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久しぶりに兵士長ギルダーに呼び出された。場所は、あの面接の時の部屋。
私と同期の転生者、テルルとブロンズも来ていた。後ろにはコロン達侍女が並ぶ。
正直、この部屋に良い思い出はない。主にギルダーのせいだ。この席の配置だって圧迫面接された時を思い出す。
だが今回のワタシは、ちょっとウキウキしている。
「久し振りだな、君たち。」
ギルダーの挨拶。
それだけでイラッとする。が、今日は許す。
今回は、部屋の左右に兵士が立っていない。もう私達が暴れる心配はないということだろう。
代わりにギルダーの横へ、ドラム医師、シェケル水軍長、ソル直轄部隊長、マンガン教導隊長が並んで座る。
三人の転生者の上司に、先輩転生者であるマンガン。
いかついおっさんだらけの中に、見た目は坊主頭の美少女であるマンガンが混じっていると、非常に浮いて見える。まあ、中身はおっさんなのだが。
こっちは、鱗の亜人と羽根の亜人と角の亜人だし、濃ゆい絵面だな。
そんなことお構いなしに、ギルダーは座ったまま話を続ける。
「今回は、君たちに魔法を覚えてもらう。」
そう!とうとう魔法を習得することになったのです!
昨日コロンに聞いた時から、ずっとテンションが上がっていた。
せっかく異世界に来たんだから、魔法の1つや2つ使えないと。
「細かい説明はウギアから。」
ギルダーの斜め後ろに控えていた中年の男が前に出る。
糸目で恰幅がよく、人当たりの良さそうな顔をしている。
「事務長のウギアです。今回の日程について説明させていただきます。」
事務長の話は、事務的な長い内容なので割愛。
要は、今から鉄道で神殿へと向かい、そこで神様から魔法を使えるようにしてもらうってことらしい。
先日は見ることのできなかった鉄道に乗れる。しかも一泊二日の小旅行だ。
それも神様に会いに行くためだって!
凄いな異世界。週末アイドルに会うような勢いで神様に会えるのか。
「説明は以上です。何か質問はありますか。」
ブロンズが手を挙げる。
水かきのついたリザードマンの手だ。
「なぜ鉄道で行くんだ? それこそ、魔法とかでは行けないのかね。」
「後で侍女に聞いてください。他に質問は?」
ウギアは本当に素っ気ない。丁寧な分、慇懃無礼に感じる。
ブロンズがさらに手を挙げる。
強メンタルだな、ブロンズさん。
「もう一つ、俺たちに魔法なんか覚えさせてどうする気だ。」
「それは吾輩の範疇では答えられません。」
ウギアはそう言ってギルダーの方を見る。
ギルダーは首を横に振り、目を閉じる。
答えられない秘密でもあるのか、ただ答えるのが面倒なのか。
「では、これ以上質問も無いようですし…」
「その質問には、自分が答えよう。」
ウギアが説明を終わらせようとした時、マンガンが立ち上がる。
「単純に言うと、魔法が使えないと不便だから。これに尽きる。」
さすがマンガン様。ギルダーと違って、ちゃんと説明してくれそうです。
「この世界では、魔法は使えるが電気や電波を使えないらしい。我々の世界とは物理法則が違う。」
電気…。私達の世界では電気がないと何もできない。
この異世界には、その電気がないってことか。
「この世界では魔法がないと何もできないのだ。自分も魔法を使えるようになるまでは、侍女が居ないと何もできなかった。」
確かに。今コロンが居なかったら、私は絶望するしかない。
マンガンが「気合でなんとかなる」と言わないのだから、本当にどうしようもないのだろう。
「電灯はなくても、照明の魔法があれば良い。電話はなくても、念話の魔法ができれば良い。魔法は、我々にとって科学の代わりになるものだ。」
マンガンもかなり苦労したようだ。
「自分たちの世界で電気が不可欠なように、ここで生きていくには魔法が不可欠。そういう事だ。」
「…うむ。分かった。」
ブロンズも納得したようだ。
ただ、リザードマンのワニ顔からは表情を伺うのは難しい。
「では、これで説明を終わります。」
ウギアがそう言って下がり、マンガンが座る。
代わってギルダーが立ち上がる。
「では、今から出発だ。各自、部隊長に最終報告後は、ウギアと行動を共にするように。では武運を祈る。」
ギルダーはさっさと部屋を出て行った。
ホントに「この人のために頑張ってやろう」という気を削ぐのが得意な上司だな。
ドラム医師が席を立って、テルルに話しかけに行く。逆にブロンズは、シェケルに近寄っていく。
私も立ち上がろうとしたら、ソルの方から来てくれた。
「いや、座っててくれ。お前さんを見上げるのは大変だからな。」
ソルが笑う。
「聞いてるかも知れないが、過去には神に会いに行って魂を抜かれた者も居るらしい。お前さんは大丈夫だと思うが、無事に帰って来るようにな。」
え?なにそれ。
ちょ…怖いこと言わないでくださいよ。
「帰って来たら、どんな魔法が使えるようになっているか楽しみだな。ハッハッハッ。」
ソルは高笑いをする。
さっきまであんなにウキウキだったのに、私は逆に不安が募りはじめる。
「引き継ぎが必要な事もないし、観光だと思って羽根を伸ばしてきなさい。」
ソルは私の肩をポンポンと叩く。
はじめは私を怖がっていたソルが、今では部隊の仲間として気軽に接してくれる。
「終わりましたら、集まってください。」
ウギアが集合を掛ける。
でも何というか……、報告の時間というより、お別れの時間っぽくない?
ちょっと余計に不安になるんですけど。
そんな私の気持ちとは無関係に、ウギアはマンガンと共に部屋から出ようと歩き始める。
私達はそれについてく。
「行ってきます~。」
テルルが手を振る。上司たちは部屋の扉の向こうで私たちを見送っていた。
マジでお別れ会みたいじゃないですか!
やめてよね。
登場人物紹介
「ギルダー」
種族:人間(コーカ人)
年齢:37
身長:179
体重:75
所属:第一籠城軍兵士長
好物:甘いもの
備考:
出世欲の塊。目上にはいい顔をするが、目下の者には…。
隠してはいるが、実は泳げない。泳げるようになるのが簡単ではない事を「その身を持って」知っているため、リザードマンの転生者が泳げないと知ってかなり落胆していた。




