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フリヴニャの肩を借りて、フローリンが木の陰から歩いてくる。王子が去ったタイミングを見計らって出てきたのだろう。
フローリンはまだ土気色の顔をしていて、かなりしんどいようだ。
フリヴニャと並ぶと、同じ赤い侍女の服でもフローリンの服には深い赤色が混ざっているのが目立つ。
「辛いようでしたら、今日は休むといいですわ。」
レウが優しい言葉をかける。
フローリンは何度も謝ったうえで、礼を言う。
「すぐに代わりの者が参ります。」
キナは、そう言うと瞬間移動魔法を開いて、フローリンを送り出す。
「今回の侍女は気絶しなかっただけ偉いじゃない。でも、きっとあの侍女は交代だね〜。」
リラは平然と言う。
前の侍女は気絶したの?
やっぱり生き物の解体なのか。そうなのか?
間もなく別の侍女が現れた。
その侍女は深く丁寧なお辞儀をすると、レウを驚いた顔で見る。
「レウ様…!? すぐに着替えを用意いたします。」
「いえ、構わないわ」
着替え?
よく見ると、レウのドレスの赤色にもムラがある。さっきまでは、綺麗な赤色だったのに、暗い朱色に変色してきている部分があった。
クンクン
気になって、私は鼻を利かす。
…待てよ。レウから漂う良い臭いって…もしかして、血の臭い?
姫様からどうして血の臭いが?
というより、何で私はこれを良い臭いだと感じたんだ? そもそもオーガは香りに鈍感なんじゃなかったか? 王子が気にしてた生臭さって、この臭い?
待てよ…血!?
よく見ると、レウ姫のドレス…もともと白い服が、赤い色で染まっているみたいだ。
生き血で満たした風呂に浸かって、若さを保ったとかいう悪女の昔話が頭をよぎる。
もしかして、この姫様ヤバい?
侍女がタオルを出してきてレウに渡す。レウが頭をゴシゴシとやると、タオルは真っ赤に染まり、綺麗な銀色の髪が現れる。
赤毛じゃない!?
髪の毛も染まってた!?
この銀髪が、ここまでがっつり赤色になってりゃ、王子が娘だと気付かないのも当然か。
「おケガはありませんか?」
侍女が聞く。
「えぇ、返り血だけですわ。」
レウ姫はこともなく答える。
リラとキナは驚きもしない。
コロンとフリヴニャは少し…いやドン引いている。顔が引き攣っている。髪の色の違いには気付いていたけれども、まさか血だとは思っていなかったようだ。
「何の…?」
私はつい聞いてしまった。
聞かなきゃ良かったのに、とすぐに後悔した。
聞いてどうする。聞いてどうなる。
あれだけの返り血なんだ、かなり大きな動物だよ。…動物だよな。生きてたのかもしれない。
「料理で使う牛を解体しておりましたわ。」
「……料理が得意でいらっしゃるんですね。」
私はそう答えるのがやっとだった。
牛か。牛なら納得だ。
いやいや。料理だとしても、姫様が牛を解体なんてするか? できるか?
前の侍女は気絶し、フローリンは嘔吐した。
つまり。エンドルでも牛の解体なんて一般的な事ではないのだ。壮絶な光景だったはず。
「レウちゃんの場合は、目的が料理なのか解体なのか、よく分かんないよね〜。」
リラは平気で笑う。
そんな事をさらりと笑わないでくださいっ!
「ふふふ。室内では汚れてしまいますから、いつも外でやるんですわ。」
いつも…ってことは、しょっちゅう何かを解体をしているのか。
お姫様は、もしかしなくてもヤバい奴です。
レウが侍女にタオルを返す。
レウの銀色の髪の毛は、ドレスの血の赤に映えて美しい。
「皆様、解体の続きを見られますか?」
そう言ってレウは微笑む。
本当に可愛いくて、お人形みたいなのに、今まで会った人の中で一番恐ろしい。
姫のヤバさが加速度的に増加していく。
筋肉好きの王女様が可愛く見えてきたよ。
「あ、いや…。」
私たちがドギマギしていると、フリヴニャが機転を効かせる
「リラ様。もうすぐ会議のお時間です。」
そうでした。今日はあまり時間がないから、仕方ないですよね。
さあさあリラ様、行きましょう。
「もうそんな時間? あの人のせいで、レウちゃんと話せなかったじゃん。」
「残念ですが、またの機会にいたしましょう。」
リラは不満顔だが、仕方なさそうに立ち上がる。
「今日は、とても興味深い魔法を見せていただきましたわ。ありがとう。」
レウは、私に向かって天使のスマイルを見せてくれる。
可愛いっ!
だが、その笑顔には狂気を感じる。
血に塗れた銀髪の秘天使。最凶属性じゃないかな。
「あ、いえ、恐悦至極にございます。」
あらゆる意味での緊張で、自分でもよく分からない敬語を使ってしまう。
なんだ、恐悦至極って。でも、使い方は間違ってはないはずだ。
「近いうちに魔法の先生に来ていただいて、また研究させていただきますわ。王宮から改めて連絡いたしますね。」
「は、はい!」
研究って、魔法の研究だよね。オーガの身体の研究とかじゃないよね。解体されたりしないよね。
「うふふ、楽しみですわ。」
笑顔が怖い怖い怖い怖い怖いっ!
早く帰りましょう。
今回は、キナとコロンが瞬間移動魔法を開く。キナがリラとフリヴニャを、コロンが私を連れて帰る。
「レウちゃん、またね。」
「リラ様、ごきげんよう。」
***
私たちは、リラの部屋に戻ってきた。
リラはフリヴニャに着替えの魔法をかけてもらって、軍服に着替える。
「レウちゃんって良い子でしょ〜。あの人の子供とは思えないわ。そうでしょ?」
これは答えないのが正解だ。
ここで「はい」と答えたら、王子を貶めることになる。「いいえ」と答えたら、リラの気持ちに寄り添ってないことになる。
リラの感覚は理解できないし、共感できない。
王子も王女も姫様も、それぞれに何かが欠落している様な気がする。
私はなんか疲れてしまった。この部屋で寝てたらダメかな。
「コロンさん、私はどうしたら?」
「ソル様に確認しましょう。」
コロンが念話をかける。
「直轄部隊の訓練に参加するようにとの事です。」
サボりは駄目か。
登場人物紹介
「レウ」
種族:人間(コーカ王族)
年齢:19
身長:160
体重:45
所属:王宮・東宮
別称:東宮の姫君
趣味:料理、魔法の研究
特技:生き物の解体
備考:
東宮(=王子)の長女であり、リラの姪。
「ですわ」口調で喋る。
かなり落ち着いた性格だが、いざという時にはパニックになることも。先日の空爆から避難する際には、何人もの親衛隊員を蹴っ飛ばし、押し倒した。




