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23話の前々日のリラ目線+バルボア目線
視察の二日前…。
リラは、将軍府の執務室で鬱ぎ込んでいた。
「会議なんて面倒くさいわ。」
リラは不機嫌だった。
昨日も会議、今日も会議、明日も会議。毎日のように会議だ。
あくまでお飾りの将軍である自分が、会議で発言する事などない。何かを決めるわけでも、何かを提案するわけでもない。
ただ居るだけである。ただ座っているだけである。
「つまんない~」
今日も夕方までに三つの小さな会議があった。王都への空爆攻撃のせいで、会議の数が増えている。
リラの机に、兵士が書類の束を置く。
「明後日の会議の資料になります。」
「こんなにも多いって~!」
言えることは何もないのに、資料だけはちゃんと読み込まなくてはならない。
バルボアは、それが将軍の仕事なのだという。
それはわかっていても、目の前の資料の束を見ると、ため息しか出ない。
明後日の会議は各地の籠城軍軍団長二十五名が集まり、各地の防衛体制について報告・連絡をする会議だ。
会議は昼までという予定だが、最近の会議の傾向とこの資料の量からすると延びるのは間違いない。
「明日読むからさ、今日はお終いにしない?」
最近、オーガの筋肉お触りタイムという、癒し時間ができて頑張れるようになってきたが、連日会議ばかりでは、やはりストレスが溜まってしまう。
早く筋肉を堪能させろ。
バルボアが羊皮紙に魔法を掛けると、書かれていた文字が消え、今度はリラのスケジュールが浮き出てきた。
「明日も会議と公務が詰まっておりますので、そんな時間はありませんな。」
リラは椅子の上で、ひっくり返る。
「無理~!ムリムリムリ~。」
「将軍。今、国がどうなっているかを知っておくことが重要なのです。」
「わかってるけど、無理なものはムリ~!!!」
***
バルボアもリラに同情はしている。
王族が籠城軍の将軍を務めるのは、古くからの慣わしである。王族が率先して国民を守る姿を見せることで国民の支持率を上げ、軍のトップとなることで軍によるクーデターを防ぐ目的がある。
…とは言え、何代にもわたって平和な時代が続いたため、王族の将軍職は有名無実となっていた。
将軍が会議へ参加するのは必須とされているが、いまだかつてこんな沢山の会議に出席させられた将軍はいなかっただろう。
リラには王女としての公務もあるのだ。彼女が人一倍、頑張って居ることはバルボアもよく知っている。
だから、有事に将軍となってしまったリラ王女を可哀想と感じている。
オーガというオモチャを許したのもそのためだ。
しかし、それだけでは彼女の精神力は持たないようだ。次のご褒美を考えなくては。
バルボアは羊皮紙を眺めて、スケジュールを再度見直す。
「そうだな……わかりました。明後日の会議の後、市街地のお散歩とかいかがですかな?」
「え? …本当?」
明後日の午後のスケジュールは『水軍隊の発足式』とある。
新しい兵科の任命を行う式典だが、一個中隊の規模だ。ならば、延期しても構わんだろう。
バルボアはそう判断した。
市街地の復興状況の視察とか、何か適当な理由を付けて、各所に話を通せば良い。
「だったら頑張る!!」
リラの目がキラキラと輝きだした。
***
早速、リラは侍女に念話の魔法を飛ばす。
『空爆で被害を受けた人の関係するお店とか調べてくれる?』
『は…? 何でですか?』
『明後日の午後、街へおでかけ出来ることになったの!!』
『いや、話が繋がってませんが。』
『いーから、調べといてねっ!』
一方的に念話が切れ、侍女たちは混乱する。
「何で? 何で?」
「わかんないよ。」
「とりあえず、どうやって調べる? 軍のデータベースに裏からアクセスして…」
「いや、病院あたったほうが早いかも。」
「そだね。」
侍女たちは慌てて部屋を飛び出していった。
***
その頃、バルボアは将軍の予定変更をソルに相談していた。
「はっはっはっ、バルボア。さすがに明後日は突然すぎますよ。」
「なんとかならんか、ソル。」
二人の老兵は護衛室で飲み物を飲みながら話しあう。
ソルとバルボアは、軍に同期入隊した旧友だ。上司と部下の関係を超えた信頼関係があり、お互いを呼び捨てで呼び合っている。
「リラ様のためなら、なんとでもします。任せてください。」
「ソル、すまんな。」
二人は笑い合った。ソルが一口飲んでから提案する。
「予定通り、護衛にはオーガを使いましょうか。」
「あいつは役に立ちそうか?」
「式典と視察の違いはありますが、王都内なら初任務には丁度良いでしょう。」
「まあ、お披露目としては申し分ないか。」
バルボアは調整しないといけない所に頭を巡らす。
「式典の延期のことは、ワシから軍団長に話を通しておこう。」
「わかりました。兵士長のシェケルには言っておきます。」
二人は飲み物を飲み干すと、部屋を出て行った。
***
時間はかかったが、リラは何とか書類を読み終わり、自分の居室に戻った。
「リラ様、調査はできております。こちらが被害者の勤務先のリストです。」
二人の侍女が、資料を持って出迎える。
「ありがと。このリストから、街へおでかけした時に回るお店を選ぶのよ。」
「なぜですか?」
「わたしがそこで買い物するの。」
「なんで、被害者のお店で買い物なんて…」
侍女たちの質問攻めに、リラは質問で返す。
「王女が買い物したら、そのお店はどうなる?」
背の高い方の侍女が気付いた。
「あ…」
「王女のお気に入りのお店になるから、人気が出る…。」
「見舞金を渡すよりも効果が高いでしょ。」
リラは当たり前のようにさらりと言う。
「さ、選ぶわよ~~!」
リラの想いを知って、侍女たちも俄然やる気を出す。
地図とリストとを突きあわせながら、候補を絞っていく。
「ここの洋服屋どうですか? 爆撃で店主が重傷を負い、息子様がお亡くなりになっています。」
「そちらのアンティークショップは、ご家族が…」
その日は、女三人による買い物ルート決めが夜遅くまで行われた。
「しまったぁ!筋肉お触りタイム忘れてた~~~~~~。」




