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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
7章:特訓の鬼

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 マンガンの特訓は、さらに三回繰り返された。

 早い段階で魔法力は回復にのみ使用して極力温存、できるだけスコップで対処という方針が固まる。

 回を重ねると、みんな野球やテニスのようにスコップで炎を打ち返せるようになっていた。一方、私はなかなか上手にできず、体で炎を受け止めてばかりだった。


 最後はドラゴンのほうが疲れてしまったので終了。


「良い気合を見せてもらった。」


 マンガンが褒めている(?)のだが、隊員たちは誰一人立ち上がる事ができなかった。

 私もそうだ。耐性があるから治療は不要だとはいえ、こんなに動けば体力も尽きる。


 事務のプラが走ってきた。

 プラが隊員それぞれに応急処置の魔法を掛け、ドリンクを配る。体力回復ドリンクとでも言うのだろうか。甘くて美味しい。飲んでしばらくすると少しだけ元気が出てくる。

 タラやフォリントも、ドリンクを飲み干して立ち上がった。

 まだ立ち上がれない者は、隣の隊員の肩を借りて整列する。


「本日の特訓はこれで終了だ。」

「「「はい!!」」」

「今回協力してくれたバーツ君はもちろん、ドラゴンのサタン君とサルン君、ワイバーンのティカル君にも礼を。」

「「「ありがとうございました!!」」」

「よし、解散!」


 私はまだ歩けなさそうな隊員を背負い、将軍府へ戻ろうとしていた。そこへ、マンガンが声を掛けてきた。


「話ができるかな。」


 そうだった。訓練前にそんな事を言ってたな。

 隣を歩くタラの顔を見ると、彼は頷いた。話してこいってことだ。

 私の背中の隊員を受け取ると、フォリントと一緒に両肩を支えて戻って行った。


***


「解散しているから『はい』以外で喋って構わないよ。まあ、ちょっと座ろうか。」


 マンガンは周囲を見渡す。そして見つけた運動場の端にあるベンチに腰掛ける。


「実は自分も転生者なんだ。」


 そうマンガンが切り出す。


 やっぱりかぁ。

 見た目と喋り方、振る舞いに違和感しかないもんな。

 素でこういうキャラだとしたら痛すぎる。


「前世は四十手前のオヤジだった。国軍を退役して傭兵をやっていてね。世界各地で多くの戦場を経験したんだ。」


 可愛い顔と可愛い声からは想像できない話が飛び出す。

 実戦をくぐり抜けてきたからこそ、あんな地獄の特訓を思いつくのか。それにしてもキツ過ぎるんじゃないか。


「それが今じゃ、女の子に転生させられて…。三十年以上鍛え上げた体もこのとおり。」


 マンガンは自分の胸をポンポンと叩く。たゆんたゆんと揺れる。


「転生は四年前。この体は当時十六歳の修道女だった。」


 マンガンは苦笑いをする。

 あー。この人も前世の体と、今の体のギャップに苦しんでるんだな。


 私も愚痴っていいかな。もう直轄部隊の隊員もいないわけだし、無口を装う必要もないはずだ。


「それは大変でしたね。」

「前世と同じなのは、この坊主頭だけさ。」


 まあ、髪型(それ)は何とでもなるもんな。

 ちなみに私の場合、全部剃られてしまうから髪型も自由にはできない。


「君の前世は何だったのかな。」

「事務員です。」


 私みたいに単なる事務員がオーガになるのと、ガチムチ軍人が可憐な美少女になるのと、どっちが悲劇だろうか。

 きっと後者は小説にちょうどいい内容だろう。『最強傭兵が異世界で美少女に転生して鬼教官やってます』なんて、ありそうなタイトルじゃないか。


「事務員か…。それがオーガとはな。転生ってのは本当に因果なもんだな。」


 マンガンは私を哀れむ目で見る。

 中身はともかく、美少女が潤んだ目でこちらを見るだんて、なかなか無いシチュエーションだ。


「この体は虚弱体質で病死したそうだ。どれだけ鍛えても筋肉はつかないし、体はついてこない。」

「私は逆に力が強すぎて、事務屋なのに字を書くことができません。」


 二人で笑い合う。


「やっと見つけた自分の居場所が、今の教導隊だ。今まで得た知見を教える教官なら、体力がなくてもやっていけている。」

「それで隊長までなられたんですね。」

「まあな。それが合っていたんだろう。」


 マンガンが立ち上がり、私の肩に手を置く。


「君にもきっと居場所が見つかる。だから何事も諦めるなよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「本当は、自分と君の転生が反対だったら丁度良かったのかもしれないな。」

「…そうですね。」


 私はそう言うのがやっとだった。


「しかし、これも運命だ。気合を入れろ。何とかなる。自分は気合で何とかなったよ。」


 すっごい勇気づけられる言葉を掛けられた。

 やっぱり良い上司じゃないか。


「いつでも連絡してくれ。念話魔法の契約をしよう。」

「すみません。私は魔法が使えないんです。」

「そうか、まだなのか。」


 まだ?ってことは、私でも魔法が使えるようになるんですか。マジですか。


「魔法はもう少し先になるかと思います。」


 気が付くと、後ろにコロンが立っていた。


「おお、コロン。」

「コロンさん。」

「申し訳ございません、ご挨拶もせずにお声掛けして。」

「構わないよ。」


 マンガンがさっきまで自分が座っていた所を指差す。ここに座れと言う事だろう。


「いえ。申し訳ございませんマンガン様。次の予定がありまして。」


 コロンは本当に申し訳なさそうに謝る。


「そうか。久しぶりだったので、もう少し話たかったのだがな。」


 マンガンが残念そうに言う。

 なんていうか、中身はもうお爺ちゃんみたいだな。普段会えない孫ともっとお話してたいって感じ。


 コロンが私の隣へ立つ。

 そうか、コロンは私を迎えに来たのか。きっとリラの筋肉お触りタイムだな。


 私は立ち上がり、マンガンに礼をする。


「ありがとうございました。」

「おお、お辞儀か。やはり君とは近い国出身のようだな。」


 マンガンも礼をする。


「コロンを通じてで構わない。相談したいことがあったら連絡してくれ。」

「わかりました。」

「コロン、また君の手料理をご馳走してくれ。」

「もちろんでございます。」

「では、また会おう。」


 マンガンは青い魔法陣を描いて、その中へと消えた。

 うわー、私もあんな魔法出来るようになりたいなぁ。


「さあ、リラ様の部屋へ行く前にお風呂にしましょう。」


 こっちは地獄の特訓後で死ぬほど疲れてるんですけどっ!!

 風呂の後は早く寝たい…

 将軍の護衛なんて後方の楽な仕事だと思ってたのに、なんてブラックなんだ。


登場人物紹介

「マンガン」

種族:人間(コーカ人)・転生者

年齢:20(中身の年齢42)

身長:160

体重:53

自称:自分

所属:第一籠城軍教導隊長

特技:戦闘・格闘術

趣味:戦闘・サバイバル料理

好きな言葉:気合

備考:

 四年前の転生者。当時はシヘー連邦と開戦直前で、戦争に備え多くの転生が行われた。

 本人は野草や野生動物などを使って、限られた道具で調理することが好き。

 転生した体は夭逝した修道女。修道院前に捨てられていた孤児だったため、血縁はいない。

 細身なのに胸は大きい。が、本人は全く嬉しくない。髪型は前世と同じで丸刈りにしている。

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