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ラーメン。
その源流は大陸の料理にありながら、極東の島国で魔改造され、独自の進化を遂げた料理。
それがラーメン。
魚介、豚骨、鶏ガラなど様々なダシをベースに、塩や醤油、味噌といった調味料でできたスープがそれぞれの地域の味を特徴づけている。
さらにスープに合わせるために工夫された麺の太さと固さ、各地の特産品等から作られる様々な具によるバリエーション。
それがラーメン。
ラーメン屋は津々浦々を網羅し、いつでもどこでも手軽に食べるようにインスタントラーメンを発明し、国民はラーメンをこよなく愛した。
これはもう国民食、ソウルフードと呼んでも差し仕えのない食べ物といえる。
それがラーメン!
まさか異世界で、そのラーメンが食べられるとはっ。
今日は、地獄の特訓で身体を酷使したものの、同じ転生者の教官から労いの言葉を掛けられ、王女様から直々にマッサージを受けた。
これまで私は頑張ってきたから、エンドルの神様からのご褒美だろう。
その締めが「ラーメン」である。
今日まで頑張ってきて良かった。本当に良かった!
ラーメン。
ラーメン。
私はラーメンが好きだ。
ラーメンは正当に進歩をしてきた料理であり、我らと我らの子孫のために、スープの協和による成果と、具の自由がもたらす恵沢を確保し、麺によって空腹を満たすことできることを決意し、ここにラーメンが存することを宣言する。
ラーメン!
ラーメン!
そもそもラーメンは、ラーメンの厳粛な信託によるものであって、その権威はラーメンに由来し、その権力はラーメンが行使し、その福利はラーメンが享受する。これはラーメン普遍の原理であり、ラーメンはかかる原理に基くものである。我らはこれに反する一切のラーメンを排除する。
ラーメン!!
ラーメン!!
ラーメンは恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのである。
ラーメンの法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは、ラーメンの主権を維持し、ラーメンと対等関係に立たうとする責務であると信ずる。
ラーメンの名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。
ラーメン!!!
ラーメン!!!
私はラーメンがめっちゃくちゃ好きだ。
***
「お待たせいたしました。ラーメンです。」
自室に戻ると、早速コロンさんがラーメン丼を持ってきた。
さすがに雷紋は書いていないが、丼の大きさはまさにラーメンサイズである。オーガの体サイズからすると、お茶椀程度の大きさしかないが。
少し黄みがかった透明なスープに浮かぶ中細のストレート麺。具は何かの肉のそぼろと、ネギのような香草。…それに干し海老みたいなものが乗っている。
皆さん!ラーメンですよ。
見た目は完全にラーメンです!
肉そぼろが具になっているのは担々麵の特徴に近い。だがスープは、あの独特の辛さを示す赤色ではなかった。
まず箸で麺を少しほぐし、汁に絡める。
レンゲはないから、丼ごと持ち上げてスープを一口だけ飲む。
ふーふー。ごくり。
口の中にスープを溜める。
ほんのり海老の香り。焦がしたニンニクのような香ばしさも感じる。甘みと旨みの中に少し苦みがある塩味のスープだ。
匂いをしっかり楽しめないこの体が恨めしい。だが、細かい味は分かるのが救いだ。
海老でダシを取った塩味のスープは、まるで海のようだ。
私は海を飲みこむ。脂分の少ないアッサリ系の汁はすすっと喉奥へ流れていく。
体の中に海が染み渡る。
続いて麺。箸で持ち上げる。
黄色い麺だ。
今までにパンが出てきたから、小麦のような植物があるのは確定している。しかし、小麦粉を練って伸ばしただけではラーメンの麺にはならない。それはうどんでしかない。
麺にコシを与えるもの。かん水。
これを加える事で、小麦粉のたんぱく質とかん水の炭酸塩が化学反応を起こし、ラーメンの麺はコシを持ち黄色く輝きはじめるのだ。
待て…この麺の黄色は本当にかん水だろうか。
玉子の黄色かもしれない…いや、もっと別のものが混ぜられている可能性もある。
このラーメンのレシピを生み出したのが、あのマンガンだというのが難しい所だ。
確かに彼は異世界でウーロン茶と角煮を再現した。だがしかし、彼は料理人ではなかった。ただの傭兵だ。
かん水を知らない可能性もある。もしかしたら、かん水入りの麺が嫌いかもしれない。かん水は量を間違えると、独特の臭いと苦みが出る。それを苦手とする者もいるからだ。
麺の臭いはわからない。
ちっくしょー!
オーガの鼻が潰れてなければ、もっとラーメンを楽しめるのに!!
もう一度麺をスープに浸し、ユラユラと揺らして麺と麺の間にスープを流し込む。
再びスープの海から上がってきた麺は、汁の衣をまとって、黄金に輝く。
ゴクリ、と思わず喉が鳴る。
これを我慢できる人間はいない。
ジュルジュルジュルジュルジュルっ!
一気に麺をすする。
本当なら火傷をしてしまうような熱さだ。しかし、私は火炎耐性のあるオーガだから気にならない。
「おいしい……」
かん水が練り込まれた中細ストレート麺は、海老ベースのスープによく絡み、麺のコシは心地良い歯ごたえを生み出す。
そして麺の喉ごし。食べているんだという実感を、生きる実感として味わわせてくれる。
マンガン様ありがとう。
これはラーメンです。
これが異世界ラーメンです。
具はどうだ?
そぼろ肉に箸を伸ばす。
スープの海に浮かぶ島のように茶色のそぼろが盛られており、そこから肉の脂分がじわじわと滲み出ている。
食感は豚肉だろうか。少し濃い目の味付けをされているが、アッサリしたスープに対してアクセントになっている。
そぼろの島を崩し、スープに混ぜる。そぼろを麺の上にのせて一緒に食べる。
「おいしい。」
麺の食感にそぼろの食感が合わさることで、口の中で複雑に味が絡み合う。
それだけではない。そぼろに混ざっている干し海老と香草が加わることで一気に風味が増す。
なんだ、この二重三重に仕掛けられた味のトラップは!?




