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赤いドレスのレウ姫は、リラと私を見つけて駆け寄ってきた。
姫からは良い臭いがする。
「うわぁ、これがオーガなんですね。本物は初めて見ましたわ。」
「こんにちは、レウ様。ご機嫌麗しく…」
とりあえず、膝を折って頭を下げる。
やんごとなき人たちへの挨拶なんて分かんないよ。リラ王女の時は喋るなって言われてたから、楽だったな。
隣でキナが怖い顔をしている。
こっちも失礼のないように頑張ってるって!
「堅苦しい挨拶は良いから。」
リラのざっくばらんな言葉が助け舟になった。リラがこういう性格で本当に助かる。
「そうです。この庭は完全プライベートですから、表でやるような儀礼は不要ですわ。」
レウもそう言って、スカートを少し持ち上げると、軽い会釈の様な簡単な礼をする。
そして、おどけた笑顔を見せる。
ちょっ、めっちゃ可愛いんですけど。
もう、これは人形じゃないよ。天使だよ。
いい臭いに包まれた紅の姫天使。最強属性じゃないかな。
「………」
キナのキツイ視線を感じる。
そうですよね。だからと言って、礼儀を忘れるようなことはしません。
「ありがとうございます。」
そう言って私は、頭を深々と下げる。
「ねえねえ花畑、見せてあげようよ。」
リラが私を急かす。
「心得ました。失礼ですが皆様。少しお下がり願えますか。」
十分に丁寧な言葉の……はず。
「楽しみですわ。」
レウたちには、私の身長くらい離れてもらう。私の魔法の効果範囲は半径がそのくらいなのだ。
呪文の言葉を思い出す。言葉自体は何を言っているのか分からないが、意味だけは分かる。
『百花繚乱』
ひょこっ
ぴょこぴょこぴょこぴょこ
呪文を唱えると、私を取り囲むように丸く花が咲いていく。
白や黄色、青や赤の小さな花々。いわゆる雑草の花だ。
繚乱と言えるほどの大きな花は咲かせられない。薔薇とか百合みたいな派手な花が咲かせられたらいいのに。
「こんな魔法初めてですわ。」
レウがしゃがんで、足下に咲いた花を手折る。その隣でリラもしゃがみ込む。
「でしょー。あたしも初めて見せてもらった時、驚いたもん。」
嘘だ。めっちゃ笑ってた。
お腹抱えて笑ってたじゃんか。
「凄いですわ。見てください、これ。」
レウが、少し大きめの石を持ち上げる。
その石から茎が伸びて、花が咲いていた。
「それって凄いの?」
リラが聞く。それは私も聞きたい。
そもそも最初にこの魔法を使ったのが、地下迷宮の中。岩肌に花を咲かせたのだ。
「植物を大きくしたり、成長を早めて花を咲かせる魔法はありますが、何もないところに花を生み出す魔法なんて見たことも聞いたこともありませんわ。」
え、ホントに?
もしかして、この魔法ってレアですか?
「これは…、魔法の先生にも見てもらった方が良いですわ。」
レウの言葉に私は嬉しくなる。
自分が特別だと言われているようだ。
「この魔法が、この国の一助になるよう頑張ります。」
ん。良いこと言えた気がする。
キナもまんざらではない顔をしてくれている。
しかし、王族二人は不満げな面持ちだった。
「でも、何かの役に立つかな?」
と、リラ。
「そうですね…何の役にも立たないですわ。」
と、レウが返す。
まじかぁ。
でも、そうだよなぁ。
お花を咲かせて、まあ綺麗。で終わってしまう魔法だもんな。
戦闘には当然のことながら、平時にも活用が期待できない。
都市の緑化には効果があるかもしれない。と言っても、この程度の雑草を咲かせても、緑化とは言えないよな。
私は落ち込む。
「先生に見せたら、何か活用法が見つかるかもしれませんわ。」
レウが一応フォローを入れてくれる。
なんか…悔しいので、もう一度。
『百花繚乱』
花畑の隙間から、更に花が咲いていく。私の周りは、所狭しと小さな花でいっぱいとなった。
「綺麗ではあるんだけどね〜。」
ちょうどそこへ、兵士に連れられてコロンとフリヴニャが歩いてきた。
リラとレウに礼をする。
「遅くなりました。」
「かなり時間かかったじゃないの。」
リラはイタズラっぽく笑う。
「リラ様と一緒でなければ、この庭に入るには近衛兵の許可がいるんです。知っておられますよね。」
フリヴニャは、呆れながら答える。
同じリラの侍女だが、王女付きの侍女であるキナと、将軍付きの侍女であるフリヴニャでは立場や権限が異なる。
キナは王宮の侍女なので直接この裏庭へ入ることが可能だが、親衛隊員であるフリヴニャやコロンにはそれが許されていない。
だから彼女たちは、王宮で裏庭に入る許可を貰う必要がある。
許可は近衛兵が出す。近衛兵は、籠城軍や進攻軍からは独立した王宮に所属する兵士たちである。
「それにしても、遅くなかった?」
「確かに、いつもより許可をいただくのに時間がかかりましたが。」
「まさか…」
リラは何か心当たりがあるようだ。
そこへ、林の中から侍女がふらふらと現れた。レウが出てきた方向からだ。
彼女の顔には、赤い飛沫が付いている。
「う…。うぅ。」
その侍女はリラたちを見て礼をするが、かなり気分が悪そうだ。
「フローリン、後で構いませんから、魔法の先生に連絡を取ってくださいね。」
「…はい、レウ様。」
レウが指示しているから、フローリンはレウの侍女なのだろう。
それにしても、今にも吐きそうな顔色をしている。
「あの…、大丈夫ですか?」
私が思わず声をかけてしまうほど、フローリンは弱っている。
「うぅ。申…し訳ございませっ…」
フローリンは木の後ろに走っていった。
苦しそうで不快な嗚咽と、液体が落ちる音が聞こえる。
慌てて、キナとフリヴニャが助けに行く。
レウは、花畑を見たままで私に説明してくれる。
「彼女、解体を見てたら、堪えらなくなってしまったんですわ。」
また「解体」って言った!!
何なんだ、解体って?
登場人物紹介
「キナ」
種族:人間(コーカ人)
年齢:28
身長:152
体重:42
所属:王宮・リラ王女担当
特技:コロンほどではないが空間魔法が得意。歩く倉庫。
好物:母の手料理
座右の銘:親しき仲にも礼儀あり
備考:
リラ王女の侍女。小さい方。
リラの侍女になって四年。リラ王女の暴走には割と慣れている。




