、ルーブルは指を口に当てる。
そりゃそうか。罠のことを言いふらしたら、罠の意味がないもんな。
東宮の中は、バロック調というかロココ調というか、とにかく、派手で豪華な調度品がずらりと並んでいた。
壁や天井には様々な絵が描かれ、梁や扉も凝った装飾でデコられている。
あまりにも沢山ありすぎて、逆に悪趣味に感じる。様々な色や形が主張していて、ゴチャゴチャだ。
「こちらですわ。」
廊下の突き当りは、地下に続く階段だ。
やだなー。
お城の地下室って言ったら、暗くてジメジメしてて、倉庫とか牢屋とか拷問部屋とか、そんなイメージしかない。
この部屋を準備してくれたのが、血みどろ姫のレウなのだから余計に怖い。
まさか、地下室で解体とかやってないよね。
つい、血だらけで真っ赤になっている地下室を想像してしまう。
うへぇ……
ちょっと怯えながら地下室に降りる。
「うわぁ、キレイ。」
ルピアが思わず声をあげた。
クーナは息を呑む。
ルーブルも「ほうっ」と感嘆の吐息。
部屋は広く、学校の教室二つ分くらいある。光の魔法で照らされていて、落ち着いた明るさ。とても地下室とは思えない。
また、壁も天井も白と緑を基調とした色で統一されており、地上階のようなゴテゴテ感とは一線を画した空間になっている。
壁の色にあわせた家具も腰の高さに統一されていて、圧迫感がない。
部屋の真ん中には木のテーブル。木目そのままだが、天板には継ぎ目がない。大きな無垢の一枚板テーブルだ。
「以前は陰鬱な部屋だったので、昨年私好みに改装したんですわ。」
レウが天使の微笑みで自慢する。
赤色がメインじゃなくて本当に良かった。
レウが護衛に声をかけると、二人の護衛は下がって行った。リラも同じように護衛を下がらせる。
「まずは飲み物をどうぞ。一息ついてから始めますわ。」
レウの侍女がテーブルに飲み物を並べていく。フローリンとは別の人だ。さすがに、レウの解体現場を目の当たりにして、レウの侍女を続ける事はできなかったらしい。
今の侍女の人は平気なのだろうか、それともまだ解体を見ていないのだろうか。
そんな事を考えながら、ふと辺りを見回す。
美女や美少女に囲まれて、オーガが一人になっているじゃないか。
紅一点の逆を黒一点と言う人もいるけれども、これは「酷」一点だ。




