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ルーブルが私の手を撫ぜる。
なんで、この人は毎回私と手を繋いでくるのか。
リラが私のお腹を触るのと似たような動きなんだよな。
もしかして、リラと同じ嗜好の人なのだろうか。筋肉こそ至高…みたいな。筋肉を愉しむ思考しかできないとか。
「そちらの用事はもう良いのですか?」
レウが聞いてくる。
お土産ももらったし、念話の契約も終わったし、さよならの挨拶もした。
「もう大丈夫です。」
「では、行きましょう。」
「どちらへ?」
「東宮ですわ。」
レウの言葉を受けて、ルーブルが巨大な瞬間移動の魔法陣を描く。
さすが魔法使い。今まで見た中で一番大きい。全員を連れて行けるだけの大きさがある。
「あ、クーナもいるじゃない。クーナも行く?」
リラがクーナに声を掛ける。突然話を振られたクーナはドギマギしている。
「え、あ?え?え?」
クーナも状況が良く分かっていない。
オーガにくっついて将軍府まで遊びにきたら、なんか大変なことに巻き込まれたくらいの認識だ。
「そちらはどなた?」
レウがクーナを見る。
写真でしか見たことがないレウ姫様本人から声を掛けられたクーナは、いつもより焦る。
「わわわ、わ、わた、わ、わたた、…」
「クーナとは友達なのよ。しかも彼女、オーガ専任のトレーナーなんだよ〜。オーガについては、この国で一番詳しいからね。」
クーナの代わりにリラが答える。
でも、リラ様。あくまでも彼女の本業は薬学の上級錬金術師ですからね。
「では、一緒に来ていただいた方が良いですね。」
ルーブルが魔法陣を一段大きくする。
「そちらは?」
今度はルピアにレウの視線が行く。
「はじめまして、ルピアと申します。ホジョツゥカの神殿で神官をしております。」
ルピアは挨拶と簡単な自己紹介をさらりとこなす。
この子はしっかりしている。
神殿にはいろんな客が来るから、上流階級の人でも一般人でも、いろいろな人に対してキチンと対応できるのだろう。
税金の窓口にもいろいろな人が来る。初めての税金で分からないことだらけの若者から、ただただ文句が言いたいだけの老人、自分の知名度を振りかざしたがる議員まで。
沢山の種類の人間と接していると、応対の幅が広がる。偉い人に対する態度、面倒臭い人に対する態度。
きっとルピアもその辺りをある程度弁えていると見た。
「彼女は、オーガが魔法を習得した時に先導をしていた神官です。」
エスクードが補足する。
ルピアと私たちとの関係性を説明して、なぜ彼女がここに居るかをバルボアたちに理解してもらうためでもある。
「なら、オーガに魔法を使えるようにした神様にも詳しいですか?」
「もちろんです。」
ルピアは無い胸を張る。
「詳しくお話をお聞きしたいですね。一緒に来ていただけるとありがたいですが、お願いできますか?」
ルーブルがルピアを誘う。
…が、ルピアは少し悩む。軍の見学ができなくなるからだろう。
そんな気持ちを察したのか、コロンが耳打ちする。
「あの魔法使いのルーブル様は、マンガン様と同じ部隊ですよ。」
「行きます。」
ルピアはすぐさま決断した。
ルーブルが私たちを魔法陣ヘ誘い、瞬間移動する。
***
将軍府には、バルボアとソルのじいさん二人と、タラとエスクードの若者二人が残された。
「…何だったんでしょうか?」
タラが目をパチクリとさせる。
「よ、よく分からん。」
バルボアも汗を拭く。
今日の一連のやり取りはこうだ。
一 今朝、東宮の事務を通じて、オーガ貸し出しの事前調整依頼が来た。レウ姫様がオーガを半日くらい使いたいとのこと。
二 この二週間では訓練以外の予定が特に無かったため、日程や時間はそちらに合わせると回答。
三 だいたい一週間くらい先の事だろうと判断。後でオーガが待機室に寄った時に、伝えるつもりだった。
四 東宮の事務から本日でもいいかと返事がくる。今日だと? これからだと?
五 今朝の実験以降の予定はなかっため、とりあえず問題ないと回答。常識的に考えて昼食後以降だろう。まだ慌てるような時間じゃない。
六 リラ将軍から報告。オーガの件で、レウ姫様が間もなくここに来るとの連絡があったと。姫様自らここに来るだって?
七 リラ将軍と謁見室に移動。間もなく瞬間移動魔法でレウ姫様が侍女や護衛を連れて現れた。色々と早過ぎる。大急ぎで、オーガを呼びにタラを遣らせる。
八 リラ将軍とレウ姫様がお話をされている。待ちきれないので、迎えに行くとか言い出した。え、もう謁見室を出て行った!? どうなってるんだ、王族たちの思考は。
九 なんとか追いかけ、将軍府の入口でオーガにあう。と思ってたら、オーガの客人まで連れて行ってしまった。
十 残されたのは男四人。←今ここ
あれよあれよという間に話が進んでいって、レウ姫が来て、あっという間に出ていった。
バルボアは、レウ姫に初めて会った。もっと静かな姫君だと勝手に思っていたから、まさかあれほどまでに行動力のある方だと知って驚いていた。
「王族の方々は皆様、あんなもんですよ。」
エスクードは溜め息混じりに笑う。
親衛隊は、東宮を始めとする王宮以外の王族の護衛をしている。だから東宮の姫君であるレウにも何度か酷い目にあわされているのだ。
「王族ってのは、そのくらいでないと務まらないのかもしれないな。ははは。」
ソルが、リラを頭に浮かべて笑う。
タラは今の様子を他人事として笑っていられる立場ではなかった。
(もし、リラ様から夫に選ばれたとしても、上手くやっていけるだろうか。)
タラは、将軍直轄部隊としてリラの夫の座を狙うことに正直迷っていた。
(確かにリラ王女を妻に迎えられれば、我が子爵家は王都の貴族に返り咲けるだろう。だが、リラ様本人だけでなく、王族全部があんな感じだとしたら……俺の心も体も保たない。)
深いため息がでる。
(すまない、姉上たち。子爵家が王都に戻るのは、まだまだ先の代になりそうだ。)
タラは遠い目をして、少し笑った。




