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鉄道は線路の上を快適に走っている。
コーカ駅を出て空を飛んでいたのは十数分ほど。王都の市街地を過ぎると徐々に高度を下げ、敷設してある線路の上に着地した。
着地の時の車内は盛り上がった。
ブロンズはノリがよく、地面に敷かれた線路に乗ったときには大袈裟に安心して見せた。
「機関車が空を飛ぶだなんて、誰が思いつくよ。魔法ってのは凄いな!」
ブロンズは息巻く。
空を飛ぶ機関車ならアニメで何パターンも見たことあります。そのアニメでは、空どころか宇宙まで行ってましたが。
「長生きはするもんだね。こんな面白いものに乗れるなんて。」
テルルも窓の外を眺めながら呟く。
いやー、これは長生きしたからとか関係ないと思います。
***
そして機関車は速度をあげていく。が、ただそれだけ。
はっきり言って、魔法の要素のない普通の鉄道になってしまった。
「あまり代わり映えのしない風景ですね。」
「そうだな。」
私とブロンズはもう窓の外に興味を失っていた。
最初の頃は珍しい物を見つけて盛り上がっていたが、同じ風景の繰り返しでさすがに飽きてきた。
線路は山沿いの街を繋ぐように伸びているのだろう。街を出ると山の風景、山が終わると街。何度もこれを繰り返していくだけだ。
ほとんどの駅を通り過ぎていくので、この機関車は急行か特急なのだとは思うが、軽自働車より遅いんじゃないだろうか。いまいちスピード感がない。
「到着まで、どのくらい掛かるんですか?」
「昼下がりには着くかと思います。」
私の質問には、テルルの侍女ナイラが答えてくれた。
「後、何分くらいですかね。」
「さあ? 到着時間なんて目安ですから。」
ナイラが肩をすくめる。
「そりゃそうだ。俺が前世で乗ってた列車は雪で遅れることが多かったが、夏ですら時間通りに来たことがない。」
ブロンズも笑う。
おいおい鉄道がそんなことで大丈夫か?
…待てよ。私の国の鉄道が異常だったことを思い出した。
恐ろしく時間に正確で、時刻が十秒単位で管理されている鉄道。それが当たり前だったから「あと何分」って言葉が出るわけで。
この鉄道やブロンズの国の鉄道は、数時間単位の遅れが当たり前なのだろう。
「お暇でしたら、ニュースか映画でもご覧になりますか?」
そう言って、ナイラが大きめの箱のような物を取り出した。箱には大きな水晶玉が埋め込まれおり、何個かのレンズが並んでいる。
ニューアイテムに一同がどよめく。コロン達侍女も興味津々で近寄ってきた。
「何それ?」
「携帯映画館です。」
「あの新発売の!?」
むしろコロン達の方が食いつく。
「経費で落ちたの?」
「いえ、私物です。」
「高かったでしょう!」
「奮発しました。」
ナイラさんは、何かすごい買い物をしたらしい。侍女達が盛り上がる。
上の階の侍女達の歓声が気になったのか、エスクードとマンガンが上がってきた。
「どうしたんだ?」
「ナイラが携帯映画館を持ってるんです!」
「それは凄いな。」
エスクードも羨ましそうな顔をする。
「どんな映画が見れるの?」
コロンが水晶玉を覗き込む。
そう言えば、言葉使いがいつもの丁寧さと少し違う。どこか、はしゃいでいるような感じ。
そうか、コロンは親衛隊員だった。恐らく他の侍女も同じだろう。
エスクードを始め、親衛隊員の仲間がいるので、ちょっと気が緩んでいるのかもしれないな。
「いろいろ選べますよ。」
ナイラは水晶玉に手を置いて魔力を注ぎ込む。するとレンズから光が出て壁に当たる。
これ、映写機なのか。
だけど周りが明るすぎて、よく見えない。
するとエスクードが二回指を鳴らす。窓のカーテンが全て降り、車内が暗くなる。
すぐ暗さに目が慣れてくる。
壁に映し出された映像には、いくつかの絵とその横に読めない文字が並んでいる。
ネットの動画配信サービスの映画一覧みたいだ。
ナイラが作品名を読み上げてくれる。
「超大作なら『聖衣騎士団』シリーズとか、アクションは『大剣豪』、恋愛モノの『黒い魔王と白い魔女』。ホラーもどうですか。最近の人気作なら『アン&ワネット』。アニメなら『エンドルはじめて物語』なんてのもあります。」
アニメもあるんだ。そう言えば…映画しかないのかな?
「さっき、ニュースか映画って言ってましたけど、ニュースも見られるんですか?」
「はい。半月前から三日前までのものしか持ってきていませんが。」
持ってくる? 常に最新ニュースが確認できるわけではないのか。
見てみたいのはクーナによる襲撃事件のニュース。半月前ならあるんじゃないかな。
「どうやって新しいのを追加するの?」
「フィルムを送ってもらうんです。注文票とお金を転送魔法で送ると、数日後にフィルムが届きます。」
テルルが問うと、ナイラは箱を開けて中から数個の小さな筒を取り出す。
へー、それフィルムなんだ。
確かにその方法だと最新ニュースは無理だな。配信とかしてくれればいいのに。
「アクション一択だろ。」
ブロンズが『大剣豪』を推す。
「魔王と魔女の恋愛モノが気になるねぇ。」
高い声でテルルが対案を出す。
ブロンズの侍女もコロンも頷く。侍女たちは立場上、見たい物をはっきりとは言えないんだろうな。
「恋愛ものなんて、くすぐったくて観てられんよ。アクションなら何も考えんでも良いだろ。」
ブロンズも譲らない。マンガンがこっそり同意している。
そこへエスクードが口を挟む。
「『黒い魔王と白い魔女』は、結構激しいアクションもあります。『大剣豪』は終盤失速するんですよ。」
「エスクードさんはその映画を観たんですか?」
「はい、どちらも映画館で公開初日に。」
エスクードは映画好きのようだ。
コロンが我慢できずに聞いてしまう。
「どうでした?」
「良かったですよ。有名なおとぎ話ですけれども、大胆にアレンジされてて古臭さはないです。特にラストなんか…ムグっ」
コロンがエスクードの口を塞ぐ。
「ネタバレ禁止っ!」
ナイラはそんな皆の様子を見て、自慢気に言う。
「さあ、何を観たいですか?」
道具紹介
「携帯映画館」
・外から見えている水晶玉は操作用であり魔力を注ぎ込むと起動する。
フィルムを読み込み、水晶玉が一覧を作成する。選択されたフィルムはレンズ近くに送られ、内部の発光器で投影する。
複数のレンズで立体的な映像を表示することが可能だが、まだ対応しているフィルムは数が少なく高価である。
・自動車1台分くらいの金額。販促購入特典で話題作10本のフィルムが付属。




