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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
6章:初めての任務

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 クーナは、ほぼ裸同然の格好に白衣だけをまとった状態で連れてこられた。その体には何重にも動きを封じる魔法陣が取り巻いており、文字通り手も足も出ない状態となっている。


 私が心の中で応援したお陰なのか、リラのワガママが通り、将軍によるクーナの尋問が行われることになった。

 しかも、将軍府にあるリラの居室でだ。


「何でここで?」

「リラ様が将軍府で一番落ち着いて尋問できる場所、だそうです。」


 さすがコロンさん。きっとリラに同じ事を聞いたに違いない。そして私と同じことを思ったはず。


(マジか…。)


 基本この部屋に入れるのは、リラ将軍と侍女くらいで、私たちは例外中の例外らしい。

 私がクーナを抱きかかえ、この部屋に運び入れる。応接テーブルのソファにクーナを座らせた。

 テーブルの反対側のソファにはリラ。クーナを睨みつけている。


 しかし、護衛の兵士も付けずに襲撃者を将軍の居室へ置いとくだなんて、本当に大丈夫だろうか。

 まあ、なんかあったらコロンがなんとかしてくれるでしょ。


「これがあなたの調査書。」


 リラは一枚の紙を持っていた。

 そこには、さっきの間に兵士たちが調べた内容が書かれていた。

 恐らく本人への尋問も終わっていて、あらかたのことは調べがついているのだろう。裸同然の格好なのも、他に武器がないかを調べられた結果のような気がする。


 リラが紙を読みながら質問する。


「あなたは国立研究所の上級錬金術師で、薬学の研究をしてるんですって?」

「はい…」


 さっきとは違い、クーナは消え入りそうな声で答える。長く尖った耳も、心なし下がってしまっているように見える。


「で、万能解毒薬を作る研究をしていたと。」

「…はい…」

「で、その材料にオーガの髪の毛が必要だと!」

「…は…い…」

「で!オーガを見つけたので、衝動的に襲ったと!!」

「……は…」


 どんどん語気が強くなるリラに対して、クーナの声が聞こえなくなるくらいに小さくなる。どちらも目には涙が溜まっている。


「で!結果、わたしのお楽しみの時間が潰れたと!!」

「ごめん、なさぁい…わぁーん。」


 クーナがとうとう泣き出した。大粒の涙が零れる。


「リラ様、もうそのくらいにし…」


 侍女のちっさい方が声を掛けると、リラも泣いていた。

 視察が中止になった事が、泣くほど悔しかったのだろう。クーナに負けじと大きな涙が出る。


 尋問をしているはずの将軍と、尋問を受けているはずの襲撃者のどちらも泣いている。

 気が付くとリラの侍女2人も、もらい泣きしているではないか。


 私とコロンは、このカオスな空間で、どうしたらいいか迷っていた。


「コロンさん。これ、どういう状況ですかね?」

「わたしもさっぱり…。でも、リラ様が涙を流すところを見るは初めてです。」


 リラの侍女2人もオロオロと泣いており、なぜ泣いているのか聞くこともできない。私たちはどうしようもなく、みんなが落ち着くのを待つしかなかった。


***


「泣いたらスッキリしたわ。」


 リラの目は真っ赤に腫れているが、顔は晴れやかだった。


「さて、クーナさん?」

「は、はい!」


 クーナもひとしきり泣いて、スッキリしたようだ。ただ、魔法陣で動けなくなっているから、乱れた白衣を直せないのが可哀想だが。


「閃光ボールを使ったのはなぜ?」

「さっきも尋問で聴かれましたが、オーガは夜目が利くんですね。だから、強い光を見せてやれば目が眩んで動けなくなるはずだと思いまして。」


 その説明を聞いて、リラは笑った。


「でもそれ、暗闇なら意味あるかも知れないけれど、昼間は無駄でしょ。」

「あ…」


 リラに指摘されて、クーナは驚いた顔をする。初めて気付いたのだろう。


 分かった…。こいつ、バカだ。

 いわゆる頭の良いバカ。

 知識の量や計算問題を解くことには長けているかも知れないが、それを実生活や社会の中で生かすことのできないタイプだ。


「何というか…学者肌ですね。」


 コロンが呟く。私と同じことを考えている。

 リラはクーナに興味を持ったようだ。


「ふふ。あなた、オーガに詳しいの?」

「どちらかというと解毒薬の研究を専門としてですね、オーガの持つ強力な毒耐性を……」


 クーナは自分の研究のことになると、目が鋭く光り、長い話でも詰まることなくスラスラと説明する。


「それはもう聞いたわ。オーガに詳しいかって聞いてるの。」


 リラが話を遮る。そうでもしないと、彼女の話は終わらない。


「はい。文献のみにはなりますが、オーガについての研究はしました。国立図書館にあるオーガに関する本は、論文から絵本まで一通り読みましたのでね。国立研究所の他の研究者よりはオーガについての知識はあるかと思います。」

「つまり?」

「この国で一番オーガに詳しいですね。」


 そう言うと、クーナの目が鋭く光る。

 リラは拍手をした。


「あなた、面白いわ。お友達になりましょう。」


 リラの言葉に一同がひっくり返る。まずは背の高い侍女が声を上げる。


「リラ様!何を突然。」

「あら、本気よ。今回の件だって、オーガを狙っただけで、この子にスパイ目的だとか、国家転覆思想だとかの危険があるわけじゃないし。」


 思想が危険じゃなくて、行動に問題があると思いますが。

 そもそも、私の髪にとってはかなり危険です。


「良いんですか?」


 小さい方の侍女が、眉をひそめて言うと、


「わたし、こーゆー子、好きよ。」


 リラは屈託のない笑顔を見せる。さっきまで泣いていたとは思えない。


 これは…またバルボアやソルが困る事になるんだろう。

 若い将軍に振り回されるおっさん連中に、ついつい同情してしまう。


「と、友達!?、ありあり、ありがとうございます。」


 クーナの耳の端がはね上がる。とても嬉しそうだ。

 この子、友達なんて居なさそうだもんな。


「オーガ好きって共通点もあるし。」


 リラはそう言って笑う。


 あなたが好きなのは筋肉だけだし、あっちが興味あるのは髪の毛だけですけど?

 この2人が友達になるだなんて、嫌な予感しかしないよ…。


道具紹介

閃光(フラッシュ)ボール」

・太陽光を鏡で集めて、魔法でボールに閉じ込めたもの。ボールは衝撃を与えると弾けて、中の光が飛び出す。

 熱や衝撃が無いため、写真を撮る時のフラッシュとして主に使用される。

 元々は太陽の光を嫌う闇の眷属を追い払うために作られ、今でも夜間に街の外へ出る時には、お守りがわりに持つ人が多い。

 雑貨店などでは比較的安価で売っており、子どもが悪戯(いたずら)に使ったりもする。

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