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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
7章:特訓の鬼

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 目の前にいるドラゴンの吐く炎が、私を襲う。


「熱っ!熱い!」


 スコップを投げ捨て、腕で頭を守る。

 それでも目の前を炎が覆う。


「燃えてる!助けてっ。」


 助けて。何とかして。どうしたらいい?

 大パニックで考えがまとまらない。


「任せろ。」


 フォリントの声がする。

 次の瞬間、強い風が吹いて炎がかき消える。


「ありがとう、ございます。」

「火傷は?」


 後ろに立つタラが聞いてきた。上空のワイバーンからの炎を無事弾いたようだ。


 そうだな、特に痛いところはない。

 ヒリヒリもしない。

 腕を見てみても、腕毛が焦げた程度。


「何ともない…」


 燃えたのも上半身の服だけ。私の体は赤くなっているところもない。


「なんと、オーガには火炎耐性があるのか…。」


 マンガンが驚嘆の声をあげる。

 耐性?いやいや、めっちゃ熱かったんですけどっ!!


「「うわぁぁぁ。」」


 今度は円の反対側が攻撃を受けたようだ。

 まだ終わってないのだ、気を抜くことができない。


***


  ジリリリリリリリリリ…


 タイマー魔法の音だ。


「終了!」


 マンガンが高らかに宣言し、上空のワイバーンが降りてくる。

 隊員全員がへたり込む。


 終わった。良かった。

 結局、私は四発の炎を体で受け止めることになった。

 クーナには申し訳ないが、あちこちの毛が焦げてしまった。仕方ないよな。


「ここへ炎が届いたのは一回だけだ。十分に及第点と言える。」


 マンガンはいい笑顔を見せる。


 顔は可愛いんだけどな。

 ただでさえ普段よりキツめの準備運動をさせたうえで、こんな特訓。「マンガン地獄」と恐れられる理由が分かった気がする。


「反省会をしよう。何か意見がある者は?」


 全員が息が上がっていて、声を出す気力がなかった。


「ハハハハ。これじゃあ仕方ない。半時間の休憩の後に反省会としよう。」

「「「はい……」」」

「誰か、みんなの新しい服を持ってきてもらえるように連絡してくれないか?」


 確かに、ほとんど全員の服が燃えてしまっている。いろいろとはみ出している者もいる。それだけ苛酷な訓練だったのだ。

 私は、塹壕のおかげで燃えたのは上半身の服だけだった。


 新しい服が届くまで、寝転んで体力を回復させる。さすがのオーガの体と言えども、しんどくて息切れをしていた。

 他の隊員たちは、回復魔法でお互いの火傷を癒やしあっている。

 間もなく、事務担当の隊員プラが新しい服を持ってきた。


「言われたとおり耐火服です。」

「ありがとう。」


 各隊員が新しい服に袖を通す。

 見た目は先程まで着ていた物とほとんど変わらない。魔法か何かで強化してあるのだろうか?


「ごめんなさい。オーガ用の大きいのが無くて…」


 私にはいつものオーガ用の服が渡される。プラは人一倍体が小さいから、渡される服がいつもより大きく見える。


 まあ、私の体の大きさが規格外だから、いきなり耐火服なんて準備できないよな。

 ってか、なんで今さら耐火服を?

 これからは反省会だろうに。特訓前に渡して欲しかったよ、全く。


 プラが焼け焦げた服を持ってちょこちょこと戻っていく。

 全員が着替え終わった頃を見計らって、マンガンが声をかける。


「そうだ。遅くなったが、今回の特訓の協力者を紹介しよう。」


 さっきまでワイバーンの背中に乗っていたであろう人が、ワイバーンとドラゴンに餌を与えていた。

 マンガンの声を聞いてこちらを振り向く。

 隊員たちは立ち上がり、気を付けの姿勢を取る。


「彼はバーツ君。優秀なドラゴンテイマーだ。若いのに、サーカスの団長も努めている。」


 バーツがこちらを向いて手を振る。


「「「ありがとうございます!」」」


 サーカス? コーカ王国にもサーカスってあるんだ。

 このドラゴンとワイバーンって、サーカスの曲芸動物扱いなの!?

 三輪車に乗るクマとか、一本足で立つ象とか、火の輪くぐりするライオンとか、そんな括りでいいのか?


 ドラゴンたちは器用に両手で肉を掴んで食べているのに対し、ワイバーンは地面に置いた肉に齧りついている。

 サーカスだと聞くと、炎を吐いている時はあれだけ恐ろしかったのに、尻尾を振りながら食事している姿は可愛らしくもある。


「これだけドラゴンが使えるなら、ドラゴン部隊も有効だな。ヘリ同様の運用ができるんじゃないか。…シェケル殿に相談してみるか。」


 マンガンが何かブツブツと言っている。

 意外と短く感じた休憩時間が終わり、反省会が始まる。

 何かが終わったらすぐに反省会を行うという文化は素晴らしいと思う。


「魔法で防ぐのも限界だ。魔法力が足りなくなる。」

「スコップでも炎を弾けるんだから、そちらを優先しないと。」

「塹壕のアイデアは良い。上空からの防御に専念できる。」

「負傷者の回復に使えるな。」

「正面と上空へ同時に警戒するのが難しいな。」

「だからこその二重円じゃないか。とても実戦的な訓練になってる。」

「円を三重にするのはどうだろうか。一番内側は指示役兼最終防衛ラインとして。」

「円の隙間が広くなるじゃないか。」

「最低限でいいと思う。二、三人くらい。円を東西のグループに分けて…」

「指示が混乱しないかな。グループの間に来たときにどちらの責任になるとか。」

「いや、そこは…」


 様々な意見が出る。

 私はそれを黙って聞いている。

 どうせ、私は真正面からの炎を受ける役になるのは確実。


 ああ、こんな前線っぽいことじゃなくて、私はプラみたいな事務の仕事が良かったなぁ。そっちの仕事の方が得意なんだが。

 とはいえ、ペンをへし折ってしまうようなこの怪力で事務は無理だし、火炎耐性持ちの身体を後方に押し込んでおくなんて許してはくれないだろう。


「では、今の反省点を活かして、もう一回だ。」

「「「はい!!」」」


 なん…だと…。もう一回!?


 今度はドラゴン二頭が空に舞い上がる。


「今回の主な目的は対空防衛訓練だ。さらに気合を入れろ!」

「「「はい!」」」


 隊員たちが配置につく。

 マンガン地獄はまだまだ入口だったのだ。

 それが分かってたから、プラに耐火服を持ってこさせたんだな。


 いい上司だなんて思ってたが、撤回する。

 鬼。悪魔。地獄の魔王!


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