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迎えに来た兵士の後ろをついて、長い回廊を歩く。
私の左側をコロンが、背後からはもう一人の兵士がついてきている。
前後を屈強な兵士に挟まれ、私はゆっくりと歩いていく。
きっとこれは、案内されているというより連行されてるって感じなんだろうなぁ。
私はため息をついた。
「緊張しなくても、大丈夫ですよ。」
コロンが小声でリラックスさせようとしてくる。
緊張とは違うため息だったんだけどな。まあいいか。
「ありがとうございます。」
回廊には大きな窓が並んでおり、外がよく見えた。
前、ここを歩いた時は転生直後だったから、余裕なんて全然無くて周囲を見てなかった。改めて見渡すと、結構大きな城だ。
石でできた城壁、尖塔の三角錐の屋根には旗がはためき、中庭には噴水。まさに王道ファンタジーのド真ん中を行くような、ザ・西洋の城。
昔よく遊んだゲームを思い出した。
ゲームの城には入ってすぐに王座があって、王様に直接話しかけられる。まあ、ゲームなんだから無駄な要素を省いた結果なんだろうが、あんな城なら敵に責められたら簡単に陥落するだろうなと思っていた。
その点、魔王城は入り組んでいて罠まである。最終ダンジョンだから当然なのだが、大軍で攻め落とす事は難しい難攻不落の城だ。だが居住性は最悪だ。平常時には生活動線まで入り組んでしまい、政治の中心としての機能を持たせることは難しい。
この城は、丁度その中間と言ったところだろうか。
この回廊も適度に狭く、大軍が一度に動くことは難しい。あの中庭などに敵が入り込もうものなら、周囲にある城壁の上から攻撃されてしまうだろう。
そんな、歴史ドキュメンタリーで見た城知識が頭をよぎった。
そんなことを考える余裕があるなんて、意外に自分は落ち着いているんだなぁと、驚いてしまう。
城壁の一部に、崩れて焼け焦げているところが目に留まった。…あの爆発音を思い出す。
「コロンさん…あの崩れてる所…」
「はい。先日、攻撃を受けた所です。」
確かに、回廊の途中にもひびの入った窓ガラスが何枚もあった。完全に割れてしまったのか、木の板で蓋をされている窓もある。
やっぱり、戦いなんだ。
私は戦争の兵力として転生させられたんだ。
つまり面接も、そういうことだよな。
どす黒い不安がお腹の下の方から顔を出してくる。
戦争なんて当然嫌だが、この異世界で役立たず認定されてほっぽり出されるのも嫌だ。一体どうするのが正解なのか。
あれこれをいろいろ考えているうちに、回廊を抜けて何かの建物へと入った。
遠くから、気合いの入った掛け声が聞こえてくる。ビシバシと叩くような音。
何か…叫び声というか、断末魔のような声も混ざって聞こえてくる。
怖い怖い怖い。
…これ、私にしか聞こえないってことはないよね。
私がコロンの方を見ると、私の不安を察してくれたようだ。
「ここは第一兵舎です。あれは、兵士たちが剣術の訓練をしている掛け声ですよ。」
良かった。
木刀を持って剣術訓練をしている様子が思い浮かんだ。
でも、剣道のイメージしか出てこない。体育館でダンスしてるみたいに何人かが竹刀で打ち込みする姿。
西洋の剣術ってどんな訓練するんだろう。
自分も、あんな死にそうな声を出すことになる訓練を受けることになるのだろうか。
スポーツなんてやったことないのに、戦闘用の剣術や体術なんてできるわけないだろ!
そう考えると、ぞっとする。
あれ、ぞっとするって誤用なんだっけ?とか考えていると、階段を上って三階へと案内される。
最近エスカレーターやエレベーターばっかりだから、二階より上に行くのに階段を使ったのは久しぶりな気がする。
「こちらが面談の部屋です。どうぞ。」
階段を登ってすぐの扉。
ちょっと不安になる。
また、ため息…じゃなくて、今度は深呼吸する。
いろいろ考えたけど、対策のしようがないという結論に達した。
「まあ、なるようになるか。」
私がボソッと言うと、コロンは笑顔を返してくれた。
***
部屋の中は二十畳ほどの板張りの部屋。
机と椅子が並べてある。レイアウトは集団面接のようだ。
部屋の奥にも扉があって、多分、別の部屋とつながっている。
左右の壁には武装した兵士たちがずらりと並んでいた。後ろの壁にも並んでる。
それぞれ五~六人。
私たちが暴れたり逃げ出したりしないように控えているんだろう。
机は奧に一本。会議用の長机みたいな簡単なものだ。そこに椅子が二脚、こちら側を向いて並んでいる。
あそこに兵士長が座るんだろう。隣は書記用かな。
手前には椅子が三列並んでいた。
左端と中央の列の一番前の椅子には、すでに誰かが腰掛けている。
そして、それぞれの後ろには赤い服の人が立っていた。コロンと同じ服装だから、彼女たちも侍女なのだろう。
と言うことは、座っているのは転生者。
私と同じ境遇の人達。
今まで前を歩いていた兵士に、右端の椅子に座るよう促される。
一番前には、他よりもちょっと大きな椅子が置いてあった。
私用だ…。
なぜか凹む。特別扱いしてもらえるのが嬉しい時と嫌な時があるよね。
仕方ないことだとわかっていても、お前はオーガだ!と突きつけられているようで…凹む。
椅子に座っても、他の人より頭一つ二つ出てしまう。立っているコロンよりもまだ高い。オーガってでかいんだなぁと改めて思う。
そして他の転生者の方を見る。向こうもこっちを見ている。見上げている。
左端の人は、爬虫類系の鱗だらけの顔。ワニだ、ワニ。
ワニの頭部に人間の体。あれだ、リザードマンってやつだ。
真ん中の人は、まん丸の目に嘴がついてる。背中には羽もある。
フクロウかミミズクの顔をしたバードマンだ。
うわー。お互いに酷い目に合ってますね!!
皆さん、こんな事許されると思います?まだしっかりとした説明もされてないし!
…みたいに、彼らとめっちゃ話したい。
しかし部屋の中は静かで、そんな雰囲気じゃなさそうだ。他の二人も静かに正面を向いてしまった。
私も、ここは空気を読んで黙って正面を向いて待つ事にする。
二、三分ほど待っただろうか。部屋の奥の扉が、ガチャガチャと音を立てて開く。そして二人の男が入ってきた。
面談が始まるんだ。
やべ、ここに来てめっちゃ緊張してきた…。