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直轄部隊が解散すると、隊員はそれぞれの自宅や寮、待機室へと戻っていく。
私もコロンと自室へ戻る。
早速、コロンが夕食の準備を始め、私はその間に筋トレを行う。
結局、訓練中ほぼ寝てたのでソルから宿題を出された。明日の朝までにスクワット二百回。
手首につけられた万歩計みたいな魔道具でカウントされるらしいから、誤魔化すこともできない。
でも良いんだ。
今夜のお楽しみはプリン。頑張れる。
「あの。申し訳ございませんが…」
コロンが改まって尋ねてきた。私はスクワットを止める。
「今日は夕食をご一緒してもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。」
「とてもお腹が空いてしまって。」
コロンが少し恥ずかしそうに言う。
何だそんな事か。
侍女は食事を別にするのが、この国での礼儀らしい。当然、私はそんな事を気にしない。
友達と食卓を囲むのに遠慮はいらないじゃないか。
「コロンさん、お疲れじゃないですか?」
「いえ、大丈夫です。」
私が目を回している間に、コロンは組手で六連勝したと聞いた。
大丈夫とは言うが、我慢できないほど空腹なのだろう。準備を手伝った方が良いだろうか。
いや、私はプリンまでにスクワットをやり切らねばならない。
プリンだぞ、プリン。
エンドルでの料理はハズレがない。しかも、ウーロン茶・角煮・ラーメンと、私たちの世界の料理まで完璧に再現してくれる。
私はプリンの期待に胸が踊る。
スクワットを再開し、解散直後のプラとの話を反芻する。
『今日の夕食のオマケは、有名なパタカ食堂の黒プリンです。』
『黒プリン?』
黒ゴマ風味のプリンだろうか。竹炭を使ったのも見たことあるぞ。薄黒いプルプルが頭に浮かぶ。
シンプルなプリンで構いませんのに。
『はい。昔の転生者がコーカに伝えた料理です。』
『転生者の…。どんな転生者だったんですか?』
『詳しくは知りませんが、大きな島国出身の紳士と聞いています。』
プリンを愛する紳士。素晴らしい。
しかも島国というなら同郷かも?
『後で、コロン様の分と一緒に転送魔法で送りますよ。』
転送魔法か。クーナが母親から手紙を送って貰っていた魔法だな。
『ごめんなさい、私は魔法陣が使えなくて。』
『受け取りに魔法陣は要りませんよ。』
転送魔法は念話魔法の応用だそうだ。着信したら魔力を注ぎ込むだけで勝手に魔法陣が開く。
私はプラと手を重ねて念話魔法の契約をした。
私は、着信がくるのを楽しみにスクワットを続ける。
「百八、百九…」
オーガの持久力はすごい。転生前の体なら十回ももたずにヘトヘトだったはずだ。
それが、一秒に一回以上のペースでも二百回のスクワットを続ける事ができる。
しかも。プリンなんて言うやる気の素がぶら下がっているのだ。頑張れないはずがない。
「準備できました。いつでもどうぞ。」
「はい。あとっ、少し、ですっ。」
私はスパートをかける。
「九十八、九十九、二百! ふぅ。」
コロンに手首の万歩計のカウンターを確認してもらう。
「二百二回です。お疲れさまでした。」
数え間違えたか。まあ、多いに越したことはないだろう。
「さあ、いただきましょう。」
今日の夕食は、豆入りパンとクリームシチュー、鳥肉のソテー。本当の料理名は無駄に長ったらしいので割愛。
「シチュー、美味しいですね。」
「今日の料理当番はパン好きでして。パンに合う料理を作るんです。」
確かに合う。パンに入っている豆に甘みがあって、少し薄味のシチューに丁度いい。
「明日からは、将軍府の食堂で直轄部隊の皆様とお食事されてはどうですか。」
「それも良いですね。」
「おかわりが沢山できるようにお願いしておかねばなりませんね。」
「確かに。」
私たちは笑う。
やはり、人と楽しく会話しながら食べると美味しい。良い調味料だ。
私の手元がキラキラと光りだした。そして、プラの顔が頭に浮かぶ。
キターーー!!
来ましたゎーーー!!
早速、魔力を注ぎ込むと、手のひらの上に魔法陣が開く。
「届いたんですね。」
コロンもプリンを待っていたのだろう。嬉しそうだ。
私は魔法陣から皿を受け取る。
プーリーンー!!
プ…リ…ン?
「あれ? プリンは?」
「これです。パタカ食堂の黒プリン。美味しいですよ。」
コロンは私の手の上にある皿に乗っている物を指差す。
これが黒プリン?
確かに黒いけれども、細くて長くてゴロッとしている。
「っていうか、これはソーセージでは?」
「早速切り分けますね。」
私の疑問を無視して、コロンは皿を持っていく。
「プリン……」
私は脳内辞書を開く。
プリン:
pudding。カスタードプディングのように、卵や牛乳、穀物等を蒸し固めた料理。
それは分かってる。他になんかないか。
そうだ。なんかのゲームの敵キャラに「黒プリン」ってのが居たな。攻略情報に何か書いてあったはずだ。
何とか思い出せ。
黒プリン(black pudding):
本作に登場するスライム系モンスター。金属を腐食させ、斬撃を受けると分裂する。
元ネタ(?)動物の血液や肉、穀物を腸に詰めて蒸し固めたソーセージ。連合王国の伝統料理。
これだぁ!!
なんで翻訳魔法は、これを上手く訳してくれなかったのか。
直訳のお陰で、無駄に喜んでしまった。
コロンがソーセージを輪切りにして並べてくれる。
じゃあ、この黒い色は…血ですか。
血だらけのレウが頭をよぎる。
これは食欲がわかない。
「大丈夫です。本当に美味しいですよ。」
あからさまにテンションがガタ落ちした私を見かねて、コロンが気を使う。
ソーセージをフォークに刺して、あーんの状態にしてくれる。
ちくしょう。これが黒プリンでなければ最高のシチュエーションなのに。
私は意を決して、口を開ける。
「あーん。もぐむぐ。」
「いかがですか?」
何度か咀嚼してみる。…ちくしょう、めちゃくちゃ美味い。
でも、期待していたのとは違うんだ!
コーカ王国料理講座
『黒プリン』
八十年前の転生者によってコーカ王国に伝えられた、ブラックプディング。
動物の血液と肉や内臓、つなぎに燕麦などを混ぜてソーセージ状に蒸し固めた物で、ブラッドソーセージとも呼ばれる。血液を使っているため、黒っぽい色をしている。
パタカ食堂の黒プリンは特に美味しいと有名で、王族御用達である。




