74
リラは、バルボアに連れられて会議へ行ってしまった。
そして私は、コロンに連れられて第一兵舎の修練場まで来てしまった。
修練場には、将軍直轄部隊のメンバーほぼ全員が揃っており、剣術の修練を行っていた。ここに居ないメンバーは、リラ将軍の会議の護衛に行っている。
二人一組になって、一人は木刀を振り、もう一人がそれを避けたり弾いたりしている。
「てぃやー!!」
「おおおおおぉぉぉぉっ!」
「やー!」
「っ痛ーーっくない!」
いろんな掛け声が聞こえる。
私が初めて第一兵舎に来たときも、こんな声が響いていたことを思い出す。(※八話参照)
「おぉ、来たか。」
ソルが私を見つけて近づいてくる。その後ろをプラがお供している。プラの身長はコロンよりも小さく、まるでおじいちゃんと孫のようだ。
「魔法の練習が無くなってしまって残念だったな。」
「はい。」
「でも今日は火達磨にならずに済むから良かったな。ハハハハハ。」
ソルが笑う。
プラめ…報告したな。
私はプラを見つめる。
睨んでいるわけではないのだが、プラは少し後ずさる。後ろめたさがあるのか、それとも私の顔が怖いのか。
確かに。居眠りした罰として火達磨になったのだから私の自己責任だ。仕方ないことではある。
でもそれを、いろいろと言いふらすのは違うと思う。
私は、少し仕返ししてやることにした。
「今日は、お尻から魔法が出るのが見られないので残念です。」
「…!」
プラは恥ずかしさで顔から火が出た。
「ん? 尻?」
ソルには何のことか分からないようだ。やっぱり、自分の尻から火炎魔法が出た件は報告してなかったんだな。
プラは顔を真っ赤にして睨み返してきた。でも、私を恐れてか、ソルの後ろに半分隠れている。
この子、面白いぞ。弄りがいがある。
「プラ、尻がどうかしたか?」
ソルがプラの方を振り返る。
ここで細かく状況を説明したり、「ナイストライ」とか言って拍手したりすると、やりすぎだ。
あまり直轄部隊では喋るなとも言われているし、ここまでにしておく。
「私も剣術の練習ですか?」
ソルの興味を逸らす。
「お、そうだそうだ。今やってる組手が終わったら、君たちも入ってもらおうか。」
「はい。」
「それまでは、見学しておいてくれ。」
そしてソルは、プラにオーガ用と人間用のプロテクターを準備してくるように命じる。
鬼教官マンガンが指導していたら、プロテクターなんて使わせてもらえないだろう。ソルの指導で助かった。
そう言えば、ソルは「君たち」って言ってたな。
「コロンさんもこの訓練を受けるんですか?」
「そうですね。一応、身分としては直轄部隊に出向中なので。」
「いつまで?」
「侍女の任を外されるまでです。」
コロンはそう言って、少し笑う。
その笑顔には、寂しさが浮かんでいる様な気がする。
同じ転生者だけど、マンガンには侍女がついていない。いつか、コロンも私の侍女でなくなる時が来るのだろう。
私も何となく寂しさと不安を感じた。
でも、それを気取られぬ様に明るく振る舞う。
「でも、マンガン様の訓練の時は参加されませんでしたよね。サボりですか?」
「あれは他の用事があって……あ、彼女が来ましたよ。静かに。」
プラがプロテクター入りの袋を二つ持ってやってくる。
「あの子には魔法の講義の時に、いろいろ喋ってる所を見られてるんです。」
「じゃあ、気にしなくても良いかもしれませんね。」
コロンはそう言ってくれるが、とりあえず言葉少なめにしようと、頭を切り替える。
「なんで、あんなこと言うんですか!」
プラは早速怒り心頭だ。
私は心の中で「お前の方が先に言ったじゃんか!」と叫ぶ。
「ソル隊長が気付かなかったから良かったですけど、あんな恥ずかしい話を広められたら許しませんから。」
心の中で「私が、話を逸してあげたんだよ!」と思いながら、ニコリとする。
オーガの笑顔は目が笑わないから、知らない人が見ると恐ろしいらしい。
「ひっ…」
プラは怯えて、持っていた袋からプロテクターをボロボロと落としてしまう。
この子は本当に良い反応をする。楽しい。
「あ、あぁ。ごめんなさい。」
私の顔を見ながら、プロテクターを拾い集める。
この「ごめんなさい」は、何に対するごめんなさいなのか。プロテクターを落とした事ですか、私の恥ずかしい話を広めた事ですか。
「あの、これ。プロテクターです。」
ちょっと震えながら、私とコロンにプロテクターを配る。
プロテクターは革張りで、中にクッション素材が入っている。これなら、木刀を当てられても痛くなさそうだ。
「ありがとう。」
私が礼を言うと、プラは明るく顔色が変わる。許されたと思ったのだろうか。
「どういたしまして。」
その時の感情が分かりやすい人というのは、見ていて楽しい。
私が最初の職場で三年目。同じ係に新人が入って来た。そいつも分かりやすい性格だった。
「根牧っす。よろしくお願いします。」
私は、そいつの教育担当に当てられた。制度や業務について説明し、一緒に外回りも行く。
「先輩、マジであんな部屋あるんですね…。」
家庭訪問の帰り道、根牧は明らかにゲッソリとしていた。出発前は「俺、ネコ大好きなんですよ」とか言いながら、あんなに元気だったのに。
「言われたとおり、マスクと使い捨てのスリッパ持ってって正解でした。あの臭いはキツイっす。」
生活保護の受給者の家庭訪問は大変だ。今回は、鬱で就労出来なくなって生活苦に陥ったケース。
ネコを飼っているのだが、ちゃんと面倒見れないから、室内はボロボロ。あちこちに糞が落ちていて、ネコのおしっこの臭いが堪らなかった。
「なんか飲む?」
私は自販機を指差す。
「奢りっすか。ありがとうございます!」
根牧は顔色がぐっと良くなる。
ここで遠慮とかせずに、分かりやく喜んでくれるのが良い。
「じゃあ、ビールで…」
「仕事中です。」
こいつは、すぐ調子に乗る。
プラもよく似ている。前回の魔法の講義で、お調子者だとよく分かった。




