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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
10章:地下迷宮

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【神殿迷宮・地下三階】


 小型バイクくらいあるクモと、人間の子供くらいあるコウモリ、そして太ったオッサンくらいある謎の毛むくじゃらに襲われる。


 防壁魔法で身を守っておいて、数の多い敵は眠らせる、単体の奴は束縛の魔法で縛り上げる。この戦術を繰り返して御使いを片付けていく。

 ルピアが疲れてしまわないように、コロンと交代で防壁魔法を張る。



【神殿迷宮・地下四階】


 バカデカい蛇。さっきのよりデカいクモ。デカさだけじゃなく数も多い蜂。体は小さいけどデカい炎を吐くトカゲ。


 迷宮の通路は狭くて暗くなった。

 ブロンズの侍女が光の魔法で辺りを照らしながら進む。

 強い光を嫌う御使いも居るようで、音はすれども姿は見せない奴らも結構いた。



【神殿迷宮・地下五階】


 六本足の熊。頭が三つある蛇。人間サイズの動くキノコ。触手がウネウネとしている何か…。

 御使いが化け物じみてきた。

 今までのだって、デカさとか異常だった。けれどもこの階層の御使いは、もう「モンスター」じゃないか。

 こうなると、眠らせるとか縛りあげるとかではどうしようもなくなってくる。



「くれぐれも、致命傷を負わせないようにだけは、気を付けてください。」


 ルピアは慎重にタイミングを図る。

 今度の相手は半魚人みたいなヤツだ。ヒレやらエラやら棘やらが沢山付いている。

 …いや、人の形はしてないな。半魚だ。


「グゲェグゲェ」


 変な声で鳴く半魚は、動きが早くて、タコ顔負けの軟体さを持つ。しかも麻痺や眠りに耐性があるらしい。

 だから、相手が止まっていないと掛けられない束縛魔法では、捕らえることができない。


「行きます!」


 ルピアが防壁魔法を解除する。

 半魚は突然壁がなくなり、よろけた。

 そこへ、エスクード達親衛隊三人が飛びかかる。


「おらぁ!」


 兵士の一人がハンマーで横殴りする。半魚は勢いで飛ばされ、壁に打ち付けられる。


「あまり効いてないな。」


 二人目が刺股(さすまた) (※1)で胴体を抑え込む。…が、グニャグニャと抜け出してしまう。

 すかさず刺股を回転させて半魚の体を絡め取る。


 そこへエスクードが魔法陣を叩き込む。半魚は魔法陣に束縛され、動けなくなった。

 エスクードと兵士は絡まった刺股を引っこ抜こうと悪戦苦闘している。


「これは、一体何なんですかね?」


 私はコロンに聞く。コロンは首を思いっ切り横に振る。代わりにルピアが答えてくれた。


「これは、ニセオオサンショウウオモドキといいます。割と小さめの個体ですね。」

「これより大きいのが居るんですか…」

「数は多い方ですよ。似たようなのにニセオオサンショウウオダマシというのも居ます。」


 こんなのがいっぱい居たら嫌だな。想像もしたくない。


「まだだ!」


 突然ブロンズが叫ぶ。


「グゴォグゴォグゴォ」


 気持ち悪い鳴き声と共に、迷宮の影からニセサンショ……なんたらが飛び出して来た。さっきのより大きい。


 気を抜いていたルピアとコロンは、防壁が間に合わない。

 半魚がルピアの眼前に迫る。


  ズドン!


 音とともに、半魚が横に吹っ飛んだ。

 ルピアは恐る恐る目を開ける。壁まで飛ばされた半魚はピクピクと震えている。


 反対側を見ると、ブロンズの銃から硝煙があがっていた。


「まだ襲ってくるぞ。」


 慌ててコロンが防壁を展開する。


「「グゴォグゴォグゴォ」」


 二匹三匹と半魚が集まってきた。

 防壁があと一瞬遅ければ、間に合わなかった。


「あ、ありがとうございます。」


 ルピアがブロンズにお礼を言う。


「気にすんな。」


 か、かっこ良いぞ、ブロンズさん!


「撃ったのがゴム弾だからな。今の奴もすぐに起き上がるはずだ。」


 ブロンズの言うとおり、壁際で震えていた奴はもうそこに居なかった。コロンの張った防壁に複数の半魚がもたれかかり、グゴグゴと鳴いている。


「見てください! これ。これがニセオオサンショウウオダマシですよ。ほら顔の棘の数が違うんです。」


 ルピアが嬉しそうに言う。


 なんでこの状況で、嬉しそうなんだ。

 そんなの、どっちでもいいよ。


「敵を殺せないってのが難点だな。」


 マンガンがため息をつく。


「武器も殺傷力の低い物ばかりですから。」


 エスクードは自分の腰に下げた棒を見せる。鞘も刃もなく、金属製の竹刀のような形をしている。

 ブロンズの銃弾がゴム製というのも、殺生禁止を考慮してのことなのだろう。


「前回はどうしたんですか?」


 私が聞くと、マンガンは四年前を思い出すのに少し時間をかけて答える。


「ほぼ、こんな感じだったが、全体の敵の数はもっと少なかった。こんな風にニセオオサンショウウオモドキとダマシに囲まれる事なんてなかったよ。」


 マンガン隊長、半魚の名前ちゃんと覚えたんだ。凄い。


「で、この状況どうしましょう?」

「刺股もまだ回収できてないですが…まあ、これだけ数が居たら関係ないですね。」


 エスクードが諦めたような言い方をして、ナイラの方を見る。


「ナイラ、お願いできるかな。」

「承知しました。」


 ナイラは両手から魔法陣を出す。


「複数の魔法を組み合わせる複合魔法陣です。なかなか難しいんですよ。」


 コロンが解説してくれる。


「ナイラは幻惑魔法の名手なんです。」


 ナイラは二つの魔法陣を交差させ、半魚の方へ投げつける。魔法陣は防壁をすり抜ける。


「強力な幻惑魔法は直接触って発動する必要がありますが、あのように組み合わせることで防壁を超えて発動させることができるのです。」


 魔法の当たった半魚の動きが止まる。


「グゴォ?」


 そして隣の半魚にのしかかる。

 ドミノ倒しのように、半漁はバタバタと倒れていく。


 他の半魚達の一番上に乗った半魚が、不思議な踊りを踊る。半魚達はなんとか逃れようともがくが、踊りに潰されて動けない。


「大丈夫そうですね。行きましょう。」


 コロンが防壁を解除すると、急いで兵士四人がかりで刺股を回収する。


 私はどうしても気になって、ナイラに尋ねる。


「どんな幻惑を見せたんですか?」

「ナイショです。」


 ナイラはイタズラっぽく笑った。


※1 刺股(さすまた)

 棒の先端がU字形になっており、U字の部分で相手を壁に押しつけて捕らえる道具。捕らえるまではいかなくても、相手との距離をとるのに有用である。

 役所には防犯用として刺股を設置している部署もある。

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