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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
5章:この人が将軍!?

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「とは言え。」


 バルボアは話を仕切り直した。

 コロンさんの前で言ってしまった失言をごまかすためだろう。


「王位継承権二位の王女にして、籠城軍トップであるリラ将軍専属の護衛として、必要な教育を受けてもらう必要があり…」


 おつさんめ。自分のペースを取り戻そうとして、今まで聞いてきたのと同じ話を繰り返すなよ…。

 もう三十分はとっくに過ぎたんじゃないのか。(いや、三ヶ月以上たってしまった気もする。)


 その時。


  ジリリリリリリリリリ…


 どこかでベルが鳴りはじめた。そんなに大きな音じゃないが、とても近い。


「なんだ、もう約束の時間か。では、リラ将軍の部屋に案内させよう。」


 そう言ったバルボアの頭の方からベルの音は聞こえてくる。

 魔法のアラームみたいなものだろうか。だとしたら、この人は約束した時間をしっかり守るようだ。


「将軍の話が終われば、今日は帰ってもらって構わん。おい、ソル。彼女たちを将軍の部屋へお連れしろ。」

「かしこまりました。」


 さっき、この謁見室まで案内してくれた、じいさんの兵士が駆け寄ってきた。

 バルボアの長話から解放され、私もコロンもほっとする。

 しかも直帰OKとか。バルボアさん、いい上司じゃないか!


「やっと終わりましたね。」


 私が話しかけると、コロンは唇に指を当てて「シッ」と言った。

 コロンの「あまり喋らない方が良い」と言う言葉を思い出した。バルボアの長話のせいで忘れてたわ。


「さあ、行きましょうか。」


 そう言って、ソルは謁見室を出て行く。私たちはその後ろをついて歩く。

 私たちを先導しながら、ソルはチラチラとこちらを見る。


「何か?」


 コロンが聞くと、待ってましたとばかりにソルはしゃべりだした。


「コロン殿。俺はオーガと戦ったことがあるが、こんなに大人しいオーガがおるとは思わなんだ。」


 どうやら私たちと話すタイミングを計っていたようだ。コロンが答える。


「転生者ですから、魂は普通の人間です。」


 いやいや。普通と言っても、異世界人ですけど。


「いまだに信じられん。人間をオーガに転生させるなどと。」


 私もそう思います。

 なんでこんな事してくれたんですかね!


「しかし、お前さんのような力強い者がいれば、将軍様も安心だ。はっはっはっ。」


 ソルは高らかに笑った。

 間もなく、武装した兵士が立っている扉の前まで来て、ソルが立ち止まった。きっとここが将軍の部屋。

 ソルは警固の兵士に敬礼をすると、私たちの方を向いて背筋を伸ばした。


「頼みがある。」


 そう言って私たちに頭を下げた。


「リラ王女を助けてあげて欲しい。」


 ソルは扉の中には聞こえないよう、声を殺して懇願する。


「リラ様はか弱い人だ。このような時代でなければ、皆に愛された王女になったはずなのだ。頼む。」


 こんな年上から、がっつりなお願いをされたのは、いつぶりだろうか。

 役所で生活保護を担当していた時のことを思い出す。確か六年くらい前。

 あの時、生活保護を受けていた高齢者は、私に金を貸してくれと頼んだ。


『個人的に貸してもらえないだろうか。』

『何言ってるんですか、生活保護のお金が入ったばかりでしょう。』

『友達に借金を返して、今残っていない。』


 私は助けられないとつっぱねた。


 そんな高齢者の姿がソルに重なる。

 私の経験上、高齢者からの頼みは、ろくなことがない。

 そもそも、助けると言っても何をどう助けていいのか、ふわっとし過ぎていて分からない。


 彼の言う助けとはなんだ?聞きたかったが、私はコロンの言い付けどおり黙っていた。

 するとコロンがあっさりと答えた。


「ソル様、わかりました。お任せください。」


 そりゃあコロンさんは親衛隊だから、王族を守るのが仕事ですもんね。

 でも「助ける」って意味が広すぎて怖くないですか?

 

「ありがとう。」


 ソルは一人納得して、私たちにまた一礼する。

 そしてドアに向かって大きな声をかけた。

 

「将軍!お二人をお連れしました!」

「は~い。」


 部屋の中からの返事と同時に扉が開く。


「さあさあ、入って入って。」


 リラは、さっきまでの鎧からフリフリの部屋着に着替え、将軍から王女に…というより少女のようになっていた。

 私たちは将軍に部屋の中に引っ張りこまれる。


「俺は隣の護衛室におりますので、終わりましたらお声掛けを。」


 ソルはそう言い、扉を閉めた。


 将軍の部屋を見渡すと、ホテルのスイートルームのようだった。

 いや、スイートなんて泊まった事ないし、中に入ったことも無いから、ホームページの写真でしか知らないけれど。


 窓も大きく開放的で、広くて素敵なリビング。奥にも何個か部屋があるようだ。

 部屋の真ん中には来客用っぽいテーブルとソファ2つ。ソファもでかい。

 壁には大きな絵画が何個も飾られている。

 今までの私の部屋が惨めになるくらいだ。


 リラ将軍が私の腕をつかむ。


「こっち座って。」

「ちょっ。」


 私をソファまで引っ張ろうとするが、この巨体はそう簡単に動かない。


「ぶぅ。」


 リラがむくれる。

 ほんとにお子様だ。何歳なんだろう? 少なくとも、少女とか女の子という見た目ではない。

 まあ、異世界なんだから、見た目では年齢を判断できないだろう。


「はいはい。」 


 私は、わがままな子どもの相手をするような気分で、やれやれと思いながらソファに腰を落とす。


「ほぁっ。」


 思わず変な声がでた。

 その最高級のソファは、私のような重い体でも優しくふんわりと包み込む。気持ちイイ。


 なんだこのフワフワ。

 大きいだけの硬いベッドより、こっちのソファの方で寝たいよ、ほんと。


 コロンが私の左隣に座ると、私を挟んで右側にリラが座る。

 一つのソファに、オーガを挟んで女性二人が並ぶ。奇妙な光景だ。


 いやいやいや。こういう時って、部屋の主はテーブルの向かい側のイスに座るもんだよね。

 異世界の文化の違いなのか、それとも将軍がこういう人なのか。

 

「うはぁっ。この筋肉!」


 …残念だが、将軍はこういう人のようだ。ほんとに残念だ。


登場人物紹介

「バルボア」

種族:人間(コーカ人)

年齢:60

身長:167

体重:76

所属:籠城軍将軍補佐(リラ将軍のお守り)

特技:長話

   自分でも話が長くなって来ているのは分かっており、できるだけタイマー魔法をかけるよう心がけている。

好物:『波の花に(まみ)れたピスケスは灼熱の炎に踊れ』(川魚の塩焼き)

備考:

 兵士学校を主席で卒業。平和な時代で順調に昇進をしていくが、戦争に突入してからは活躍ができなくなる。

 今では籠城軍の実質的なトップである副将軍から、リラ将軍の面倒を押し付けられてしまった。

 孫にはとことん甘い。

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