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マッドサイエンティストのクーナが、とうとう釈放されてしまいました。
その翌日。
私は朝からリラ将軍の部屋に呼ばれている。
「やだ、行きたくない。」
私は登園拒否の幼稚園児のように駄々をこねる。
コロンは私の説得に苦労している。
「将軍の命令なんですから、行かないといけません。」
命令なのは分かっているんです。でも、嫌なものは嫌じゃないですか。
リラの部屋に行ったら、間違いなくクーナが居るでしょ。間違いなく全身剃毛ですよ。
「ほら。特訓でいろんな場所の毛が焦げちゃったから、もう少し伸びてからの方が良いんじゃないかと思うんですよ。」
ドラゴンの火炎をあれだけ浴びたのだ。腕の毛などはほとんど無くなっていた。
「関係ありません。屁理屈はいいですから、行きますよ。」
コロンがまるでお母さんみたいな怒り方をする。
でも、体の大きさが私の半分くらいのコロンに怒られても怖くはない。
「今日頑張れたら、晩御飯はラーメンにしましょう。ね。」
今度はご褒美を出してきた。なだめ方が本当にお母さんっぽい。
見た目ロリっ子のコロンさんなのに…本当はおいくつなの?
「さあ、いい加減にしてください。行きますよ!」
「…はい。」
***
私はコロンに押されるようにして、リラの部屋にたどり着く。
「うふふふふふふふふふふふふふふふ。」
予想通りクーナが待ち構えていた。前回と同じ白衣だが、今日はちゃんと中に服を着ている。
だが、彼女だけではない。他にも白衣を着た人が二人いた。
一人は初老のおっさん。もう一人は顔がフクロウみたいな人。
「テルルさんじゃないですか!お久しぶりです。」
私はクーナを無視して、テルルに挨拶をする。
フクロウの丸々とした目がクリクリとして可愛い。
「お久しぶり。元気そうね。」
「はい、ありがとうございます。病院に配属されてるって聞きました。大変ですね。」
「そうなのよ。いろいろと忙しいけど、楽しいわ。」
そうだった、テルルさんは異世界転生を楽しめる人だった。
「今日は何でここに?」
「あなたの剃毛と採血を頼まれたのよ。」
剃毛は分かる。いや、分かりたくはないけど。
でも、採血もだって? 血も抜くのか。ヤだなぁ。
本当に実験動物にされてるみたいだ。
「心配しなくて大丈~夫。ドラム先生は名医だから。」
こっちの白衣のおっちゃんは医師なのか。
テルルとドラム先生は、テキパキと準備していく。
リラの話によると、クーナから「もらえるなら血液も欲しい」と言われたとのこと。
流石に採血するのは素人では無理ということで、軍立病院に依頼して医師と看護師を呼んだと。
グッジョブ、リラ様。
クーナに剃られたり、針刺されたりしたら、多分死ぬ。
ゴトリ。
テルルが、特製ベッドの横のテーブルに大きなカミソリを置く。
でかくない? 出刃包丁くらいあるよ。
しかもなんでこの部屋で剃毛する流れなんですかね!
