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私の足元の周りに色とりどりの数十の花が咲き誇った。
コロンがそれを見て喜ぶ。
「まあ、綺麗。」
まあ綺麗、じゃないよ。何、このお花畑。しかも鑑賞用の花じゃなくて、雑草が咲かせる小さな花ばかり。
初めての魔法が、こんな花を咲かせるだけの魔法だなんて。
『百花繚乱』の元々の意味は花がいっぱいだから、間違いじゃない。
間違いじゃないんだけど…なんだかなぁ。
私は足元の花を一輪摘んで、エスクードに聞く。
「これ、凄いんですかね?」
「どうでしょう…。」
エスクードも褒め方が分からず、顔がひきつる。
少なくとも戦場で役に立つ魔法ではなさそうだ。
どうせなら、もっと派手な魔法が良かった。エターナルフォースブリザードだとか、邪王炎殺黒龍波だとか。
いや…攻撃系じゃなくても良い。テルルの防壁魔法とか怪我しなさそうで最高だし、束縛魔法とかも身を護るには使えそうだ。花じゃなくて、蔦みたいのがビュルビュルって伸びて相手を締め付けるとかなら格好良いだろうな。
私は手の中にある小さな花を見る。
「これは…役に立たないですよね、はははっ。」
「魔法を使えるようにはなっていますので、これからいろんな魔法を覚えればいいんです。」
コロンがやっとフォローしてくれた。
「みんな終わったね。」
カボ様がそう言うので、ルピアはまた畏まって長いお礼を述べる。
「終わったら入口まで送れって言われてるから、みんなを送るね。」
「は?」
私たち全員が、カボ様の言っている事を一瞬理解できなかった。
「じゃあね。」
カボ様がそう言った直後、気がつくと私たちは地下迷宮の一階にいた。
映画で使われた部屋だ。
イベントが済んだら入口までワープしてくれるのか。なんて親切設計なゲームなんだ。
「これで任務は終わったってことかな…。」
「そのようですね。」
私が話しかけると、ルピアがホッと一息つく。
「道中の苦労に比べると、最後は呆気ないというか…」
「サブとして何度も迷宮に入りましたが、今回みたいなイレギュラーは初めてです。」
私は全部が初めてで、どれがイレギュラーな事だったのか分からないよ。
「ルピアさんも、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
ルピアは服装を整え、皆に声をかける。
「さあ、神殿へ戻りましょう。」
さっき休憩を入れたばかりだったので、みんなの疲れ自体は大した事はなかった。
ただ、お腹は空いた。あと、緊張が解けたのか、やたらあくびが出る。
出発の時の会議室へと戻ってきた。
待機していた神官たちが出迎えてくれる。
「皆様本当にお疲れ様でした。もう真夜中を少し過ぎています。」
どおりで眠たい訳だ。
午後から開始するんなら、せめて三、四時間くらいの内容にしてくれよ。
こんなに時間がかかる冒険なら、朝から迷宮に入るべきだよなぁ!!
深夜残業代に危険手当も必要だ。
あと、説明不足補償も付けていただきたい。
「これから宿に向かいましょう。宿には先にウギア様がいらっしゃいます。」
エスクードが皆にこれからの予定を伝える。私たちは防具を脱いで、軽装に戻る。
あー、早く風呂に入りたい。
「この辺りは、隣国のツゥカ料理が食べられるからな。」
マンガンが嬉しそうに言う。
そう言われると、余計にお腹空くじゃないか。
ルピアが先輩神官に報告をしている。
「今回は不測の事態が多く、想定以上の時間が掛かってしまいました。」
「そうです、通常の三倍の時間がかかっています。あなたには先導はまだ早すぎましたかね。」
先輩神官のおばさんは、キツく言う。
あれだ、お局様タイプの人だ。
そうか…ということは、「通常」なら晩御飯前には帰れたのか。
「いえ……、あ、はい…そうかも知れません。」
ルピアは下を向く。
肩が震えている。少し泣いているのかもしれない。
「嬢ちゃんはしっかりやっていたぞ。」
ブロンズが助け舟を出す。
「彼女に何度助けられたことか。」
エスクードも口添えする。
「ああ。自分が前回迷宮に入った時と怪物の量が桁違いだった。護衛が倍いても足りないと思う。」
マンガンもルピアを擁護する。ルピアの顔が明るくなる。
「……まぁ今日はもう遅いので、状況説明は明日聞きましょう。今夜はゆっくり疲れを癒やしなさい。」
そう言ってお局様は眠そうに下っていった。
「皆様、ありがとうございます。」
ルピアは涙ながらにお礼を言う。
「君はもう終わりだろう? これから自分たちと晩飯一緒に食べないか。」
マンガンが食事に誘う。
「はい、喜んで!」
見た目は女の子同士が食事の約束をしているだけだが、中身は四十過ぎのおっさんが若い娘をナンパしているのだ。真実は恐ろしい。
マンガンは、単に戦友としてルピアを迎え入れているだけなのだろう…多分。
私たちは神殿を出て、夜道を宿へ向かった。
***
「随分、遅かったですなぁ。」
宿では上機嫌のウギアが出迎えてくれた。
酒臭い。
この時間までずーっと飲んでいたらしい。
「さあさあ、皆様お疲れだ。食事にしましょう。酒もたーんとありますぞ。」
ウギアは嬉しそうに、皆を宿の隣にある食堂に案内する。
こいつは今日一日何の仕事してたんだ?
私たちが死にそうな思いをしている中、酒をかっ喰らっていたのだと思うと怒りが湧いてくる。背が低い割に小太りで、蹴飛ばすのにちょうど良い形だ。
「こっちです。」
ウギアの後ろについて、食堂の奥へ進む。
こんな時間でも、まだ酒盛りをして騒いでいる若者、つまみ片手に管を巻いている老人たち、端っこで一人酒を飲む妙齢の女性等、まだ何人かも客がいる。そこそこ賑やかな居酒屋だ。
いい匂いがしてきた。
「お腹が空きましたね。」
コロンの意見に、私は激しく同意する。
食堂の一角には、私たち用に予約された席が準備されていた。
四人掛けのテーブル三つ。
ウギアはテーブルの隣のカウンターで飲んでいたらしい。いろいろな色の酒の残りが入ったカップが並んでいる。
「取りあえずの料理は注文しておいた。」
ウギアが指差した厨房からは料理の音が聞こえてくる。
包丁で葉物野菜を切る音、油で揚げる音、鍋とお玉がぶつかる音。
さらに各自の腹が鳴る鳴る、大合唱だ。




