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「ちゃんとお母様に説明してよ。」
「あ、でも…お母様は苦手で。」
それはもう聞きました。
「もし、お母様がリラ様を襲っちゃったら、もう友達ではいられなくなると思うよ。」
「あ…そうですかね。…そうですよね。分かりました。ちゃんと話します。」
クーナは納得してくれたようだ。
***
やがて、お母様が目を覚ました。
「あ、クーナちゃん。ここどこ?」
「研究所の広場です。」
「あたし、何で寝ちゃって……あっ、そうだ!」
ベンチの前に立つ私達に気付いて、お母様は起き上がろうとするが、コロンの魔法陣に縛られて動けない。
「ああ……クーナちゃん、あなた騙されてるわ。母さんを助けてちょうだい。」
「お母様が、話を聞いてくれるまでは駄目です。」
クーナが毅然とした態度をとるので、お母様は少し驚く。
「クーナちゃん?」
「いいですか、彼女は友達ではありません。」
クーナはコロンを指差す。
「ふぇ?」
「手紙でお母様にお伝えした女友達は、ここには居ません。」
「でも、お友達って言って…」
確かに、あの時クーナは私達の方を向いて「友達」と紹介しようとしていた。
「友達はあのオーガの方です。新しい友達です。」
「えぇ!? あっちが友達?」
お母様は変な声をあげる。
「彼女はオーガの侍女なんです。ほら、侍女の赤い制服を着ているでしょう。」
「侍女ぉ?」
クーナはお母様相手だとスラスラと話せるようだ。
「母さん…オーガは、この女の手下だと思ってた…。」
手下…、なんか酷い言われようだ。
身長差が倍くらいある少女とオーガが並んでいたら、そういう風に見えるんだろうか。
「だから、全部お母様の勘違いなんです。」
「とりあえずクーナちゃん。お二人がどういう人達なのか紹介してもらってもいい?」
クーナの薬の効果が出ているのか、お母様は落ち着いて来たようだ。
でもコロンは拘束を解かない。
「こちらのオーガは、最近友達になりました。転生者の人です。」
「よろしくお願いします。」
クーナの半端な紹介に、私はペコリと頭を下げる。
「オーガが普通に喋った!? ホントに転生者なの!?」
お母様は目を丸くする。
「だから、サポートに侍女の方が付いているんです。」
クーナはコロンを紹介する。
コロンはニコリとだけして動かない。
普段なら丁寧な挨拶するだろうに、こりゃあ相当怒ってるな。
「あたしはてっきり…」
お母様によるとこうだ。
クーナの言う女友達は、オーガの血を渡すことと引き換えに、クーナに罪をなすりつけた。
出所したクーナを食事という餌で釣り、部屋に連れ込んで手籠めにした。
母親のあたしすら利用しようとして、女はオーガを用心棒として連れてきた。
そんな卑劣な奴にあたしは負けない!!
クーナちゃんを守らなきゃっ!
ってな感じだった。
なんてすごい妄想力。確かに、これは苦手になるのも分かる。
「…それで、わたしを攻撃されたということですね。」
コロンが冷淡に言う。
直情的に行動を起こしてしまうところが、クーナとお母様はよく似ている。そんな恐ろしいところが似なくても良かったのに。
「はい…、すみません。」
お母様はしおらしく素直に謝る。
「それにしても酷い誤解。クーナさん、どんな説明した?」
私はクーナを責める。
「お母様は念話魔法が得意ではないので、お互い手紙を転送魔法でやり取りしているんです。」
さっきクーナの手に手紙が落ちてきた魔法のことだな。
母親苦手+手紙でのやり取りだから、コミュニケーションが上手くできなかったってことか。
少なくともクーナは、自分から私を襲った事は言ってない。これは確実。
じゃなきゃ、罪をなすりつけるなんて誤解は生まれない。
あと、食事で釣って部屋に連れ込んだってのは、リラとの食事会とお泊り会のことだろう。
それをまあ……、ゲスい方向に想像したらそうなるのかな?
人間も歳を取るとゲスくなるから、長生きのエルフはそれ以上にゲスい考えがポンポン出てくるんだろうか。
「クーナちゃんはまだ幼いから説明下手なの。母さんとしては、言いたい事を汲んであげないといけないでしょ。」
そういうのが行き過ぎなければ良い親なんだろうけど。お母様の場合は、汲み取り方が尋常じゃない。
しかも、二十七歳のクーナを幼いだって?
「お子様扱いするのはやめてください!」
クーナが突っかかる。
「エルフは二百歳を超えてから一人前。クーナはまだまだお子様よ。」
お母様が一蹴する。
エルフってのは、百歳過ぎてもお子様扱いされるってことか。いろいろ大変だな。
「お子様だろうが一人前だろうが、友達関係なんて自由にすれば良いと思うけど。」
私がそう言うと、お母様が反論する。
「悪い友達がいたら、母親はそれを止める責任があります。ちゃんとしてたら、クーナちゃんが犯罪者になることもなかったのに…」
その気持ちは分からないでもない。
しかし、クーナが前科一犯になったのは自己責任です。
むしろ、ちゃんとした友達がいれば止めてくれていたんじゃないか。
「研究室で一人暮らししてるんです。独立してるんです。もう、自分で責任がとれます。」
クーナは自信を持って言った。
そうそう責任。
「クーナちゃん、そんなふうにしっかりとした事言えるようになってぇ。母さん嬉しいわ。」
娘の成長を喜ぶ母親。
やっている事が親バカを通り越して、バカ親になってないか。
「とりあえずクーナさんは、何があったか全部説明すること!」
クーナが私の方を見る。
「ぜ、全部ですか?」
「全部。」
「どこから?」
「私を襲った所から。」
「えええ!?そこから?」
それが全ての事の発端だろうが。
むしろ、なぜそれを話しておかなかった。
「人を襲っただなんて、ちょっと言い辛くて…。」
「どういう事?」
お母様がキョトンとする。
エルフについて(エンドル設定)
エルフは非常に長命で数千年も生きる。若い頃は、人間の年齢の十倍換算。
つまり二十七歳のクーナは、人間で言うと三歳前の幼児のような扱いをエルフ達から受ける。
とはいえ、成長の仕方は人間と同じため、人間からは大人と同じとみなされる。




