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 どうやら私は、これから兵士長とやらの面談を受けなければならないらしい。

 そのための着替えなのだという。


「着替えはお手伝いいたします。」


 コロンは袋から次々と服を取り出していく。そのたびに袋の中でゴトリと重そうな音がする。

 袋の中には、まだいっぱい入っている。人が一人入っていても、おかしくないくらいの大きさだ。


 あの袋の中身を全部装備することになるんだろうか…。そうだとすると、かなりの重装備になりそう。

 今までに、そんな大量の服を着た事なんてない。このオーガの体には、あのくらいが必要なんだろうか。


「採寸してありますから、お体にぴったり合いますよ。」


 いつ採寸したんだ。転生する前?それとも寝てる間?

 寝てる間にいろいろ計られてた、とかだったら嫌だなぁ。ぐっすり寝てたし、気がつかなかったかも知れない。


 コロンはそそくさと私の服を脱がせる。そして下着だけにされてしまった。


「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。」


 コロンは笑うが、私はどうしても手で体を隠そうとしてしまう。


「いや、やっぱり気になりますし。」

「逆に堂々としてた方が恥ずかしくないですよ。」


 まず厚手の布の服を着せられる。麻布みたいなゴワゴワした生地だ。

 色も薄い灰色、アイボリーっぽい色だ。


 …なんていうか、ファンタジーの奴隷とかが着ているような色の服。

 まあ、今の自分にはとても似合ってるんだろうな。

 ため息しかでない。


 サイズはピッタリだ。ツッパるところもダボつくとこもない。服の仕立ては良い職人がしているんだろう、きっと。


 まあ、それはいいとして。


「あの…面談って、何の話をしたらいいんでしょうか?」


 兵士長のことだとか、他の転生者のことだとか、聞きたい事は他にもいっぱいある。

 だが、コロンにその説明をお願いすると、またイチから話し出しかねない。


 軍の組織や転生魔法の基礎からなんて聞いていられない。そうなると、また時間切れになって説明不足で終わってしまう。

 そこで、今から必要な部分だけを聞いておくことにした。


「兵士長さんは面談で、私に何を求めておられるのですか?」


 必要な事だけを話すよう念を押す。

 コロンは、私にズボンを履かせながら少し考える。

 私は足を交互に上げる。


 そう言えば…、さっき沢山食べたけど、お腹周りとか大丈夫かな。


 コロンは私の腰までズボンを持ち上げると、やっと答え始めた。


「そうですね。転生前にあなたがしてきたこと、持っている能力や技術を聞かれます。兵士長は、我が国に役立つかを見極められるのです。」


 何…だと…。

 それじゃまるで採用面接じゃないか。

 六年前にやったぞ。


 市役所の面接試験を思い出す。


『私は大学でボランティアサークルに所属し、人と人とが助け合う大切さを知りました。市役所では、市民と助けあいながら、協同して作り上げていく仕事をしたいと考えています。私が大学で学んだ経営学の知識が役に立つと……』


 あれをまたやれと言うのか。

 …気が重くなる。


 まあ、今なら仕事をこなしてきた経験値もある。法律・条例の知識とワープロソフトや表計算ソフトの扱い方を特技に加えられる。


 ん。…待てよ。島国の法律の知識が、ここで役に立つか?

 異世界の法律だろ。そもそも明文化された法律というものがあるかどうかもわからない。


 コンピューターなんて尚更だ。魔法の世界に科学文明の利器が存在しているとは考えられない。

 福祉も経済も、異世界の常識では役に立たない可能性が高い。


「袖に腕を通してください。」


 コロンが上着を着せてくれる。

 それは服というか、いろいろ金具も着いていて、革の鎧といった感じだった。


 鎧…。

 やはり、オーガの私に求められている物は、腕力なんだろう。

 この大きな体。丈夫そうな肌。戦えばきっと強いに違いない。


 でも、私は戦ったことなんてない!

 スポーツですら、ほとんどしたことないのに。

 他はオール五でも、体育だけはずっと三。筆記で満点近くを取った時だけ四。

 そのくらい体育の実技は壊滅的なのだ。


 これはヤバい。

 少し嘘をついてでも、アピールした方が良いんじゃないだろうか。


「他に聞きたいことはありますか?」


 私が考え事をして黙ってしまったので、コロンが心配して声をかけてくれた。


「あの…もしですよ。もし、役に立たないと言われたらどうなるんでしょうか。」

「ふふ、大丈夫。きっと大丈夫ですよ。」


 コロンは軽く笑って、軽く答えた。

 でも、回答になってません。私は不安だった。


 もし…この採用に落ちたら、どうなるんだ?


 ここから放り出されるのかな?右も左もわからない異世界でひとりにされたら、どうやって生きていけばいいんだ。

 いやいや、逆だ。敵に拾われて戦力にされるのを嫌って閉じ込められるかもしれない。最悪、処刑されることだってありえるだろう。


 ため息をつく。


 このオーガの体では、背中に嫌な汗は出ないようだ。

 緊張しても、手汗をかくこともない。


「さて、できましたよ。」


 コロンが脇の紐を締めると、テーブルの上の鏡を開いた。

 そして何やら魔法を発動する。すると鏡が大きくなり、姿見ほどの大きさになった。


 「これが、私…」


 鏡に全身の私が映る。

 立派な革の鎧に身を包んだオーガ…。


 これはもう、モンスターというより、クリーチャーだよ。

 両方の意味の違いとか全くわかんないけど、クリーチャーのほうがリアル感が強い気がする。

 攻撃と防衛は高いが、移動と攻撃速度に欠けるレア度☆☆の下級クリーチャー。


 鏡の中でオーガが泣いている。


「なぜ、泣くんですか。強そうで格好良いですよ。」


 コロンさんは慰めてくれているのかもしれないけれど、私の価値感では、それは慰めにはならないんです。


 その時「ガチャガチャ」と扉の外で、鍵が外される音がした。


 涙を拭う。

 泣いていても仕方ない。


 ただの大飯喰らいだなんて思われないよう、役立たずの烙印を押されぬよう、慎重に面談とやらをこなそう。

 そこそこ市民応対はやってきた。

 うまく喋れるはずだ。


「では。参りましょうか。」


 コロンに促され、私は部屋を出た。


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