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私は覚えたての念話魔法をいろいろ試してみる。
『複数同時に会話もできるんだ。』
『ちゃんと顔が思い浮かべられるなら、何人とでもできるわ。』
グループ通話もできるなんて、高性能だな。
『これ、思った事全部が会話筒抜けにならないですよね。』
『大丈夫よ〜。ちゃんと気を付けたら嘘もいけるわ。』
『リラ様、嘘はやめてください。』
リラの発言をコロンが注意する。
どっちの意味だ? リラが嘘を吐くことを咎めているのか、今のリラの発言が嘘なのか…いや、嘘を吐けるが嘘なら、本当だから……ん? 分かんなくなった。
同じ部屋に居るのに、みんな念話で話している。
楽しいな、この魔法。
こんなに簡単なら、地下迷宮で魔法使えるようになってから、すぐに教えてくれたら良かったのに。
あの時なら、転生者組やルピアとも連絡取れるようになっていたはずだ。
『でも、顔をイメージするのが苦手だったり、思った事が全部出てしまう人もいるんです。』
おお。クーナは、念話だと説明モードじゃなくても淀みなく話せるんだな。
『そうそう。だから、念話魔法使わない人も居るよね〜。』
『母です…』
そういや、クーナのお母様が壮大な誤解をしたのは、念話が苦手なせいだとか言ってたな。
会話は重要。意思疎通を図るには、まず会話からだ。
念話魔法はとても便利。そして念話ですら、ちゃんと翻訳してくれる翻訳魔法も便利。
『あ、そうだわ。』
リラが突然なにかを思い出した。
「レウちゃんが、花畑を作るオーガを見たいって言ってたのよ。今からどう?」
レウちゃんって誰?
花畑を作るオーガって誰?
…それは私か。
沢山の花々を咲かせる『百花繚乱』の魔法をリラに披露したのは、つい先日。
それからリラは、私をそんな風に見てたのか…。見せ物の一発屋みたいに言いふらしてるんだろうなぁ。
で、
「レウちゃんって誰ですか?」
「あたしの姪。」
リラ王女の姪…ってことは王族だ。
『レウ様は東宮の姫君、つまり王子殿下の御息女になります。』
コロンが説明してくれる。
「ありがとうコロンさん。でも、念話でなくても大丈夫です。」
『ああ、そうでした。つい。』
それすら念話で返してしまったコロンは、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「レウちゃんは歳が近くて妹みたいなの。お人形さんみたいで可愛いし。」
東宮の姫君ってことは、かなりの重要人物じゃないか。
私なんかが会ってもいいものなのだろうか。
…あ、リラの方が偉いんだっけ。王位継承権二位で将軍だもんな。
リラって全く偉そうじゃないから、忘れてたよ。
「どう? 今から。」
「今からは駄目ですリラ様。一時間後には会議ですよ。」
フリヴニャがリラを止める。
「大丈夫だって。魔法を見せるだけだし、半時間くらいで終わるから。」
「今日の会議は遅れられません。」
「絶対に間に合うって。お花咲かせたら帰って来るし。」
そんな、人を花咲かじいさんみたいに。
「取りあえず、レウちゃんは暇かな〜?」
リラは念話魔法で連絡を取る。
フリヴニャは複雑な顔をしている。
「私に拒否権はないんですかね。」
「ないですね。」
コロンが即答し、私に憐れみの目を向ける。
リラの念話は終わったらしい。
「キナ、王宮の裏庭まで。」
「仰せのままに。」
侍女の小さい方、キナが瞬間移動魔法を開く。
私はリラに引っ張られ、渋々立ち上がる。
フリヴニャも付いてこようとすると、キナが少し泣きそうな声を出す。
「無理です。リラ様とオーガを運ぶので一杯です!」
「じゃー、フリヴニャはここで待ってて。」
リラは手を振る。
「駄目です。リラ様の侍女ですから追いかけます。時間になったら連れ帰りますからね!」
フリヴニャも瞬間移動魔法を開く。
「はいはい。ちゃんとついて来てよ。」
リラと私は、キナの魔法に乗って消える。
次の瞬間、フリヴニャも消える。
部屋に残されたクーナとコロン。二人はすごすごと将軍の居室を出る。
「お、置いてかれてしまいましたね。」
クーナからすれば、友達の部屋に遊びに来たら、その友達が自分を置いて外に行ってしまったという状況だ。
クーナはそんな気分をコロンと共有し、慰め合おうとする。
「わたしは、まだオーガの侍女ですから。」
そう笑って、コロンも瞬間移動魔法を開く。
「え?」
コロンも消えた。クーナは一人ポツン。
そこへ、隣の待機室からソルが出てきた。
「お、エルフのお嬢ちゃん。もう、お帰りかな?」
「あっ、はい。まだまだ沢山、け、研究があるから、帰ります。ありありありがとうございました。」
クーナは深い溜め息を吐きながら研究室へと帰っていった。ちょっと泣いてた。
***
王宮はコーカ城の真ん中にある。
正確に言うと、王宮を囲むように後からコーカ城が建てられたのだ。
私たちが居るのは、その王宮の裏側に広がる庭園。
小さな川が流れていて、東屋もある。
草花だけでなく、大きな樹も植えてあり、庭というより、ちょっとした林のようだ。
「レウちゃ〜ん!」
リラが、姪っ子を探しに行く。
「裏庭には、王族と特別に許された者しか入れません。」
キナがそっと教えてくれた。
私は、特別に許された者ということなのだろう。
…私は特に許されたくもないんですけど。
一発芸見せさせるために、無理矢理連れてこられただけだしなぁ。
「リラ様ぁ。」
樹々の間から返事が聞こえる。
間もなく、林には似つかわしくない、真っ赤なドレスの少女が出てきた。
「お待たせしました。」
透き通るような白い肌に、大きな青い瞳。長いウェイブの効いた赤毛に赤いドレスが似合っていて、本当にお人形の様だ。
「レウちゃん。あなたこんなトコで何してたの?」
「ええ、ちょっと解体を。」
「あんまり無茶しちゃダメよ~。また侍女変わっちゃうから。」
そう言ってリラとレウは笑う。
でも、私は聞き逃さなかった。
…今、確かに「解体」って言いましたよね!




