ⅬⅤ
54話のルピア目線
ルピアは正直怖かった。
アースドラゴン。
名前と生態は知っているが、本物を見るのは初めてだ。あんなに大きいと、束縛魔法でも動きを止めることができない。
(本当にこんなの突破できるの?)
「隊を三つに分ける。釣り野伏って戦術だ。」
マンガンが作戦を説明する。
囮役と背後から攻撃する部隊二つ。
本命はテルルとブロンズの亜人コンビ。
テルルがブロンズを抱きかかえて飛び、上空から心臓のあたりを狙撃する。
失敗した時のバックアップとして、反対側からエスクードと兵士達がドラゴンの背中によじ登り、ハンマーで心臓を叩く。
それも失敗した時は、マンガンとナイラが囮役となって残り、無事な者だけが先に進む。
「最悪でも前回と同じ方法が取れる。」
マンガンからスラスラと作戦が出てくるので、ルピアは驚いた。
(あまりルピアと年齢が変わらなさそうなのに、すごい!)
マンガンの中身が四十超えたおっさんだとは、ルピアには知る由もない。
「本来は囮役も含めて、三隊それぞれが攻撃をするのが釣り野伏なんだが、今回は囮役に徹してもらう。」
オーガの人は最後まで不満を言っていたが、安全な通路に居るだけだからと説得され、しぶしぶ囮役を引き受けた。
「心臓って、背中のどこを攻撃すれば良いんだ?」
ルピアにブロンズが聞いてくる。
(さっき助けてくれたワニの人。…見た目は怖いけど優しい人。)
「心臓は、肩の後ろのニ本の棘の真ん中にあるタテガミの下の鱗の左側です。」
アースドラゴンの弱点。それは背中から心臓の位置に衝撃を与えること。それにより、ドラゴンは一時的に血流が途切れて意識を失う。多少ズレても、動きを鈍らせることができる。
「はぁ?」
「ですから、肩の後ろのニ本の棘の真ん中にあるタテガミの下の鱗の左側です。」
「…ロココ調の左?」
「違う。」
ルピアが呆れていると、
「作戦開始までには気合で覚えろ。」
マンガンが強く言う。ブロンズは無言で頷いた。
(マンガンさんって格好良い…。心の中でお姉様とお呼びしよう。)
***
ルピアはお姉様と同じ隊に。他はブロンズとテルル、それぞれの侍女二人で合計六人。
壁伝いにドラゴンに近づいて行く。
もう一つの隊はコロンさんと兵士達五人。
(コロンさんは、ルピアより強い防壁魔法を使える方なので安心です。)
一人で残るオーガの人。
「可哀そう。」
「オーガには火炎耐性があるから、ドラゴンの吐く炎には十分耐えられる。」
お姉様は大丈夫だと言うのですが、
「でも、アースドラゴンが吐くのは毒の息ですよ。」
「え?」
お姉様の目が点になる。
(聞こえづらかったかしら?)
「アースドラゴンは炎ではなく、毒の息を吐きます。」
「なっ…なんだと。…む。息を吐かれる前に仕留めよう。みんな気合を入れろ。」
オーガがあらゆる毒への耐性を持っていて、上級錬金術師が研究しているとは、マンガンには知る由もない。
マンガンは皆に作戦を再確認する。
そうこうしているうちに作戦開始地点に到着。マンガンが念話魔法でコロンの隊と準備完了の確認をする。
(ルピアの役目は二つ。一つは失敗した時に、ワニの人とフクロウの人を防壁魔法で守ること。…なんだか緊張してきました。)
ブロンズがドラゴンの鼻先へ向けて銃を構える。マンガンが最終確認をする。
「暗闇でも当たるか? ドラゴンを確実に起こせるか?」
「動かないんなら楽勝だ。」
「OK、信頼している。音がしたらすぐに撃て。」
「了解。」
マンガンが合図すると、ナイラが光の魔法を点滅させる。
そして、暗闇に。
グワァラ……
同時に酷い音が響く。
ルピアは思わず耳を抑える。
ズドン!
ブロンズは暗闇に向かって発砲した。
…ガキーン…ガキーン…
エコーが収まっていく。
本当に酷い音だった。
「グォォオオオオっ!!」
アースドラゴンの唸り声。
(ドラゴンが目覚めた。ワニの人の弾が当たったかは分かりませんが…。)
「ドラゴンは、まっすぐ囮へ向かってる…。囮が通路に逃げ込んだ。」
テルルは暗闇でもよく見えるその眼で実況する。
作戦の第二段階。ほんの少しだけ明かりをつける。
「ルピア、魔法を。」
ルピアのもう一つの役割。ブロンズの銃口に、巨大化の魔法陣を貼り付ける事だ。
発射されたゴム弾を巨大化させて、ゴム弾の威力を上げる。また、少しくらい狙いがズレても心臓に衝撃を与えられるようにするためだ。
(二重三重の作戦を立てるお姉様…最高です! ルピア、必ずお役に立ちます!)
魔法陣を貼り付け終わると、テルルが叫ぶ。
「囮役が通路から出てきた!」
「何っ!? 予定変更、すぐ飛び立て。」
ナイラが光を最大にする。
テルルがブロンズを背中から抱えて、飛び立つ。
「重っ!」
「…すまん。」
それでも、テルルは大きな羽根を羽ばたかせて宙に舞い上がる。
アースドラゴンはこちらには気付いていない。
「もっと左に寄れるか?」
「はい。」
囮が動いたため、予定の位置とはズレてしまう。
「足元が浮いたまま、撃つのは初めてだ。」
ブロンズは笑うが、テルルは必死だ。
「軽口は良いから、外さないでくださいね。」
「ここで良い。合図したら、一瞬だけ羽根を止めてくれ。」
「落ちるわ。」
「落ちてる間は揺れないだろ。」
ブロンズは銃を構え、狙いを研ぎ澄ます。
「今だ!」
テルルの羽根が止まる。
二人の体が落ち始める。
ズドン!
狙いは完璧。
銃口にある巨大化の魔法陣をゴム弾が通過する。
ズズズズズ……
ゴム弾が巨大化する。
アースドラゴンと同じ大きさにまで。
「なんだあれっ!」
(お姉様、驚いてるわ。ルピアが頑張れば、あのくらいまで巨大化できるのですよ。フフンっ。)
ゴム弾がアースドラゴンを押しつぶす。
ガラガラガラ…ドドドドドドォー…
そして地面が崩れ、大きな穴にドラゴンが飲み込まれた。
床に降り立ったテルルもブロンズも、目が点になっていた。
「常識的に考えて、大きすぎるだろ!」
マンガンのツッコミが、虚しく広間にこだまする。
登場人物紹介
「ブロンズ」
種族:鱗の亜人・転生者
年齢:31(中身の年齢54)
身長:188
体重:92
所属:第一籠城軍水軍隊
特技:射撃・ジビエ料理
好物:じゃがいも
備考:
バイアスロンで冬季オリンピック四位入賞経験のある猟師。
少々短気だが、基本はノリが良く気のいいオヤジ。
若い頃、妻が娘を連れて出て行ってからは、独り暮らしをしていた。




