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コロンの片足が円の外に出ていた。
「ワンアウト…ですね。」
コロンは笑いながらも、ちょっと悔しそうな言い方をする。
「円から出てしまいましたね。一本取られました。」
周りの隊員たちから、タラへの大喝采が送られる。
「でも、三対一。負けは負けです。ありがとうございました。」
タラは、自分に回復魔法をかけて立ち上がり、コロンに礼をした。その顔には、満足感の笑みが溢れている。
「お疲れさまでした。」
コロンも深々と礼をする。
タラは仲間たち全員から讃えられる。
なんだ、やっぱり皆、仲良いじゃないか。
それぞれの立場や、背負ってるものがあるんだろうけど、素直に喜びあえる仲間ってのは良いものだ。
戻ってきたコロンは、座って溜め息をついた。さすがに疲れたのかな。
「手を抜かれてしまいました。」
「え、タラさんにですか?」
「はい。彼が上半身に攻撃する時は、分かりやすい大振りしかしてきませんでした。避けろと言っているようなものです。」
そんな読み合いがあったのか。全く気付かなかった。
「彼は当てる気が無かったようです。もし、彼が本気で来れば、もう一本くらいはアウトを取られていたかもしれません。」
それでも三対二。タラに本気を出されても、コロンは負けるつもりはないらしい。
「タラ様の兄弟は三人とも女性ばかりですから女性にお優しいのです。組手とはいえ、女性を殴ることができなかったのではないですかね。」
兄弟の構成まで知ってるのか。プラは色々と情報を持っているようだ。
「戦場では、男も女も関係ないのに。」
コロンがつまらなさそうに言う。
「将軍直轄部隊が戦場に出るような事態になったら、この国も終わりですよ。」
そう言って、プラが笑う。
でもコロンは笑わない。
「さあ、フォリント。気を抜くな。次はお前の番だ。」
ソルが私とフォリントに、おいでおいでと手を振る。
「行ってきます。」
私は仕方なく立ち上がった。
「フォリント様は、コーカ鉄道を所有する伯爵家の五男になります。手加減を忘れないようにしてくださいよ。」
プラが小声で注意してくる。
神殿に行くときに乗ったあの鉄道か。もうちょっと風景が良い所を走ってくれたらいいんだけど。
鉄道を持っている伯爵なら、金持ちなんだろうなぁ。伯爵って、どのくらい偉いんだっけ?子爵より上?
などと考えていたら、私は円の中に立たされ、目の前には木刀を持ったフォリントがいた。
コロンとタラの戦いの後だから絶対に盛り上がらないと思いますけど、良いんですかね。
「「お願いします…。」」
私とフォリントの挨拶がハモった。声の調子は、あまりやる気のない感じがそっくりだ。
ソルが開始の合図をする。
それっぽく構えてみる。ゲームで見たプロレスラーの待機グラフィックのマネだ。腕を伸ばして少し腰を落とすから、ちょっとやそっとじゃ円の外に出すことは無理なはず。
身長も体格もこちらが圧倒的。威圧感はあるはずだ。
それを恐れず、フォリントが足を狙ってきた。早速、先程の組手のマネをしているようだ。
しかし。
この私に、コロンやタラみたいな高速の避けができるわけがない。
パァン!
プロテクターの隙間を抜けて、木刀はもろに右腿に当たった。
「痛っ!」
私は体をビクッとする。
「わ、ごめん!」
フォリントが謝る。
意図しない所に当たって驚いている。
……いや、もう痛くない。
輪ゴムが飛んできて当たったくらいの痛さ。すぐに痛みは引いていった。
地下神殿で落ちた時もそうだったが、オーガの体はかなり丈夫にできているようだ。
「なぜ謝る。構わん、訓練中だ。」
ソルがフォリントを叱る。
「はいっ!」
今度はフォリントが、上段に木刀を構える。
さほど痛くないと分かれば怖くない。
フォリントが、丸めた新聞紙でチャンバラを仕掛けてきた小学生にしか見えなくなってきた。
今度は袈裟懸けに叩きつけてくる。私は腕のプロテクターで受ける。
楽勝〜!
プロテクターの上からなら痛みすらない。
「腰が入っておらん!」
フォリントにソルの激が飛ぶ。ゲンやタラの時は、ソルもそんなに厳しくなかったのに。
まあ、ゲンの場合はそれ以前の問題だったけれども。
「せいっ!」
「やぁ!」
「とおっ。」
フォリントは毎回気合の入った掛け声で木刀を叩きつけてくる。
それに合わせて私は腕を伸ばして、払うだけ。
要は、胴体と頭のプロテクターに当たらなければ良いんだから、私は上半身の守りに徹する。
やはり、お互いの動きが地味な分、先程の組手とは違って盛り上がらない。
「うおおぉぉぉ!」
正面から攻めあぐねたフォリントが、円の周りを走り始めた。
回り込んで背中から攻撃する気だな。
私も左足を軸にして、くるくると回る。
絶対に後ろは取られたくない。背中から叩かれても痛くもないだろうが、アウトにはなりたくないし、膝カックンとかされたら嫌だ。そんなんで転びたくない。
フォリントが突然足を止めた。
来る!
「てゃあああ!」
下から掬い上げるように、木刀を振り上げてきた。
私はそれに合わせて肘を出す。
カラカラカラ…
木刀は弾かれ、転がっていった。
「武器を手放すな!しっかり握らんかぁ!」
ソルが顔を真っ赤にして怒る。
「はい!」
フォリントは木刀を拾い上げると、再び円周を走り始めた。
今度は反復横跳びのように動いたり、フェイントを入れてくる。
面倒くさいなあ。
そもそも君、やる気なかったじゃん。
皆がフォリントを応援している声が聞こえてきた。
いつからか、場が盛りあがり始めているじゃないか。フォリントが動くようになって、見せ場ができたからだろう。
「しゃーっ!」
フォリントは応援を受けて、調子にのり始めたらしい。ぐるぐると走りながら、木刀を突いてくる。
そんなに回られたら、こっちも目が回ってしまう。
でも、目を回してやられるとか、漫画みたいな倒れ方したくないなぁ。
登場人物紹介
「フォリント」
種族:人間(コーカ人)
年齢:26
身長:176
体重:86
所属:第一籠城軍将軍直轄部隊
趣味:観葉植物を育てること
好物:鶏皮のピリピリパリパリ揚げ(ツゥカ料理)
備考:
コーカ鉄道を所有する伯爵家の五男。将来は、どこかの駅の社長となり、駅周辺を開発する領主になる事が約束されている。
タラよりも武芸の能力は高いのだが、本気で訓練に臨まないため才能は伸びていない。




