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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
閑話:ラーメン讃歌

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  ジュルジュルジュルジュル。

  ゴクン、ゴクン。


「美味しい、美味しい、美味しい、美味しい。」


 私は麺をすすり、ただ美味しいと繰り返すだけの機械となっていた。

 コロンが次のラーメンを持ってくる。


「まだまだ、たくさんありますからね。」


 至福。


 もう六杯は食べた。

 今日はたくさん動いたから、とてもお腹が減っている。まだまだ食べられそうだ。

 ラーメンは好きだが、こんな量を食べたことはない。オーガの食欲恐るべし。


 麺の断面は丸く、角がない。これは生地を切って麺にしているのではなく、引っ張って麺にしているということだ。本当の拉麺。つまり、めちゃくちゃ手がかかっている。

 私なんかのためにこんな手の込んだ料理を作ってくれるなんて、本当にありがたい。


「私、こんなに食べても良いんですか?」

「大丈夫ですよ。」

「こんなに良くしてもらって…本当にありがとうございます。ジュルジュル。」


 そう言って麺をすする。箸が止められない。

 そういえば、今までこの世界の麺が出てきた事ないな。


「こういう麺料理ってのは、エンドルにはないんですか?」

「あることはあるんですが…。」


 歯の奥に何かが挟まったかのような物言い。


「人気がないとかですか?ゴクゴク。」

「いえ…。麺と言えば、有名なのはシヘーの料理なんです。」

「ああ、そう言うこと…」


 シヘー連邦って、コーカ王国と戦争してる国だっけ。

 敵国の料理だから食べられないということか。


「もしかして、ラーメンって作ってはいけない料理だったんですか?」

「そんなことはないですよ、あくまでもマンガン様のレシピですから。ただ…やっぱり他の麺料理は作りにくい雰囲気ですね。」


 料理には何の罪もないはずなんだけどな。

 戦争は、お互いの国の価値観がぶつかり憎しみ合う。それは料理をはじめとする文化についてもそうなのだろう。


 そう言えば、戦争中なのにこんな豪華な料理を食べさせてもらってもいいんだろうか。

 毎日必ず肉料理は出てくるし。戦時中ってもっとひもじい食生活なイメージがある。


「このそぼろは、何の肉なんですか?」

「はい、『粉砕されし(まつろ)わぬセーフリームニルの(ふもと)』です。」


 …そうだった。この国では、こういう分かりにくい料理名が当たり前だった。

 セーフリー…何の動物だ?私の脳内辞書にそんな言葉はない。


「手に入りやすいお肉なんですか?」

「野生ですがコーカ周辺には多い動物ですから、割と安定して供給されるお肉です。」


 へ~。スープに浮くそぼろを箸で集めて頬張る。

 美味しい。


「ただ、こういうご時世ですから、ちょっとお値段は上がってきていますが、それはどんな物にも言えることです。」

「こういうご時世…」


 もちろん戦争のことだろう。   

 まさかラーメンから、この世界での現実を突きつけられることになろうとは思わなかった。


「はい。以前より物は手に入りにくくなりました。先日の王都空爆からは特に。」

「本当に、私なんかがこんな贅沢なもの食べていていいんですかね。」


 私は少し不安になった。

 役立たずの私が食べてて良いのだろうか。


「大丈夫ですよ。そんな高級な食べ物ではありませんし。」


 コロンはそう言って笑う。


 そうだよな。私は指示されたことをちゃんとこなしている。

 やることをやっているんだから、その対価として美味しい食事と安全な寝床を確保するのは、雇用主の義務だ。

 そう考えたら気が楽になった。要は役所の頃と変わらない。与えられた仕事だけをきちんとやれば良いのだ。求められるのは百%。それ以上でも以下でもない。


  ゴク、ゴク。ゴクリ。


 汁を飲み干すと、私はお代わりをお願いした。


***


 十杯食べた。お腹が膨れた。

 次はぜひ豚骨ラーメンとか味噌ラーメンとか、ちょっとこってり系のラーメンをお願いしたい。


 いや、だめだ…、豚骨ラーメンのスープの作り方なんて知らない。ラーメンなんて、お湯を注いで三分待つくらいしかやったことがなかった。

 文明に頼りすぎて、個人の生き抜く力が低下してしまっている。


 本当にマンガンはすごいな。どんな味かわからないエンドルの食べ物で、転生前のラーメンを再現するなんてなかなかできることじゃない。

 しかも本業は料理人ですらないときた。できる人は、いろいろできるんだな。


 他の転生者も懐かしい料理を食べたくなったら、どうするんだろうか…。

 あの時(※第九話~第十二話参照)、一緒に面接した転生者を思い出す。


「そう言えば、テルルさんとブロンズさんはどうされているんですかね。」


 コロンは一通り後片付けを終えた所だった。


「テルル様は軍立病院で看護士をされています。」


 前世も看護士だったって言ってたもんな。やっぱり資格を持っていると異世界でも役に立つんだろう。私も何か資格を取っておけばよかった。とはいえ、簿記とか行政書士とか持っていても意味はなさそだ。


「たまに飛行訓練をしているのをお見掛けします。一人でも少し飛べるようになっておられますよ。」


 しかも飛べるのか…。

 テルルさんは絶対活躍すること確定だ。


「ブロンズ様は水軍隊に配属されております。」

「水軍ですか…ブロンズさん、泳げるようになったのかな?」

「泳ぎはかなり上達されました。彼が泳げなかったのは、泳いだことがなかったからです。」


 何だと…。

 あんなにギルダーからダメ出しされていたのに。

 ブロンズさんも頑張ったんだな。


「ブロンズ様がいるお陰で、水軍隊の戦術に幅が出るとシェケル様も仰っておられました。」


 そう言えば、良い声のおっさん(シェケル)って、今は水軍隊長だっけ。

 まあ、あれだけブロンズさんを擁護してたんだから、責任とった形なのかな。

 ブロンズさんが泳げてるってことは結果はちゃんと出しているわけだし、やっぱり有能な人なんだろうな。


「皆さん、頑張ってるんですね。」

「そうですね。転生者を迎えるのは賭けでもありますから、期待は大きいですよ。あなたも頑張ってくださいね。」

「あ、はい…。」


 先輩転生者のマンガンは教導隊長の地位にいる。コロンの言うところの「賭け」に勝ったんだろう。

同期のテルルとブロンズも、すぐにでも実戦に立てそうだ。


 私は…実戦で役に立ちたいわけじゃない。もう、役に立たなくても良いかなぁ。


コーカ王国料理講座

『粉砕されし順わぬセーフリームニルの麓』

 ・粉砕=ミンチ

 ・(まつろ)わぬ=従順ではない=野生

 ・セーフリームニル=猪

 ・麓=山足=脚

 つまり、野生の猪のモモ肉のミンチ。

 オーガは山間部に住んでいるため野生の猪をよく食べており、オーガの好物の一つである。コーカ王国には「(まつろ)う」=家畜化された猪も居るが、まだ数は少ない。

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