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リラ将軍は目をハートにして、私の右腕を撫で回している。
そして、耳元で囁く。
「ねえちょっと、その鎧を脱いでよ。」
リラは、どうやら腕だけではもの足りず、身体の筋肉全てを撫で回そうという魂胆のようだ。
「あ、いや…。そう言われても、一人ではこれ脱げないんです。」
私はついつい喋ってしまった。リラの性格というか、雰囲気がそうさせたに違いない。
「じゃあ、脱がしてあげる。」
リラの言葉にドキリとする。
コロンがリラ将軍を睨みつけた。
「リラ様。いい加減になさいましっ。」
コロンが叱る。
怒るじゃなくて叱る。子どもをたしなめるような言い方。しかもかなり強い口調で。
「もう、お終いですよ。リラ様。」
おいおい、この方は(一応)将軍様だよ。しかも王女だよ。それも王位継承権二位の。
言ってみれば、市長の娘が部局長をやってるようなものだ。
ヒラが部局長クラスを叱るだなんて、逆に怒られてしまう。一般企業ならクビが飛ぶかもしれないし、役所だとしても目を付けられて部署異動、左遷はありえる話。
さっきもお偉いさんのバルボアに嫌味みたいなこと言ってたし。コロンさんは怖いもの知らずか?
もしかして、コロンさんも偉い人の子どもだったりするんだろうか。
「えー、良いじゃないコロン。オーガの筋肉を堪能出来るなんて、無いことよ。」
「良くありませんっ。」
「触るくらい許してよ。コロンだって、私と長いつきあいじゃないの。」
ああ、この二人は知り合いだったのか。
確かに、役所でもヒラの先輩が同期の部局長へフランクに話しかけているのは、よく見る。
この二人、年齢が近いのかな?
コロンさんは小さいから幼く見えるけど、しっかりしてる。リラ将軍は見た目は大人びているけど、中身はお子ちゃま。
どっちも実年齢不詳だ。
「自分の護衛になるんですから、異常がないか身体検査をするのは当然でしょ~。」
「先ほどお風呂で検査はしました。問題なしです。」
コ、コロンさん。まさか…さっきのお風呂って、身体検査も兼ねてたのっ!?
やっぱり、コロンさんは抜けているようで、しっかりしている。
そんなやり取りの中、私は首筋を撫でられていた。
「この僧帽筋の張りっ!…はぁ~ん。」
将軍から変な声が漏れる。
くすっぐったい。
私も変な声が出そうだ。
「リラ様!」
コロンがぴしゃりと言う。しかしリラはひるまない。
「ちゃんと身体能力を確認しておかないと、ちゃんと守ってもらえるか不安だわ。」
「大丈夫です!オーガの能力は折り紙付きです。」
「いざという時、戦える筋肉をもっているかを調べておかなければ。」
リラからは次々と屁理屈が出てくる。
「よくもまあ、しゃあしゃあと!」
とうとうコロンは立ち上がって怒り始めた。
今度は怒る。感情的な言い方。
お二人とも、私を挟んで揉めないでください。
「なにこれっ!こんな筋肉は人間にはないわ~。」
リラは、その意に介さない。
コロンがムキになる。
「リラ様は将軍なんですから、きちんとしていただかないとっ。」
でもほら、将軍様は私の鎧を脱がせる気満々ですよ。今、脇のところにある革紐をはずそうとしてます。
「さっきの謁見で将軍のお仕事時間は終わりました~。今は、ただのリラで~す。」
「将軍は、いつもいつでも将軍です!」
リラは笑っている。
「じゃあ、将軍命令です!この筋肉を堪能させなさい~。」
「そんな命令がありますかっ!」
ごもっともです。立場的にはパワハラ、もっと言うならセクハラ案件です。
「親衛隊員が王族に逆らって意見したって、シェケルに言っちゃうよ?」
リラはさらに権力を振りかざす。
「シェケル様はもう親衛隊長ではありませんよ。今は水軍隊長です。」
あ、そうなんだ。
あのいい声のおっさん、人事異動されたのか。まさか、私なんかを転生させて左遷させられたんじゃなかろうか。
ってか、将軍なんだからその辺の人事については知っておくべきじゃないのか。
「じゃあ、あのギルダーに言うよ?ホントにいいの?」
コロンはため息をついた。
ギルダーに「あの」と強調して言うあたり、リラ将軍も彼に何かしら思う所があるんじゃなかろうか。
「…もう…お好きにどうぞ。」
コロンは諦めてソファに座る。リラの粘り勝ち。やはり権力には勝てない。
「絶対に我慢してくださいね。」
コロンが私に囁く。
確かに、オーガの力で抵抗してしまうと大事になりかねない。
リラは、私の鎧の革紐を解き終わり、金具に取り掛かった。
「コロンさん。将軍様をなんとかして下さい。」
私がコロンに助けを求めると、彼女は無言で壁に掛かっている絵を指差した。指先の方に目をやる。
壁の絵は、全部ボディビルダーのような筋肉ダルマの写真ばかりだった。
中には動いてポーズを決めている写真もある。あとでコロンさんに聞いたが、短い動画を繰り返し流せるビデオモニターみたいな魔法があるらしい。
その絵たちを見つめて、改めて思った。
(これはガチの人だ!)
将軍は筋肉好き。そう。コロンさんが諦めるほどに。
私もため息をつく。
「これは…無理…ですね。」
コロンは無言で頷く。
その目は私を憐れむような瞳だった。
しばらくして胸部装甲の右側の留め金も外された。革の鎧にできた隙間からリラの腕が入ってくる。
「うはっ。この筋肉ぅ~。」
「くすぐったいですよ。」
リラの手は奥の方まで入って来て、私の胸板を堪能する。
「幸せ~。」
「くすぐっ。」
これは性別関係なく、もうセクハラです。
「くはっ〜。この大胸筋の厚さっ!」
リラ将軍は絶好調である。
「大腿筋も触って良いかしら?」
私、これ、凄いやべーとこに配属されてしまったんじゃなかろうか…
登場人物紹介
「リラ」
種族:人間(コーカ王族)
年齢:21
身長:169
体重:55
所属:籠城軍将軍
好物:筋肉。自分も筋トレをしているが、全く筋肉がつかないので悩んでいる。
備考
コーカ国王が年老いてから生まれた姫。王子以外の子が亡くなっていたこともあって、溺愛され甘やかされて育った。




