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役所時代を回想している間に、プロテクターの装着は終わっていた。
「この組手のやり方は分かりますか?」
プラが確認してきた。
「一方が木刀で攻撃、もう一方は防御。時間が来たら交代といった所でしょうか。魔法の使用はダメみたいですね。」
見ていただけのコロンが、解説してくれる。
「そうです。頭と胴体のプロテクターに木刀が当たったらワンアウト。防御側は足下の円から出てしまってもアウトです。アウトになったら、一旦、元の位置に戻ります。」
プラの説明を聞いても、この組手にそんなルールがあったなんて気付かなかった。私はコロンほど真剣に見ていないし。
「スリーアウトで交代?」
「いえ。お互い時間まで戦って、アウトカウントの少ない方が勝ちです。」
つまり際限なしの減点方式ということか。
「一番勝った人には、夕食にオマケが付きます。」
なぜかプラは自慢気に言う。
「ぬるい訓練ですね。」
コロンがボソっと呟く。
あれ? 結構、皆さん本気で組手やってると思うんですけどね。いい戦いしてる人もいますよ。
確かに、マンガンの特訓と比べたら、ぬるいと思えるかも知れないけど。
「皆様は貴族の御子息ばかりですから怪我もさせられません。無茶な訓練をするのはマンガン様くらいです。」
プラがそう言うので、王子の言葉を思い出した。
将軍直轄部隊にはリラのお婿さん候補が集まってるんだった。
マンガンの無茶な訓練とは言うが、前回の対空防衛訓練も怪我をする要素はなかった。火傷は魔法ですぐに治るし、キツイのは体力だけ。
ぶつからないようにお互いの距離も取られていたから、転倒でもしない限り、怪我や骨折をすることのない訓練だった。
さすがマンガン。そこまで考えての対空防衛訓練だったのか。
……しかし、あんな訓練はもう御免だ。
「御手柔らかに。オーガの怪力で御子息たちに怪我させないでくださいよ。」
プラに念を押される。
「できるだけ、気を付けます。」
「お願いします。」
プラは子供みたいだが、しっかりしている所もある。お婿さん候補集団の事務をしているのだから、ある程度の実績はあるはずだ。
何歳なんだろう?
「すみません。プラさんって、お幾つなんですか?」
無口モードにしたつもりが、ついつい気を許してしまった。
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。」
コロンに叱られる。
「いいの、いいの。六十過ぎたら、あんまり気にならないですから。」
「ろ、六十!?」
まさかの年上かよ。絶対子供だと思ってた。
ほうれい線や首筋のたるみ皺とか気にならないし、声も少年みたいだし、そもそも性格がお子様…。
「ごめんなさい、失礼なことを…」
まさか、年下だと思ってたなんて言えない。
「若く見られるってのは嬉しいです。うちらホビットってのは、人間と比べると少しだけ長生きだから若く見えるのでしょう。」
プラさんって小人なの? 道理で小さい訳だ。
長命だから若く見えたというより、その身長と、調子に乗りやすい性格のせいでお子様に見えてるんです。
…なんてこと言えないから、笑ってごまかす。
ジリリリリリリリ
丁度、部屋にタイマー魔法の音が響く。
「では、対戦相手を交代しよう。」
ソルが叫ぶ。
「オーガと勝負したい者はいるか?」
シーン
私は不人気ですか。
「希望者が居らぬなら、ワシが指定しようか。……今の組手で勝った者は手を挙げよ。」
半分が手を挙げる。わざと小さく上げている者もいる。
「フォリント、お前が来い。」
「はい…」
中途半端に手を挙げてたのが災いした。フォリントは、ゆっくりと前に出てくる。
彼も、何たら侯爵家の第何子とかなんだろうか。
「では、コロン嬢と勝負したい者はいるか?」
「ハイ!」「ハイ。」「ハイッ」
次々と手が挙がる。
おいおい。コロンは人気だなぁ。
まあ、小さな背丈に侍女の服。組みやすい相手には見えると思う。
君たち、女性を相手にする下心じゃないよな。
「親衛隊を甘く見ないで欲しいですね。」
コロンがボソッと呟く。
目が本気になってないか?
「では、ゲン。お前だ。」
「はい! よろしくお願いします。」
ゲンは、意気揚々と前に出てきた。
彼は、直轄部隊の中では一番若く、一番勢いのある青年だ。
「他の者は、さっきの組手で勝った者同士、負けた者同士で相手を決めてくれ。まだやってない相手を探すんだ。」
ソルは、まるで学校の先生のようだ。
「まず、親衛隊のお手本を見せてもらおうか。」
そう言ってソルはコロンに木刀を渡す。ゲンは円の中に入った。
プラほどではないが、コロンも背が低いので、大人に子供が挑むような構図になる。
「思いっきり来てください!」
「良いんですか?」
「もちろんです!」
ゲンは威勢よく胸を張る。コロンが笑顔を見せた。
ソルが合図をして、組手が始まる。
次の瞬間。
ゲンは円の外に倒れていた。
「はい、ワンアウトです。」
コロンがさらりと言う。ゲンは何が起きたか分かっていない。
「あれ…魔法使ってないですよね?」
「もちろんです。」
ゲンは元の位置に戻り、構える。
「来い!」
今度は、ゲンは円の中で寝転び、胴体のプロテクターにコロンが木刀を突き立てている。
「アウト二つ目です。」
その後も、ゲンはアウトを取られ続けた。
コロンも可哀相になったのか、アウトをカウントするのを途中でやめてしまった。
「貴族出身の新人二年目と現役の親衛隊員では、差が歴然だわ。」
プラがそう言うと、ソルも頷いて組手を途中で止める。
ゲンは泣き出しそうな顔をしている。
「分かったか。どんな相手にも油断しない事が大切だ。」
ソルは、ますます先生のように言う。定年間近の老教師といった貫禄だ。
でも、あれじゃあ油断とかしてなくても勝てないよ。
地下迷宮では防御に徹してたから分からなかったけど、本当はコロンって強いんだな。
登場人物紹介
「プラ」
種族:ホビット(コーカ人)
年齢:61
身長:118
体重:34
所属:将軍直轄部隊事務員
趣味:噂話。話し始めると止まらない。
特技:お菓子作り
家族:夫、子供7人、孫2人
備考:
ホビットの中では大柄な女性。自分をおばさんと自覚しているが、実際の反応は子供っぽい。
職場に話し友達が欲しかったが、みんな貴族の子息ばかりなので遠慮していた。




