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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
12章:魔法陣をぐるぐると

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「せっかくですから、休憩がてら、皆様にも呪文についての豆知識を。」


 ルーブルは私の手を離すと立ち上がり、兵士たちの練習を一旦止めて座らせる。


「地域によって魔法文化にも差があります。東洋では紙などに魔法を封じ込める『符』と呼ばれるカードが主流ですし、南洋の国々では、今でも呪文の方が多く使われています。」


 ルーブルは学校の先生のように、行ったり来たりしながら講義を始めた。


「呪文を多用することを、魔法文化的に遅れているように言う人も居ますが、決してそんなことはありません。」


 ルーブルの説明に熱がこもり始める。


「歌うように唱えられる南洋の呪文は、聞いていて、とても美しいです。また、多くの人が合唱することで協力して、強力な魔法を発動することができます。さらに同時に二つの音を出せる達人も居まして、呪文で二つの魔法を同時発動したのを見させていただいた時には……」


 いかん…意識が飛びそうだ。

 まぶたが重い。


 飽きてきたとこに、座学の講義。

 拷問だ。


「では、氷結魔法の呪文を南洋流の詠唱法でお聞かせしましょう。」


 あ、ちょっと面白そうなやつかな。

 頑張れ、まぶた。


 うわぁ…アヴェ・マリアみたいな歌が聞こえてきた。

 南洋流の詠唱法って癒やし系の曲かよ



 ……なんか、皆盛り上がってるな。

 すごかったのかな。



     見なきゃ



   あれだ。



 ?なんだっけ、




 魔法…





***


 突如、私は炎に包まれた。


()っつーー!!!」


 私は(うつつ)に引き戻された。


「大丈夫です。オーガには火炎耐性がありますから。」


 ルーブルの冷たい声が聞こえる。


「ぎゃーー!!」


 私は熱さに体を丸くする。

 火炎耐性があっても、熱いものは熱いんだって!


「皆さん、今までの練習を思い出してください。できるだけキレイな円で魔法陣を描くのです。」


 ルーブルがそう言うと、四方八方から炎が飛んできた。

 皆が私を囲み、魔法の炎をぶつけているのだ。


「嘘でしょ…」


 私の来ていた上着はあっという間に消し炭になる。


 なんだ、このイジメ。


「上官の講義中に居眠りするような方には相応の罰…もとい、精神の鍛錬が必要です!」


 ルーブルがお怒りの声で叫ぶ。

 忘れてた。ここは軍隊であって、学校じゃない。


「すみません!」


 謝るしかない。

 しかし、炎の玉はボンボンと私に飛んでくる。


「すみま、熱っ!」


 熱湯のシャワーを浴びているような感じだ。


「皆さん、いいですね、いいですよ。キレイな魔法陣がイメージできているので、正確に炎が飛んでいます。」


 直轄部隊のプラも、嬉しそうに炎をぶつけてくる。

 私にぶつける事を楽しんでいるのではなくて、上手に魔法が出せることに喜んでいるようだ。

 …そうだと信じたい。


 今の私は、魔法で落ちこぼれた兵士たちの自信につながっているのか。

 それなら、それはそれで悪くはない。


 …とは思いません!

 ちくしょう。水流魔法で炎を消したり、微風魔法で炎を吹き飛ばしたりできないだろうか…


 しかし悪いのは寝落ちした私だ。

 耐えて、謝り続けるしかない。


「すみませ…ブッ。」


 顔はやめてくれ。

 炎のシャワーの熱さにも慣れてきた。


 私は立ち上がる。


「居眠りしてしまい、申し訳ございませんでした。」


 頭を下げる。


「では皆様、大きい魔法陣にも挑戦してみましょう。」


 だが、ルーブルは私を無視する。

 くそう、これが軍隊のしごき(イジメ)なのか。(←個人の感想です。)


「べふっ。」


 今度は大きな火の玉が飛んできた。

 だから、顔はやめてくれって。


 調子に乗ったプラが、とても大きな魔法陣を展開する。もともと()っこいプラだが、その身長と変わらないくらいの大きさだ。

 火炎魔法を発動する。


  ボフォン!


 その瞬間、変な音がして、プラのお尻のあたりから大きな炎の玉が出る。


 失敗。おそらく、魔法陣が大きすぎて歪んだのだろう。

 その様子に、周りの兵士から失笑が起きる。


 プラは恥ずかしさで涙がこぼれ落ちた。小さな体が、より小さくなる。


良い(ナイス)挑戦(トライ)です!」


 突然、ルーブルが拍手でプラを褒め称える。

 補助講師の教導隊員三人も拍手喝采だ。


「訓練では限界に挑戦して自分の限界を知っておくことが大事です。今の失敗を恐れない姿勢、とても大事ですよ。」


 プラは単に調子に乗ってコケただけだと思うんだが。


 周りの兵士達からも拍手が湧き起こる。私も手を叩く。

 プラは涙が止まり、今度は別の恥ずかしさで笑う。


「戦場で無理して今のような事が起きたら、味方に大損害が出てしまいます。自分のできる事をしっかり把握しておく。これが重要です。」


 ルーブルが、バチッと決めた。


「では、今日はここまでにしましょう。」


 解散。

 私は帰ろうとするルーブルに謝りに言った。


「申し訳ございませんでしたっ。」

「転生前の社会ではどうだったか知りませんが、ここではありえません。次はありません。」

「分かりました。」


 ルーブルは今までで最高にキツイ視線をよこす。


 うゔっ。嫌われてしまったかもしれない。


 私は思わず、腕で自分の顔を覆う。


「手を…」


 ルーブルは突然、私の手を掴むと、うっとりと撫で回した。


「三日後の授業では、頑張って出来るようになりましょうね。」


 今度は優しい言葉をかけてくれる。ただ、私の顔を見ずに、掌に向かってだ。


 何なんだこの先生。

 さっきまで睨んでたのに、突然デレた?

 あれか、ツンデレか?

 でも、何か違う気がする。


 しばし私の掌を堪能すると、ルーブルは我に返ったように私から離れた。


「良いですか、次はないですからねっ!」


 そう言って、走って帰って行った。


***


 三日後。

 次はなかった…


 授業自体ができなくなってしまったのだ。


 ルーブルの『次はないですからね。』って、そういう意味で言ってたわけじゃないとは思うんだけどな。


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