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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
6章:初めての任務

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29/200

二十九


 役所に新規採用された人間の多くが最初に所属する部署。それが生活保護だ。

 恐らく、役所の規模にもよるのだろうが、私の同期は半分が放り込まれた。

 特に不況が続いていたから生活保護の受給者が増え、担当者が人手不足になっていたのもあるだろう。


 生活保護受給者と一くくりに言っても、とても多くの種類の人間がいる。

 暴力旦那から逃げてきた母子、精神を病んでクビになった独身、出所して人生やり直す元ヤクザ、息子に縁を切られた老人、仕事なんてしたことがないお薬中毒者。


 真面目に頑張って居るのに報われない人や何で生活が苦しいのか分からない人、死ぬまでただただ時間を消費するだけの人。 

 多種多様な人間と付き合わないといけないから、人間的に成長する事請け合いの職場だ。

 私も入庁して最初は生活保護の担当になった。一年半も経つと、仕事にも慣れてくる。


「お疲れ様ぁ。」


 外回りから同期の椎津が帰ってきた。彼も生活保護の担当だ。新人研修で同じ班になったので、よく話をしている。

 今日も早速話しかけてきた。


「今日行った受給者(ケース)の家でさ、最新ゲーム機置いてあってさ。画面の左右にコントローラーがくっついてる奴。」

「へー、あれ三万くらいするでしょ。しかも、品薄でなかなか売ってないんじゃないの?」

「そうなんだよ。なのに、あの家にバーンっと置いてあってさ。どこにそんな金があるんだって話。」


 生活保護費だって、生活ギリギリのお金しか出てないわけじゃない。ちゃんと切り詰めれば、ゲーム機だって買える。


「ゲーム機なんかじゃなくてさ。もっと生活に必要なモノを買うとか考えないのかな。」

「彼ら仕事してないから、暇はどれだけでもあるからね。まあ、パチンコや競馬につぎ込むよりはマシじゃない?」

「それはそうなんだろうけどさ。」


 彼は私より少し下のランクの大学出身で、少し頭が固かった。法律やルールの意義をとても大切にしている。


「やっぱり、もっと計画的に使うべきだろう?」

「それができる人なら、生活保護にならないって。」

「それもそうか。」

「もしかしたら隠れて働いてるかもよ?」

「そうだったらヤバいなぁ。」


 私が冗談っぽく言ったが、彼は深刻な顔をする。


「まずは口座調べて、変な入金ないか調査するか。同意書取ってこないとだな。あと、給報ってどこ行ったら見れるんだっけ?」


 彼は調べる気満々のようだ。


「市民税課で見れるよ。ってか、前も母子家庭にそんな調査してなかった?」

「あれは何にも出なかったんだ。」


 担当者一人で、八十~百件の受給者(ケース)を担当する。こんな調査を全部にやっていたらキリがない。本当に怪しい奴だけを狙わないとこっちが壊れてしまう。実際、毎年何人かの職員が壊れてしまうらしい。


「あんまり根詰めないように…」

「分かってるって。」


 そう言いながら、今日も残業をするんだろう。彼がどれだけ仕事を器用にこなしたとしても、人間的には不器用だから、結局自分を追い込むことになる。

 真面目なのは良いことなんだろうけど、無理はしないで欲しい。


 私は、私の出来る範囲だけで頑張ろう。それでも十分仕事は出来ているのだから。百%を目指せば良いんだ。百二十%は期待されていない。


 数週間後、彼はあのケースのことで私に相談してきた。結局、隠れた収入を見つけて返還請求の起案をする羽目になっていた。

 仕事の話が終わったあと、ぽつりと呟いた。


「なんか……しんどいんだ。」

「明日休みな。ちょっと頑張りすぎだよ。」

「でも、この決裁は早く回さないといけないでしょ。」

「どうせ係長で止まるって。係長の机見てみなよ、あの決裁文書の数。」


 担当者が一人百件持つと言う事は、五人の部下を持つ係長は五百件分の決裁が回ってくることになる。毎週それだけの数が来るわけではないが、月締めの直前はやはり決済の数が尋常でない量になる。


「一日くらい遅れても大丈夫だよ。」

「大丈夫か…じゃあ明日休むかな。」

「そうしな、そうしな。」

「ん…、なんかさ。今日、精神障害の受給者(ケース)の家に訪問して、話を聞いてたんだよ。」

「それで?」

「気持ちが分かるというか、同じような境遇だったのかなって思えてさ。自分と同じように頑張ってる人でも、生活保護になってしまうのかっていうのが…」


 これはやばい傾向だ。

 受給者(ケース)に共感してしまうのは危険な気がする。

 私はなんて言ってあげたらいい?


「でもさ…


***


 眩しくて目が覚めた。


「おはようございます。」

「あ。ああ、コロンさん。おはようございます。」


 コロンが朝食の準備を終えていた。机の上には料理の皿が並んでいる。


 役所の頃を夢に見るのは、大概コロンさんに魔法で起こされた時だ。目覚めとしては最悪の部類に入る。


「コロンさん…あの、また反睡眠魔法を掛けました?」

「はい。早く朝ご飯を食べないと。もうすぐ訓練の時間ですよ。」


 そうは言っても、今日はテンションが上がらない。

 昨日はクーナから全身剃毛を提案され、それをリラに承認され、コロン達に同情されたのだ。

 夜になって、一人になって、何だか情けなくなって、涙が止まらなかった。


 私は一晩中泣いて寝落ちした。故に今朝寝坊したのだ。

 しょぼんとする私に、コロンが声を掛ける。


「元気出してください。」

「そうは言っても…」

「だったら、良いニュースがあります。多分、あなたにとっては良いニュースです。」


 確かにコロンの報告は、私が喜ぶものだった。


「クーナさんは軍法裁判にかけられることになりました。おそらく当分出てこられませんよ。理由はともあれ、あの人は将軍一行を襲撃したんですから。」

「本当ですか。」

「判決はまだですが、リラ様の友人になったといっても、何かしらの罰を受けることになります。」

「ありがとう。ちょっと元気が出ました。」


 さあ、朝ご飯だ。

 今日も頑張ろう。


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