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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
7章:特訓の鬼

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 七日後…私の髪はまだフサフサとしていた。

 ここ数日は朝から部隊のメンバーと一緒に、外の運動場で走り込みや筋トレをさせられている。

 

 結局、クーナは半月の禁錮刑となった。本来なら一年の懲役刑でもおかしくないとソルは言っていたが、それだけで済んだのはリラの口添えがあったからだ。

 おかげで私はまだツルツルにならずにすんでいる。が、それもクーナが出てくるまでの間。それを思うと憂鬱になる。


「いっちにーさんしー。」


 私はスクワットのような事をさせられている。まあ、こうして体を動かしているだけでも気が紛れて良い。


「ごーろっくしっちはち。」


 部隊には顔見知りもできた。

 私の隣で号令をかけながらスクワットをしている若者はタラという。私が初めて将軍府に行った時にソルと共に案内してくれた人だ。


「よし、終了!」


 タラが終了の号令をかける。

 直轄部隊ではあまり喋るなとコロンから念を押されているので、私はほぼ無口で居るのだが、彼は何かと私を気にかけてくれる。


「ふぅ。さすがオーガだ。これだけのメニューを平気でこなすとは…。」


 タラは、私の持久力に舌を巻く。

 オーガの体にはまだ慣れていないと思うけれども、その持久力には自分でも驚いている。朝からこの広い運動場を二十周くらい走らされたうえでのスクワットなのに、息切れすらしていない。

 タラは座り込んで胡座(あぐら)をかいている。他の兵士達も、脚を投げ出す者や寝ころぶ者ばかりだ。


「今日のアップはいつもよりきついぞ。」


 同僚のフォリントが息も絶え絶えに愚痴る。タラが絶望的な顔をして答える。


「マンガン様から、特別訓練前までにこのメニューをこなすように言われてるんだ。」

「うわー、きっつー。」

「今日の特別訓練はマンガン様かぁ。」


 兵士達は口々に絶望の声をあげる。


「マンガン様?」


 タラに聞く。無口にしているとは言え、私だって最低限のことは喋る。


「ああ。マンガン様は()の教導隊長だ。今日これからの講師をしてくださる。」


 タラは「鬼」に力を込めた。他の隊員もぼやきはじめる。


「鬼っていうか、悪魔だよ。魔王。」

「マンガン地獄だ。」

「今日は泣くなよ。」


 そんなに恐ろしいのか。

 ハートマン軍曹 (※1)みたいな、おっそろしい軍人が頭に思い浮かぶ。


「心しておくんだぞ。」


 タラはそう言って立ち上がった。フォリントが皆に声を掛ける。


「そろそろマンガン様が来られる。整列しよう。」


 隊員達は三列に並ぶ。私は三列目の一番端に立つ。列の中に入ってしまうと、体が大きすぎて列が乱れてしまうからだ。

 間もなく、運動場に二人の人影がやってきた。よく見ると、そのうち一人はコロンだった。


「気を付け~っ!」


 全員がピシッと背筋を伸ばす。

 と言うことは、コロンさんと一緒にやってきた人が、マンガン様か。


 サングラスのようなものを掛け、軽装の軍服を着ており、コロンと談笑しながら歩いてきた。私たちの近くまで来ると、コロンはお辞儀をして戻っていった。

 マンガン様は、体はそんなに大きくないが、坊主頭で精悍な顔付き。何だか威圧感のようなものを感じる。


「みんな、おはよう。」

「「「おはようございます!」」」


 全員で挨拶を返す。


 ん?

 マンガン様の声って、とても可愛らしい声だな。

 …こういう状況、前もあった気がする。


「みんな、楽にしてくれ。」


 マンガンはそう言うとサングラスを外した。優しいたれ目と長いまつげ、青い瞳が(あらわ)になる。肌のツヤを見ても、二十歳そこそこの女性だ。これでキレイに刈り上げた頭なのだから、違和感が半端ない。


「今日は絶好の特訓日和だ。気合入れろよ!」


 言葉使いが軍人っぽいから、違和感が加速する。


「「「はいっ!」」」


 全員で返事する。


「いい返事だ。気合が入っていて宜しい。」

「「「はい!!」」」

「もう準備運動(ウォームアップ)は済んでるな。」

「「「はい!!」」」


 教官に対して「はい」以外の返事は許されていない。こういう体育会系のノリは好きじゃない。


「よし。本日の特訓は、対空防衛訓練を行う。」

「「「はい!!」」」


 マンガンは、並ぶ隊員の間を歩きながら話し始めた。


「君たちは将軍直轄部隊として選ばれた精鋭である。直轄部隊は将軍府の護衛だけでなく、極秘任務や特別任務もこなさなければならない。そうだろ。」

「「「はい!!」」」


「どんな状況にでも対応できるだけの経験を積む必要がある。それが直轄部隊のあるべき隊員の姿だな!」

「「「はい!!」」」


「先般の空爆攻撃という新しい戦術の登場によって、戦い方と守り方の見直しが求められることになったのは知っているだろう。」

「「「はい!!」」」


「空への防衛。ドラゴンやワイバーンと戦うようなものだ。気合を入れてかからねばならん。分かっているな。」

「「「はい!!」」」


 見た目はほぼ女のコなのに、喋りや動きは軍隊のおっさん。変な感じ。

 ただ、この人。これからやることの意義や目的をちゃんと説明してくれている。なんて、いい上司だ。うちの役所の上司も、こんな人だと良かったのに。


 マンガンは私の前で足を止める。


「君が噂のオーガか。」

「はい。」

「訓練後に話をしよう。せいぜい訓練で倒れないようにしてくれよな!」

「はい!」


 倒れる…冗談かな?冗談だよな。


「では早速、対空防衛訓練をはじめる。俺を防衛拠点として、空からの攻撃に備えろ。」


 各人が一本ずつスコップを持たされ、マンガンを中心に二重の円を描くように立たされる。


「外の円は地上からの攻撃に、内の円は空からの攻撃に対応する。お互いがお互いを守ることになる。気合を入れろ!」

「「「はい!」」」


 私は魔法なんて使えないから、空に対抗する手段がない。だから外の円に立たされる。

 ってか、特訓の相手はどこだ?


 その時、遠くからバサバサと何かが飛んでくる音がする。羽音が近づくと、風を切るシューという高い音も聞こえてきた。


「マジか…。」


 私の後ろ、内側の円に並ぶタラが呟く。


 なんで、そんな絶望に満ちた言い方するんですか。不安になるじゃないですか。


※1 ハートマン軍曹(はーとまん-ぐんそう)

 スタンリー・キューブリック監督の1987年の映画「フルメタル・ジャケット」の登場人物。

 映画前半に登場し、海兵隊訓練所で新兵を鍛え上げる鬼教官。

 人格を否定するような罵倒、強烈な叱責、暴力を伴う体罰により、観る人に強烈な印象を残した。

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