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【神殿迷宮・地下七階】
取りあえず色々ありすぎたので、ここで一休みすることになった。
三叉路にあるちょっとした広間。挟み撃ちされても、もう一つの道に逃げられる。
エスクードたち三人でそれぞれの通路を見張り、私たちは座って休憩する。
「どうやってここまで戻って来れたんですか?」
コロンがドリンクを配りながら聞いてきた。
「そうですっ! 音も気配もなく、あなたは突然現れました。この迷宮では瞬間移動魔法なんて使えないのに。」
ルピアは興味津々だ。
「扉を通ったんです。」
「…扉?」
「神様が出してくれたんです。テンテレ〜ンって。」
テンテレ〜ンは嘘です。ちょっと盛りました。
「「「……。」」」
残念…誰にも刺さらない。神様のあの子なら、きっと分かってくれるのにっ!
ルピアはそれを無視して聞いてくる。
「その神の御名はお聞きになられましたか?」
「名前…何だったかな。初めに教えてもらった気がする。エレクだったかな?」
「エレク…? 確認されている神々にそのような方はおられません。」
ルピアは首をひねる。
「本当にエレクだと?」
「いや…自信はないです。小さな女の子の姿をしていて、自分をボクって呼んでました。」
あまり覚えていないが、その名前を二、三回は聞いた気がする。
でも、ボクっ娘はかなりの特徴だと思うが。
「うーん、神々には姿を変えられる方も居られるので、なんとも言えないですね。」
「もしかして新種の神様かい?」
ブロンズが聞いてきた。
新しい昆虫でも見つけたかのような言い方じゃないか。
「その可能性はゼロではありませんが、限りなくゼロです。」
ルピアは否定?した。
私は少し自信がなくなるが、常に光ってて、あんな凄いことをするのは神様だと思うんだけどなぁ。
一応ルピアに確認する。
「神様を騙った人間って事はないですか?」
「御使いに人はいません。対話ができたのなら、それは神です。」
じゃあ、やっぱり神様だよ。間違いない。
「魔法が使えるようにお願いはしたのか?」
ブロンズが期待を込めて聞いてくる。魔法が使えるようになったのなら見せて欲しい、といった気持ちが垣間見える。
「お願いはしたんですが、難しいって言われました。」
「神の機嫌を損ねたんじゃないですか?」
ルピアが疑いの目を向ける。
「いやいや、楽しくお話しましたよ。また会おうって言われるくらいに。」
「…そんな神様も居られるのかしら?」
「私たちの世界へ行って遊んでるとか言ってたよ。」
「異世界に干渉できる神々なんて本当に一握りです。まずルピアたちもお会いすることはありません。」
ルピアは、私の勘違いだと思っているようだ。
私は再び自信がなくなる。
「気絶している間の夢だったのかなぁ。」
「なんだ夢かよ。」
ブロンズがつまらなさそうに言う。
「でも…それだと突然現れた事が分からない。少なくとも三階層は落ちたのに。」
ルピアがまた首を傾げる。
「そうそう、何であんな地面が崩落するなんてことになったんですか? 銃で撃つって聞いていたのに、なんかでかい黒い塊が落ちてきましたけど。」
私はブロンズに聞く。ブロンズが吹き出す。
ルピアが下を向いて小声で言う。
「あ、あれは、囮役が動いてしまったので、慌ててしまって作戦通りにいかなかったんです。」
「それは若干仕方ないかもしれないな。」
通路に現れた巨大キノコから私が逃げてしまったからか。あれで作戦が変わったとはいえ、無茶苦茶だよなあ。
「でも、死ぬかと思った。」
「ごめんなさい。」
バリアー発生装置付き観光ガイド=ルピアが謝る。
本当のところは「ルピアはこんな事も出来ますわ、マンガンお姉様っ!」のせいなのだが、そんなこと私が知る由もない。
ブロンズは笑いを堪えている。
ルピアは無理やり話を変える。
「そんなことより。信じられないことに、迷宮の形が変わってしまったんです!」
ルピアは袖を数回振り回す。すると、目の前の空間に緑色の光が浮かび上がり、立体的な地図の形になる。
「今この辺り…地下七階にいるのですが、道が地図とは全く異なっているのです。」
「それで迷ってパニックなところに、オーガがぬっと現れたもんだから腰を抜かしちゃったんだよな。」
ブロンズが笑う。
ルピアは恥ずかしそうに下を向く。
「地図が役に立たなければ、先導としての仕事ができません…。」
そう言えば、ボクっ娘神様が「模様替えする」って呟いてたな。この事か…
こんなに簡単に迷宮を修復したり、組み替えたり。本当に神様って、異世界っていうゲームの感覚なんだろうな。
ルピアはしゅんとして、言葉に詰まる。
その様子を見てブロンズが声をかける。
「何を言う。ここの怪物について一番詳しいのは嬢ちゃんだし、壁の魔法で守ってくれてるのも嬢ちゃんだ。とても頼りにしてる。」
「あ、ありがとうございます。頑張ります。」
ルピアは涙を浮かべてお礼をする。
私もあのくらい上手に励ませるといいのだけれど。
見張りを交代して、私たちはもう少し休憩する。
ドリンクは甘くて美味しい。
特訓の時に飲んだのと同じやつだ。元気が出てくる。エナジードリンクみたいなものだろう。
「魔力も回復しました。そろそろ行きましょうか。」
エスクードが立ち上がり、皆も続けて立ち上がる。
その時。
「何か来る!」
見張りのマンガンが、通路の一つから少し離れる。
ルピアが防壁魔法を張る。
通路だけを塞ぐように防壁を張る事で、魔力の消費を少し抑えられるそうだ。
「来た。」
「!」
「…ハロウィンだ。」
それは、カボチャのオバケだった。
正確に言うと、ハロウィンに飾るカボチャのランタンみたいなのを被った人が歩いてきた。
「あれは、何の怪物ですか?」
テルルが聞く。
次の瞬間、ハロウィンは防壁をすり抜けて広間に入ってきた。
「なっ?」
転生者たちが驚いて後ろに下がり、兵士たちは臨戦体勢をとる。
「皆様!手を出してはなりません!」
ルピアが叫んだ。




