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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
6章:初めての任務

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「オーガのっ、髪がっ、もうちょっ、だったっ。」


 白衣を着た女襲撃者はずっと泣いていた。髪の毛を手に入れられなかったことを悔やんで泣いていた。

 リラ将軍はその襲撃者の目の前に歩み寄り、怒りに任せて叫んだ。


「あんた誰? 何者っ!」


 リラは、視察が中止になったことが腹に据えかねているらしい。よっぽど楽しみにしていたのだろう。 

 まさか将軍直々に尋問されるとは思ってなかったのか、襲撃者もあっけに取られて涙が止まる。


「リ、リ、リリリ、リラ様!」


 ソルが慌てる。将軍の一行を襲ってきた相手に、将軍自らが近付くなんてありえない。

 この辺がリラらしいと言えば、リラらしい。


「大丈夫よ。こいつの狙いはわたしじゃないわ。」

「そうかもしれませんが、将軍の部隊を攻撃してくるなんて、狂気の輩ですぞ!」

「これから確認するわ。」


 リラは、自分を見上げる襲撃者にもう一度叫ぶ。


「あんた誰っ!」

「あ…あの…く、クーナと言い…ます。」


 泣いて腫れた目。さっき私を襲った時の目と違い、しおらしくすら感じる。

 でも、私はあの時の鋭くて怖ろしい目を忘れていませんからね。


 リラ将軍は質問を続ける。


「職業!住所!年齢!」

「国立研究所の、じょ上級錬金術師です。研究所…す、住み込んでます。に…二十七です。」


 涙も止まり落ち着いてきたのだろう、詰まりながらも襲撃者(クーナ)はきちんと答える。


「ソル!調べて!」

「はいっ。」


 ソルは隣の兵士に命じて、国立研究所に連絡を入れさせる。

 クーナのボサボサの髪の間から、長く尖った耳がのぞく。


「あれ? もしかして人間じゃない…?」

「そうですね、人種はエルフでしょう。」


 私のつぶやきに、コロンが答えてくれる。

 エルフって本当に耳尖がってるんだな。体の線も細く、肌も白い。


「目的はっ!?」


 リラ将軍の詰問が本題に入る。

 クーナは、私を指差した。


「…あ、あのオーガの、かかか髪の毛が必要、なんです。」

「なんでっ?」


 本当になんで?

 リラ将軍よりも私が聞きたい。


「それはですね…。」


 クーナの目が鋭く光る。


「オーガの髪に含まれる成分が、解毒剤に利用できないかと考えているのです。」

「はぁ、どゆこと?」


「つまりですね。皆様も御存じの通り、オーガはあらゆる毒への耐性を持っています。ということはですね、その髪にも含まれている毒耐性の成分を…こうですね、遠心力を使って分離することでその成分を抽出・濃縮します。その成分を分析して、利用できないかを研究するのです。…ああ、おそらくこの毒耐性成分を取り込んだとしても、一時的なものとしてしか効果を発揮することはないでしょうから、予防薬としてよりは解毒薬としてですね…。」


 クーナは一気に説明をしていく。

 リラは目が点になっている。周囲の兵士たちも、小首をかしげる。


 私も同じ。何を言ってるんだ、こいつは。


「何を言っているんだ、こいつは。」


 バルボアが呆れた声を出す。リラも頷き、さらにクーナに聞く。


「とりあえず、オーガの髪の毛欲しさにわたしたちを襲ったのね?」

「はい。今まで冒険者ギルドを通じてオーガの髪の収集依頼を何度も出していたのですが、全く手に入りませんでした。ところがですね。今日、窓の外を眺めていると、街中をオーガが歩いているではありませんか。このチャンスを逃がす手はないと思いまして…」


 クーナはよどみなく話し続ける。


「あー、もう。わかったわかった。」


 リラが話を遮る。本当に何か分かったのだろうか。


「…そこで、同期の研究者から閃光(フラッシュ)ボールと試作品の加速ブーツを借りて…」

「わかったってば!」


 それでも話し続けるクーナを、リラは強い口調で睨む。


「あんたのせいで、ショッピングが中止になってしまったの!」

「…あ、はい。すみません。しかし、これは薬学の進歩に重要な…」


 あ、こいつ反省してない。というよりも、やってしまった事の重要性が分かってないタイプの奴だ。

 役所にも、こういう後輩いたな。


「エルフって、皆あんな感じなんですか?」


 遠目にリラとクーナのやりとりを見ながら、コロンに聞く。


「いや…どちらかというと国立研究所の研究員だから…といった気がしますが。」


 どこの世界でも、専門に特化した人はどこか常識から外れた行動をするようだ。


「これから将軍府に戻って、あなたを取調べます。連れて行って。」


 リラが指示すると、ソルとバルボアが慌てる。


「将軍!まさか将軍が取調べるのですか?」

「そうよ。だって、これからの予定無くなっちゃったんですもの。」

「そうかもしれませんが、尋問は将軍自らがする事ではありません!」

「これから居室でオーガと過ごせば良いでしょう。」


 ソルが筋肉お触りタイムを提案する。


 やめてよ。こんな早い時間帯からお触りタイムを始めたら、夜までには全裸にされているに違いない。リラはかなり鬱憤を溜めているようだから、ムチャクチャにされるんじゃなかろうか。


「ダメ。わたしが聞くのっ。」


 頑張れ、リラ将軍!


 バルボアが別の提案をする。


「では、この女の身元が確認できるまでは、部屋に戻ってお待ちください。」


 苦し紛れの時間稼ぎである。


***


 時間稼ぎの間に、直轄部隊では反省会が行われた。十人ほどが集まって、今回の護衛の問題点や今後生かせる点を話し合っている。

 

 役所での会議では、まず担当者が言い訳の資料を作成し、上司の確認を受けて、関係各所と日程調整…と、何日もかかる。

 このあたりのスピード感はさすが軍隊といったところなのだろうか。

 活発に意見が出る。


「まさかオーガを狙うとは想定していなかった。」

「守備隊形への移行は万全だった。日中に閃光ボールを使うバカだから助かったが、夜なら初動が遅れた可能性は高い。」

「オーガが常に周囲を警戒して、それだけは良かった。」

「結局、親衛隊の魔法で止めた訳だし、上空からの守りを検討しなければ。」


 意見が出尽くすと、ソルが締める。


「今の意見を元に、陣形を再検討して、後日提案する。」


 会議が終わった。

 早い。役所でやるような、資料を読み上げるだけの会議よりなんと建設的だろうか。


 私は、あまり喋らないようにコロンから言われているから、ただ頷いているだけだった。


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