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ハロウィンカボチャを被った謎の人は、私たち全員を見回す。
頭のカボチャが大きいので、身長はコロンよりも少し高いが、体つきだけ見れば小学校高学年男子。ハロウィンの人にも影がない。ナイラの光魔法だけではなく、あらゆる方向から照らされているようだ。
「こんにちは。」
透き通った少年のような声が耳元で聞こえる。ハロウィンの人が喋っているのか。
こんな声の響き方を私は知っている。
「カボ様、お久しぶりでございます。ご機嫌麗しゅう。」
ルピアが深々とお辞儀をする。
カボ様…? カボチャだから?
「皆様。こちらは植物を司る神、カボ様です。」
やっぱりこの人も神様か。
神様なのに、この人って言い方はおかしいな。……考えを読まれてるかもしれないんだ。
「「「はじめまして。」」」
口々に挨拶をする。
早速ルピアは、白い魔法陣を展開すると服の袖から箱を取り出し、簡単な祭壇みたいなものを組み立てる。
…あれ、見たことあるな。
そうだ。鏡餅の台だ。
私は脳内辞書を引く。
鏡餅の台
三方。神道で使用する神に捧げるお供えを載せる台。名前の由来は台の三方向に穴があるため。寺院で使用する物は「三宝」と書いた気がする。
脳内辞書なので、正確性は乏しい。
ルピアの組み立てた台の穴は一つだから、一方になるのかな?
ルピアは三方の上に「粉雪舞い散る愛の灯火」を乗せ、神様に献上する。
「御饌にございます。お納めください。」
あれは、甘くて美味しかったお菓子じゃないか。クーナのお母さんのお土産を思い出す。
お菓子なんかがお供えで良いのか?
「うん、ありがとう。」
カボ様がお菓子を受け取る。
ルピアは一歩下がり、平伏する。
「我らの願いを叶え給え、恐み恐みも白す。」
おお、実に神官っぽい。
単なるシールド発生装置付き観光ガイドじゃなかった。
「あ! 新しい味出たんだ。」
カボ様はお菓子をぺろりと食べた。
あれ…カボチャの口の部分が普通に動いてないか?
「我らが願い奉るは…」
「うん、もう聞いているよ。転生者に魔法を使えるようにして欲しいんでしょ。」
「…あ、はい。」
ルピアは、話がとんとん調子…、というよりも先回りして進むので面食らう。
「まずは?じゃあ、君から。」
カボ様はテルルを指差す。テルルが進み出る。
「はい、終了。」
「え? もう終わり?」
みんな驚く。
特にエフェクトとかないの?
ぐわぁーって光ったり、パンパカと音がなったり、せめてパーティクルがキラキラするとかさ。
なんかこう「魔法解禁」って感じが欲しいなぁ。
私の勝手な思いを余所に、カボ様は手順を進めていく。
「今、頭の中に思いつく言葉あるでしょ。その呪文を言ってみて。」
テルルは頷いて呟く。
『狭いながらも楽しい我が家…』
テルルは自分が言った言葉に対して驚く。
次の瞬間、彼女の周りに半透明な壁が現れた。
「これは、防壁魔法…」
ナイラが声を出して驚く。
凄いなぁ、魔法だよ魔法!
コロンやルピアの防壁魔法と比べると一人分で小さいが、これで完全に身を守れるんだから羨ましい。
うわー。私も早く魔法が使いたいなぁ。
「魔法は使えてるね。オッケーオッケー。じゃあ次の人。」
カボ様は、動作確認終了みたいな軽い感じでブロンズを指差す。
ブロンズが一歩前に出る。
「はい。思い付いた言葉言って。」
「え、もういいのか?…えっと、『きのこ雨』」
ブロンズも自分の言葉に驚く。
しばらくして、天井に小さな雲が渦巻き、水滴が落ちてきた。
ポツポツ…ザーー
ブロンズの頭上にだけ雨が降り出した。
「はい、オッケー。」
「オッケーじゃないよ…。なんで雨が。」
一人ずぶ濡れのブロンズが呆れたように言う。
「どんな魔法が使えるようになるかは、魂によってバラバラなんだ。」
カボ様が説明をはじめる。ルピアは真剣な眼差しでそれを聞く。
そうか、神様の言葉なんだから『神託』だもんな。
「魔法は魂に依存するから、異世界人の魂でも魔力の通り道を作ってやるだけで、簡単に魔法が使えるようになるんだ。」
それは…簡単なことなのか?
魂いじられるってこと?
なんか怖いな。
「有難きお言葉、我ら末代まで伝えん。」
ルピアが白い魔法陣に手を置き、また平伏する。
だんだん雨が止んできた。
「ブロンズ様、これが天候魔法だとしたら、本当に稀有です。雨を自在に呼べるとしたら、平時にも戦時にも活用できます。」
エスクードの言葉にブロンズは機嫌を直す。
「そうなのか?」
「もちろんです。コーカ王国にも天候魔法の使い手は片手に足りません。」
ブロンズは上機嫌でカボ様に礼を言う。
「ありがとうな、カボ様。」
「そのような態度、神に対して失礼ですよ!」
ブロンズの気さくな態度にルピアは肝を冷やす。
「良いよ、気にしてない。さあ、最後だ。」
カボ様は私を指差した。
そう言えば、何でカボ様は誰が転生者か分かるんだろう。ボクっ娘神様が言ってた「魂の匂い」ってやつかな?
「はい。思い付いた言葉をどうぞ。」
私はよく分からない言葉を思い付いた。
なんだろう……自分でも聞いたことのない単語だ。およそ意味があるとは思えない。
「?」
「大丈夫。魔法が使えるかの確認だから。ほらどうぞ。」
私はその言葉を口にする。
『百花繚乱』
確かにそう聞こえた。しかし、それは私が口にした言葉とは違う。
そうか『バベル』の魔法で翻訳されたのか。
私はきっとエンドルの言葉を喋ったに違いない。それが翻訳されて聞こえてきたのだ。
テルルやブロンズにも同じことが起きたから驚いていたのだろう。
さて、私の魂からはどんな魔法が出てくるのかな。
『百花繚乱』でしょ。イメージとしては美人に囲まれる魔法?
そう言えば、コロンをはじめ、リラ、クーナ、マンガン、ルピアと私の周りには美人が多い。すでに百花繚乱が発動しているんじゃないかな。
ピョコン
足元に小さな花が咲いた。
登場人物紹介
「カボ」
属性:樹
外見:ジャック・オー・ランタンのような頭の少年。被り物ではない。
好物:甘い物に目がない。結構地上のスイーツに詳しい。
登録:6番
エンドルにエントとドリアードを生み出した神。




