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私は一人、通路の入口に立っていた。
他の皆は二手に別れ、左右から壁づたいに歩いて行く。アースドラゴンまで半分くらいの所まで進んでいた。
「なんで私が囮なんですか?」
一人、めっちゃ心細い。
光源があっちに行ってしまったから、私の周りはだんだん暗くなる。
やだな。
囮役なんて、早く終わらせてしまいたいが、終わらせるには私が襲われる必要があるわけで。
「なんで私が囮なんですか…」
もう一度つぶやく。
さっきの作戦会議でマンガンが解説してくれたのはこうだ。
一 体が大きいから目立つ
二 耐性持ち
三 ドラゴンと相対した経験がある
一は、まあ納得ではある。その理由なら、私でも私を選ぶだろう。
次に二…火傷はしないだろうけど、ドラゴンの炎ってとても熱いんだよ。
最後の三! 経験があるからといって、平気なわけじゃないんだ。怖さを知ってるから嫌なんだよ。
だから。
私を一人にしないで欲しかった。侍女か兵士の一人でも良いから、そばに居てくれないと。
すっげぇ逃げ出したい。
「なんで私が囮なんですかっ!」
小声で叫ぶ。
一回深呼吸して、お腹の中のモヤモヤを吐き出す。
もう一度、作戦を反芻する。
私はルピアから「騒音ボール」なるものを渡されていた。地面に叩きつけると物凄い音がするらしい。
この音が苦手で逃げていくモンスターもいるとか。これでドラゴンをはたき起こす。
「あの光が消えたら、こいつを叩きつける。」
それから「光の腕輪」。叩くと強く光るケミカルライトみたいな物らしい。両腕に何個も巻く。
ただし短時間しか持たないから、騒音ボールを投げてから使うように、とのこと。
後は「閃光ボール」。これはクーナが私を襲った時に使った奴だ。あの時は昼間だったから意味無かったが、ここでなら効果抜群だろう。
「光にドラゴンが反応したら、あとは後ろの通路に逃げ込むだけ。その後は皆にお任せする。」
よし、完璧。
イヤだ、もう帰りたい。
本当にこんなことで、無事にここを抜けられるんだろうか。
二つの光は、私と正三角形となる位置まで進んでいた。
光が点滅する。
間もなく作戦開始の合図だ。
光が消えた。
私は騒音ボールを地面に叩きつけた。
グワァラゴワズドンガキーン…ガキーン…ガキーン…
けたたましい音が鳴り響く。大きな空間なのに、反響がどこまでも続く。
即座に耳を抑えるが、すごい音が頭に響く。エコーですら、うるさい。
耳が痛い。頭がグワングワンする。
エコーが収まっていく。
次の瞬間。
「グォォオオオオっ!!」
地の底から響く唸り声。
「今の…ドラゴンかっ!?」
…まあ、他に何が居るんだってな。
慌てて腕輪を叩く。
ズゥゥゥゥゥン
暗闇の中で、何か大きい物が動く音。
腕輪が光り始める。
おお、結構強く光るんだな。
ズン、ズン…
歩いてる音がする。
私からは何も見えない。腕輪の光が届かない遠くにドラゴンはいる。
ちゃんとこっちに来てるだろうか。どのくらいまで近づいて来ただろうか。もう逃げた方が良いだろうか。
そうだ。
私は思いついて、閃光ボールを暗闇に向かってばら撒いた。
できるだけ遠くまで投げる。投げた衝撃で何個かが発光する。一瞬の閃光。
光の中に浮かび上がるドラゴン。
コマ撮りのアニメーションのように、私の方へ向かって来るのが見える。
「来てる来てる来てる!!」
私は後ろを向いて、通路の奥へと走る。
もっと引き付けてから逃げた方が良いのかも知れないが、それどころじゃない。
「グァー!!」
ドラゴンが叫びながら走って来る。
私は振り返るが、通路内が腕輪の光で照らされ、広間の方が見えない。
近くが明るすぎると、遠くが真っ暗にしか見えないのだ。
ズシン、ズシン…
足音が大きくなった。
もう少し奥に行こう。私は後ずさりする。
ドン。
誰かにぶつかった。
「あ、すみません。」
思わず謝る。
…ん?
誰にぶつかった?
私はぶつかった人を見る。
人じゃない。
これは動くキノコだ!
地下五階で会ったやつと同じ。いや、あれよりも大きい。私と同じくらいの背丈がある。
「ぎゃーーーーーー!!!」
私はパニックになった。
このままじゃ、キノコの苗床にされてしまう。
通路から飛び出す。
だが、こっちにはドラゴンが居る。
落ちている閃光ボールをドラゴンが踏むたびに足元が光り、その巨体を浮き上がらせる。
ドラゴンはすぐそこまで来ていた。
サーっと血の気が引く。
うわ、詰んだ。
私ここで死ぬのか。
振り向くと、キノコが通路の入り口まで来ていた。
キノコのくせに動きが早い。
逃げなきゃ。
咄嗟に左に走る。何で左かって分かんないけれども、壁沿いに走る。
私の光る腕輪を見て、ドラゴンが向きを変える。
しまった!!
この腕輪、キノコに渡してくれば良かったんじゃん!!
何でそんな事に気付かないのか。
私は馬鹿か。
馬鹿!馬鹿!馬鹿!
必死で腕輪を外そうとするが、走りながらでは殆ど取れない。
ドラゴンの荒い鼻息の音が聞こえてきた。
すぐそこにいる!
ガガガっ
私の目の前に鋭い爪の太い腕が現れ、行く手を阻んだ。
もうダメだ。
私は走るのを諦めた。壁を背にドラゴンの顔を見つめる。
そう言えば、いつの間にか広間内が明るくなっている。ドラゴンの顔が、そのウロコ一枚一枚まで見えるくらいに。
訓練の時のドラゴンより、シワが多くて横長な輪郭。ホントだ、ドラゴンの顔って個性があったんだな。大きな口に並ぶ牙の向こうから、毒々しい紫色の息が漏れている。
その顔が、私を見てニヤリと笑った気がする。
食われる。そう思った次の瞬間。
ズドン!
ブロンズの銃の音だ。
頼む!これで何とかなれ。
見上げると、ドラゴンの背に迫る巨大な黒い塊。
…何あれ。
黒い塊はドラゴンを押し潰す。
ビキッ!バキバキバキ…
その衝撃で床面に亀裂が入る。
ガラガラガラ…ドドドドドドォー…
私はドラゴンと共に、崩れる地面に飲み込まれた。
登場人物紹介
「エスクード」
種族:人間(コーカ人)
年齢:29
身長:183
体重:78
所属:第一籠城軍親衛隊特務班長
自称:俺
特技:何でも卒なくこなすオールラウンダータイプ
特に秀でたところのない器用貧乏
好物:『赤き舞台の上に沈む兄香を纏いしセーフリームニル』(豚肉の生姜焼きのような料理)
備考:
特務班長だったデニが親衛隊長に出世したので、最近特務班長に昇進した。
親から、そろそろ身を固めてはどうかと言われている。少し気になっている人はいるが、相手の気持ちが確かめられないでいる。




