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クーナ達には駅の手前で追いついた。ここまで来ると行き交う人も多いが、私の周りだけは混雑しない。
「あら、お友達もお見送りに来てくれたの? ありがとうー。」
お母様は私達にお礼を言うが、コロンを見て少し引いているのが面白い。
だが、私の目的は駅だ。
「これがコーカ駅ですか?」
石造りの大きな建物。太い柱が何本も立っており、大きな屋根を支えている。高さは四・五階建てのビルくらい。
ギリシャ神殿を思わすような重厚な造り。壁や柱には様々な彫刻がされていて、商店街の建物とは明らかに趣が違う。
それぞれの彫刻にも、いろんな……
ああ、写真撮りたい。
カメラが無いのが悔やまれる。
「はい。コーカ鉄道の始発駅です。さあ、行きましょうか。」
コロンが皆を誘導し、駅舎に入る。
いや、これはもう駅ビルだ。
一階がコンコースで、レストラン街やお土産屋が並んでいる。まっすぐ抜けると、駅前通りに出るそうだ。
二階がホームらしい。残念、ここからは車両を見ることができない。
「母さん、お土産を買わなくちゃ。あの角煮の缶詰って駅で売ってないかしら。美味しかったのよね〜。」
お母様がキョロキョロする。
「ここにはありません。」
まだコロンは冷たい答え方をする。
「あ。そ、そうなの。」
「お母様…あれは友達との食事会で食べた特別な料理なんです。街では売ってないどころか、限られた人しか食べられないんです。」
コロンにタジタジのお母様をフォローするクーナ。
でも、限られた人しかって、ちょっと大げさじゃない?
「そっか。ざ〜んねん。」
私達は、周りの人達からはどう見えているんだろうか。オーガの周りに侍女の制服を着た少女と、エルフの双子(みたいな親子)。
絶対に怪しい集団だよな。
駅構内の人通りが私達を避けているのは、私だけのせいではないはず。
「やっぱり、王都は物も人もいっぱいね。」
なんやかんや言いながら、お母様は保存の効きそうなお菓子っぽいのを買っていく。
私は後ろで、どんなお土産があるのかを見てるだけ。
あれはなんだ?と思っても、今は喋るなって言われてるから我慢。
「あら、もうすぐ発車時間ね。じゃあ、母さん帰るわ。」
「お母様、わざわざ足を運んで頂き、ありがとうございました。」
「いいのよクーナちゃん。あなたの成長が見れて良かったわ。」
素敵な親子の会話。
「今度は、もう一人のお友達にも会わせてね。」
「駄目です。」
お母様の社交辞令に、コロンが即答する。
しかも容赦ないマジレス。
私は吹き出してしまった。
お母様は引きつった顔で手を振り、ホームへと上がって行った。
***
コロンの転移魔法で、私の部屋の前まで戻ってきた。
扉を開くと、ビジネスホテルみたいなワンルーム。クーナの研究室の半分の広さもない。
私とコロン、そしてクーナが中に入る。
「で。なんで、クーナさんがいるんですか?」
ここは私の部屋です。
「だって、友達ですし。」
友達という立場を逆に利用されてしまっている。
…失敗したかな。
「お母様のお土産、私の研究室に入らないからお裾分けしようかと。」
それならしょうがない。
ぜひぜひ、私の部屋にどうぞ。
友達も良いものだ。
コロンの空間魔法に片付けていたお土産を、私のベッドの上に並べていく。
「これは魚の缶詰ですね。それから野菜の詰め合わせ…」
食料品が多いな。娘がちゃんと食べているか心配なんだろう。でも、あの研究室を見る限りは、適当に食べてそうだけど。
「あ、お菓子あった。」
クーナが原色の複雑な模様の入った箱を取り出した。
そう言えば異世界に来てから、スイーツは食べてないな。
「それは『粉雪舞い散る愛の灯火』ですね。しかも地域限定版ですよ、それ。」
コロンのテンションがあがってくる。
「あと、煎り豆粉。」
クーナが取り出した瓶に、コロンが反応する。
「それ、カワセ産のコーヒー豆じゃないですか!カワセ産は高級品。護衛室で飲むコーヒーとは比べ物になりません。なかなか手に入らない逸品ですよ。」
コロンがまくし立てる。テンション爆上がりのようだ。
今日は怒ったり喜んだり。こんなに感情の起伏の激しい彼女は見たことがない。
「早速、召し上がられますか?」
「良いよね、クーナさん。」
クーナも頷く。
コロンは早速ポットに湯を沸かし、テーブルに2つのコップと皿を並べる。
「コロンさんは食べないの?」
「わたしは侍女ですから。」
あれだけ盛り上がっておいて、そこを我慢できるなんて凄いな。
「一緒に食べましょう。」
「そうそう、みんなで食べよう。」
「お二人がそこまで仰るなら、ご相伴いたします。」
コロンはとても嬉しそうに笑う。
小さなテーブルを囲んで、お茶会となった。
「お砂糖は幾つ要りますか?」
「このお菓子甘いから、なくても大丈夫です。」
「ホントだ、甘い。」
「ミルク入れてみます?」
「こっちのお菓子も出そうよ。」
「コーヒー合うね。」
「クーナ様は、カワセ出身でいらっしゃいますか?」
「そう、カワセにエルフの里があるの。」
お菓子を囲んで、話も盛り上がる。
部隊じゃあまり話さないから、こういうのは新鮮だ。
クーナのお母様には驚かされたが、外にも出れたし、美味しい物も食べれた。
今日はちゃんと休日を楽しめた気がする。
やはり休みは重要だ。
リフレッシュしないと、心も体も続かない。
「そう言えば、コロンさんって休日は何してるんですか?」
コロンは毎日私に付いてくれている。
いつ休みを取っているんだ?
「任務の間、休みの日はありません。」
「そうなの?なんか、申し訳ないなぁ。」
と、言いつつも、私としては本当にコロンに休まれると困る。
「大丈夫です。こういう時間がありますから。」
そう言ってコロンはミルク入りコーヒーを一口飲む。
地方公務員の七割は、完全週休二日と有給休暇消化が当たり前だ。
残りの三割はそうじゃない。だけど役所では、コンプライアンス的に「休まないで」とは言えないから、どうしてもこう言い方をしてしまう。
「ちゃんとお休みを取ってくださいね。」
そう言って、本人に責任転嫁する。
つまりこの言葉の意味は、時間は自分で調整しろ、体調も自分で管理しろっていうことなのだ。
コーカ王国料理講座
『粉雪舞い散る愛の灯火』
マフィンでジャムを挟み、上から粉砂糖を振ったお菓子。ジャムの味によっていろんな種類がある。
コーカ王国の大手菓子メーカーが各地の工場で生産しており、お土産の定番となっている。
カワセ地域限定版にはイチゴジャムが挟まれており、かなり甘くてコーヒーによく合う。