せめて自室とか、病院でやって欲しいもんです。
続いて注射器が並べられる。私が見たことのあるシリンダータイプ。
異世界でも注射器はあるんだね。まあ、何人も転生者を迎え入れてるんだから、私たちの世界の技術も伝わっているということなんだろう。
T字カミソリも伝えて欲しかった。
あれ?さっきより大きい注射器も置いたぞ。
え?さらにもう一本。もっとでかい。浣腸用の注射器かよ。
うは、もっと大きいのが出てきた…
大小四本の注射器が並ぶ。
私、どんだけ血を抜かれるんだろう…
***
終わった。…拷問だった。
なんで、みんなに見られながら毛を剃られなきゃならんのか。
クーナめ…、「そこに毛が残ってます。」とか言ってんじゃないよ。
本当に私の体中の毛という毛は全て剃られた。ついでに爪まで切られた。ちょっと深爪。
色々な所に冷たい包丁を当てられて、何度となく変な声を出してしまった。そのたびにリラが笑う。ひどい上司だよな。
でもコロンさんたち侍女は、顔色一つ変えなかった。さすがだ。でもね、できれば見ないで欲しかった。
続いて採血。
小さい注射器は針が通らず、結局二番目に大きいのを刺された。ドラム先生が注射器を刺したまま、血管を探してあーだこーだする。
テルルさんが「痛いね。もう少しだけ我慢してね~。」というが、私は泣きそうだった。
採血量は常識的だったのは、さすが医師ってとこだ。これがクーナだったら、私は出血多量で死んでいたかもしれない。
私の血液が入った小瓶を手渡された時のクーナは最高に可愛い笑顔だった。
しかし、あの顔は私のトラウマになる。満面の笑みで血液を眺める様子は一生忘れられないと思う。
「ツルンツルンだね。」
そう言ってリラは私の頭を撫で回す。そのまま首筋へ…いや、僧帽筋から三角筋へと手を伸ばしていく。そして上腕二頭筋をさすりながら、しみじみと言う。
「毛の無い方が、筋肉ってキレイに見えるわ。」
自分には筋肉の良さは全く分からないので違いは不明だが、リラにとっては毛の有無は大きいようだ。
鏡を見せてもらう。
が…正直そんなに印象が変わった感じがしない。髪型だって、さっぱりしたな〜くらいにしか思えない。
オーガって毛があってもなくても一緒なんだな。
なんか…凹む。
「よく頑張りましたね~。」
テルルが甲高い声で私を褒める。
なんとなく子ども扱いされている気がする。
私、社会人六年目だよ。しかも体は人一倍大きなオーガ。コロンといい、なぜ私を子ども扱いするのか。
対して、ドラム先生はあんまり喋らない。
黙々と私の健康診断をして、何かを紙に書き込んでいく。こっそり覗いたのだが、何が書いてあるかは読めない。
そういや、なんで話している言葉は分かるのに、書いてある文字は読めないんだろうな。
クーナはその紙を受け取り、白紙の紙と重ねて持つ。そして紫色の魔法陣を展開する。
元の紙と同じ模様が白紙に描かれていた。
「うぉ、なにその便利魔法!?」
私は驚いた。魔法でコピーができるなんて最高じゃないか。
うわ~、良いなこの魔法。
コピー機に並んだりとかないし。
トナー交換しなくてもいいし。
網掛け文字が読めなくならないだろうし。
超便利じゃん。あの魔法欲しいな。
コピーした資料を見ながらクーナがほほ笑む。可愛いのだが、私は背筋が凍る。
「では、これで失礼します。」
片付けを終わらせ、テルルとドラム先生が出ていく。
もっとテルルさんとお話ししたかったなぁ。また会えると良いな。
「あ、ありがとうございました。ではこれでっ。」
慌ててクーナも、それぞれ毛と爪と血液を入れた瓶を鞄に片付ける。
「もう、行くの?」
「は、はい。研究室に戻ります。研究を再開しないと。」
「もう少しゆっくりしてもいいんじゃない?そうだ、晩ご飯一緒に食べようよ。」
リラがクーナを食事に誘う。
「いえ、あの早く、研究しないと。試料が傷むといけないですし。」
「その鞄の中なら保存できるんでしょ。」
「な、中は低温に保たれているので、数日は大丈夫です。」
持ち歩けるサイズの冷蔵庫ってことか。この魔法も便利だな。
「じゃあ、ご飯決定ね。」
「でででで、でも、でも。」
渋るクーナにリラが一言。
「友達でしょ。」
その言葉を聞くと、クーナはニヤけながら承諾した。
待てよ、私もクーナと友達になっておいたほうが、後々何かと便利なんじゃないだろうか。
「私も食事ご一緒してもいいですか?」
「テルル」
種族:羽の亜人・転生者
年齢:38(中身の年齢74)
身長:175
体重:42
所属:軍立病院第1病棟・看護士
好物:ブルスケッタ
特技:毎朝目覚ましが鳴る前に起きる。
座右の銘:人生は楽しまなければ。
備考:
前世は個人経営の小さな医院で看護士をしていた。
夫は医師で、医院の院長をしていた。二年前に高齢のため二人とも引退。
子どもはいなかった。




