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待ちに待った晩御飯!
それぞれがテーブルにつく。
私とテルル、ブロンズ、マンガンの転生者組、エスクードとコロンたち侍女三人組、親衛隊の兵士四人組に別れて座る。
ウギアは一人、カウンターに戻る。
「ちょっと狭いね。」
私の体が大きすぎて二人分の席を取ってしまうので、私たちの組だけ六人掛けのテーブルに変えてもらう。
ルピアは私の正面、マンガンとブロンズの間にこっそり座る。
ウギアはカップを持ってエスクードに聞く。
「任務は成功したんだろう?」
「もちろんです! 皆様、魔法を習得しました。」
「なら良し。飲もう!」
そう言って一人酒を飲む。
楽しそうだなぁ…っていうか、一人で乾杯してんじゃないよ。
せめて全員の飲み物が揃ってから乾杯しようよ。
「腹減ったぞ!」
ブロンズが少々お怒りだ。
すかさず、給仕 が飲み物と小鉢を持ってきた。
飲み物は泡の出るお酒。よく冷えている。
仕事終わりはビールで一杯というのは、どこの世界も同じらしい。
ルピアは水をもらう。
ウギアが、新しいお酒の入ったカップを高く掲げる。
「皆様お疲れでした。どうぞ、ゆっくり食べてくれ。」
別にお前が準備したわけじゃないだろうに。
あ。でも、注文と会計は彼がやってくれるのか。
ウギアは更に続ける。
「さあ今夜は飲み放題だ。上官先輩仕事の関係は無視で飲んでくれよ。」
ウギアが、一気にカップを空にする。これは無礼講で良いってことなのかな。
少なくともウギアが挨拶の長い人でなくて良かった。
「「「かんぱーい!」」」
転生者組みんなもカップを傾ける。
うまーい!!
ビールの様な苦味はないが、疲れた体に冷たいお酒が染み込んでいく。
***
最初の料理は、豆。…多分、豆。
白、赤、黄、緑、黒の色とりどりの豆の煮物が人数分の小鉢に入っている。
匂いはあまりしないが、お腹を鳴らすのには十分だ。
「いただきます!」
私はスプーンを持……あ。
スプーンがひん曲がってしまった。
「コロンさん! スプーンが要ります。」
「良い良い、皿からそのまま食べてしまえ!」
マンガンがそう言うので、お言葉に甘えて、小鉢を口に当てて豆を流し込む。
「今ならどれだけでも食えるぞ。」
ブロンズもワニの口を大きく開けて、小鉢から直接食べる。
豆の食感が、種類によって違う。
口の中で様々な食感が楽しめる。このコリコリした硬めの豆が美味しい。
全部口に入れてしまったから、どの色がどれとか分からなくなってしまったのが残念だ。
豆に味がしっかりついていて、普通に美味しい。空腹だから余計に旨い。
「旨いなぁ。」
マンガンも豆を噛みながら、しみじみと言う。
「はい、次はサラダです。」
給仕が次の皿を持ってきた。
今度は大皿に山盛りのサラダだ。ルピアが小皿に取り分けてくれる。
コロンがそっと、ダマスカス鋼で作られたスプーンとフォークを置いてくれた。
「ありがとう、コロンさん。」
「沢山食べてくださいね。」
サラダと言っても、温野菜のようだ。ブロッコリーやキャベツ、人参みたいな野菜。これらを蒸したのだろう。
生野菜独特のパリッとした食べ応えはないが、野菜の甘味が感じられて、これはこれで良い。
「昔からこれが苦手なんだ。」
「何でもバランス良く食べないと。体に良いんだから。」
ブロンズが人参(のようなオレンジの根菜)を皿の端に避けたのを、テルルが注意する。
よく見ると、ルピアの皿には人参が入っていない。この子、取り分ける時に入れなかったな。
よし、いじってやろう。
「ルピアさんも、その野菜苦手ですか?」
「あ…、え…バレました? どうしても苦手なんです。」
「一緒だな。」
「ははははは。」
みんなで笑う。
さっきまで、地下迷宮の中で生きるか死ぬかをしていたとは思えないほど、みんなリラックスしている。
楽しい。
続けて、それぞれに焼き魚の乗った皿が配られる。
焼き魚の身をフォークでほぐす。小振りな魚なのに、その身の色はオレンジがかった桃色。赤身とは違う独特のサーモンピンク。
もしかしてと思いながら、フォークで口に運ぶ。
この色、この味、この脂の乗り具合。
……鮭じゃないか!
少し塩味が強めに効いてて、酒が進む。
焼き鮭なんて食べたのは久しぶりだ。だが、こんな小さな魚じゃ物足りない。
今なら、新巻鮭一本でも食べ切れそうな気がする。
「ぷはぁ〜。」
マンガンが美味そうに飲む。
テルルは嘴なので少し飲みにくそうだ。
「君らも飲むだろ。」
マンガンが給仕を呼び止め、私とブロンズの分もお酒のお代わりを頼む。
「ルピアもお酒少し飲みたいです。」
ルピアがマンガンにそっとお願いをする。だが、
「未成年に酒はダメだ。」
「異世界の法律を持ち込まないでください。」
「ダメなものはダメ。自分の目の黒いうちは許さん。」
マンガンは金髪碧眼である。
「ルピアはもう十六ですよ。」
「まだ十六だ。彼女にはフルーツジュースを。」
取り付く島もない。
すぐにお代わりのカップがやってくる。
「「「かんぱーい」」」
転生者組はカップをぶつけて盛り上がる。
ルピアや周りのテーブルの面々は目を点にしている。エンドルにはこんな文化がないのかな。
それがなんだか面白くて、もう一回カップをぶつける。今度はルピアも一緒だ。
「「「かんぱーい」」」
そして笑う。
みんなで飲むのが楽しいなんて初めてだ。役所にいた頃は宴会なんて苦痛でしかなかった。
「「「かんぱーい」」」
兵士組も真似を初めた。彼らもカップをぶつけて酒を飲み干す。
「「「かんぱーい」」」
ちょっと離れたテーブルの若者たち(エルフっぽいから、私よりも年上かもしれないが。)も真似る。
すぐに店の中で乾杯が流行り始める。
ウギアがわざわざ私たちの席まで来た。なみなみと酒の注がれたカップを持って。
お互い見合わせ、笑う。
「「「かんぱーい!」」」
なんだ…ウギア、楽しい奴じゃないか。
***
この店の名前が「かんぱい」に変わるのは、数ヶ月後のことである。
※1 給仕
料理の注文を取ったり、料理をテーブルに運ぶ仕事をする人。
ここでは、ウエイター・ウエイトレス。要はホールスタッフ。




