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本来は、話しながら飲みながら、ゆっくりと食べるべきなのだろうが、残念ながら私たちはお腹が空いていた。
食事のペースが他のテーブルの2倍くらい早い。あっという間に最後のデザートとなった。
給仕のおばちゃんからデザートの皿を受け取る。
「ああ、どうも。ありがとう。」
「!? オーガが普通に喋った!!」
おばちゃんは驚いて、トレイごとデザートの皿を落としそうになる。なんとか体勢を立て直し、ギリギリで持ちこたえる。
このおばちゃん、いいリアクションをするなあ。
ブロンズが説明を入れる。
「俺たちは転生者だからな。」
「どおりで。オーガにしちゃあ、行儀が良いと思ってたんだ。」
そう言って、おばちゃんは笑う。
「この店にオーガがよく来るんですか?」
「いやー、滅多にないね。前に来たのは何年も前だ。」
本当のオーガってどんな感じなんだろ。
「あんたらがちゃんと来てくれたから、予約の食材が無駄にならなくて良かったよ。といっても、あんたにはその量は足りなかったんじゃない?」
確かに足りない。今からラーメン二、三杯はいける。
そこへウギアがやってきた。
「おかしいな、オーガのために一人分余計に頼んだはずだが。」
その分をルピアが食べたのか。
どおりで一人増えたはずなのに、皿の数がピッタリなわけだ。
ウギアは、ルピアが混じっていることに気付いていない。
「「「かんぱーい!!」」」
さらに酔わせてごまかす。けど、ちゃんと会計はしてくれよ。
小首をかしげるウギアを尻目に、私たちはデザートに取り掛かる。
冷たいお皿に乗った半球。黄色と茶色の縞模様。見た目はアイスクリーム。
早速スプーンを入れてみる。
そんなに固くない。シャリっと凍った音がして、スプーンの上で溶け始める。
シャーベットかな。
パクっ
おや?
シャーベットというより、シャリシャリのかき氷。しかもこの味、これはティラミスだ。
見た目はトラ柄のシャーベットなのに、実態はティラミス味のかき氷。
甘さと冷たさが、さっきのフライドチキンと餃子鍋の辛さで温まった体を冷まし、舌を癒してくれる。
「甘いですね。」
ルピアは満面の笑顔で微笑む。
確かに甘いが、そこまで甘ったるくはない。口当たりはさっぱりしている。
こんな食材を私は知らない。きっと、エンドルならではの食べ物だろう。
「そうだ、ルピアさん。神様にはいつもお菓子を渡すんですか?」
甘い物を食べたから、カボ様に「粉雪なんたら…」のお菓子をお供えしていたのを思い出した。
「いいえ。神々はそれぞれ好きなものが違うので、合うものを奉納します。」
「へー。」
「カボ様は甘い物ですが、ネオ様はお酒ですし、リチ様は舞を奉納すると喜ばれます。」
「いろんな神様がいるんですね。」
「神々もそれぞれ性格が違いますから。…たまに、何やってもダメな神もおられます…」
ルピアが遠い目をする。最近ダメだった事があったんだな。
「神様が好きなもの全部持って行くんですか?」
確かルピアは、どの神様がいるか分からない、ランダムエンカウントだと言ってた。ならば、お供えを全種類持っていかなければならない。
しかもあそこは空間魔法が使えないから、全部手で運ばないといけないことになる。
「そうです。神々が満足するもの全てを持ちます。神官って意外に体力が要るんですよ。」
バリヤー装置付き観光ガイドだとか思っててごめんなさい。ちゃんと先導の仕事をしてました。
「それより、エレクという神様の方が気になります。」
今度はルピアの方から質問がきた。
本当にエレクって名前だったか自信がなくなってきた。違う名前だった気もするが、思い出せない。
「名前違ったかなぁ…」
「その神に魔法習得の話をしたんですよね。」
「ええ、断られましたけど。」
その代わり、オンラインゲームの話で盛り上がったのだが。
「カボ様が『聞いている』と仰られました。おそらく、その神から頼まれたのだと思います。そうでなければ、あんなにスムーズに話が進まないはず。」
ルピアは白い魔法陣を開く。
カボ様にお供えするときに使ってた魔法陣だ。
『うん、もう聞いているよ。転生者に魔法を使えるようにして欲しいんでしょ。』
『…あ、はい。』
地下迷宮でのやり取りが聞こえてくる。
この魔法、ボイスレコーダーなのか。神様の話を録音して報告するんだな。
「もしかしたら、本当に未確認の神とお会いされたのかも知れません。今回、御使いの量が多かったのも関係あるのかも。」
ルピアが詰め寄ってくる。
大きな目がキラキラとしている。そんなに近いとドキドキするじゃないか。
「さあ皆様、時間だ。そろそろ帰りましょう。」
突然、ウギアが宴の終わりを告げる。
「え…もう?」
飲み放題コース付きにしては時間が短すぎないか。かなり遅い時間だし、仕方ないのかな。
慌てて、マンガンの分のデザートをいただいてしまう。
ブロンズとテルルは「まだ飲めたのに」等とブツブツ言いつつ、引き上げる準備をする。
私は、宿へ運ぶためにマンガンを背負う。大きくて柔らかいものが背中にあたるけど、仕方ないことだ。
ルピアが背負うのを助けてくれる。ついでにマンガンに回復魔法をかけている。
「お姉様は大丈夫でしょうか?」
「オネエサマ? 誰のこと?」
「あ、ええと、マンガン様です。」
私とブロンズは大笑いした。
「彼も転生者ですよ。魂は、四十のおじさん。」
「え?…えー!?」
ルピアは驚きで二の句が継げない。
でも、あれだけの判断力と決断力を持つマンガンだから、幾つか納得できる所もあるのだろう。あと、坊主頭だしな。
「ナ、ナルホド。ドーリデ…」
そう言うのがやっとのルピアは、目が点になっていた。
ウギアに会計を任せ、一行は隣りにある宿に戻る。
宿の前でみんなでさよならを言う。
「ルピアさん、ありがとう。」「大変だったが楽しかった。」「またな!」
「コチラコソ、アリガトウゴザイマシタ。」
ルピアは一礼して帰って行く。それをエスクードが神殿まで送る。
「彼女、大丈夫かな?」
憧れのお姉様がおっさんだった…。それはショック強いよな。早く立ち直れると良いけど。
コーカ王国料理講座・番外編
「ツゥカ料理」
ツゥカ公国の料理はスパイシーな辛さで有名。普通に食べていても喉が渇くので、酒が進む。
また、野菜を沢山使う料理も多く、ヘルシーだと若い女性にも人気。
今回の居酒屋で出された料理のうち、温野菜のサラダ、チキン、餃子鍋がツゥカ料理起源だが、フライドチキンにツゥカ風の味付けをしたのは、この店のオリジナル。
日中は、フライドチキンだけのお持ち帰りもあるほどの人気料理。




