20
「とは言え。」
バルボアは話を仕切り直した。
コロンさんの前で言ってしまった失言をごまかすためだろう。
「王位継承権二位の王女にして、籠城軍トップであるリラ将軍専属の護衛として、必要な教育を受けてもらう必要があり…」
おつさんめ。自分のペースを取り戻そうとして、今まで聞いてきたのと同じ話を繰り返すなよ…。
もう三十分はとっくに過ぎたんじゃないのか。(いや、三ヶ月以上たってしまった気もする。)
その時。
ジリリリリリリリリリ…
どこかでベルが鳴りはじめた。そんなに大きな音じゃないが、とても近い。
「なんだ、もう約束の時間か。では、リラ将軍の部屋に案内させよう。」
そう言ったバルボアの頭の方からベルの音は聞こえてくる。
魔法のアラームみたいなものだろうか。だとしたら、この人は約束した時間をしっかり守るようだ。
「将軍の話が終われば、今日は帰ってもらって構わん。おい、ソル。彼女たちを将軍の部屋へお連れしろ。」
「かしこまりました。」
さっき、この謁見室まで案内してくれた、じいさんの兵士が駆け寄ってきた。
バルボアの長話から解放され、私もコロンもほっとする。
しかも直帰OKとか。バルボアさん、いい上司じゃないか!
「やっと終わりましたね。」
私が話しかけると、コロンは唇に指を当てて「シッ」と言った。
コロンの「あまり喋らない方が良い」と言う言葉を思い出した。バルボアの長話のせいで忘れてたわ。
「さあ、行きましょうか。」
そう言って、ソルは謁見室を出て行く。私たちはその後ろをついて歩く。
私たちを先導しながら、ソルはチラチラとこちらを見る。
「何か?」
コロンが聞くと、待ってましたとばかりにソルはしゃべりだした。
「コロン殿。俺はオーガと戦ったことがあるが、こんなに大人しいオーガがおるとは思わなんだ。」
どうやら私たちと話すタイミングを計っていたようだ。コロンが答える。
「転生者ですから、魂は普通の人間です。」
いやいや。普通と言っても、異世界人ですけど。
「いまだに信じられん。人間をオーガに転生させるなどと。」
私もそう思います。
なんでこんな事してくれたんですかね!
「しかし、お前さんのような力強い者がいれば、将軍様も安心だ。はっはっはっ。」
ソルは高らかに笑った。
間もなく、武装した兵士が立っている扉の前まで来て、ソルが立ち止まった。きっとここが将軍の部屋。
ソルは警固の兵士に敬礼をすると、私たちの方を向いて背筋を伸ばした。
「頼みがある。」
そう言って私たちに頭を下げた。
「リラ王女を助けてあげて欲しい。」
ソルは扉の中には聞こえないよう、声を殺して懇願する。
「リラ様はか弱い人だ。このような時代でなければ、皆に愛された王女になったはずなのだ。頼む。」
こんな年上から、がっつりなお願いをされたのは、いつぶりだろうか。
役所で生活保護を担当していた時のことを思い出す。確か六年くらい前。
あの時、生活保護を受けていた高齢者は、私に金を貸してくれと頼んだ。
『個人的に貸してもらえないだろうか。』
『何言ってるんですか、生活保護のお金が入ったばかりでしょう。』
『友達に借金を返して、今残っていない。』
私は助けられないとつっぱねた。
そんな高齢者の姿がソルに重なる。
私の経験上、高齢者からの頼みは、ろくなことがない。
そもそも、助けると言っても何をどう助けていいのか、ふわっとし過ぎていて分からない。
彼の言う助けとはなんだ?聞きたかったが、私はコロンの言い付けどおり黙っていた。
するとコロンがあっさりと答えた。
「ソル様、わかりました。お任せください。」
そりゃあコロンさんは親衛隊だから、王族を守るのが仕事ですもんね。
でも「助ける」って意味が広すぎて怖くないですか?
「ありがとう。」
ソルは一人納得して、私たちにまた一礼する。
そしてドアに向かって大きな声をかけた。
「将軍!お二人をお連れしました!」
「は~い。」
部屋の中からの返事と同時に扉が開く。
「さあさあ、入って入って。」
リラは、さっきまでの鎧からフリフリの部屋着に着替え、将軍から王女に…というより少女のようになっていた。
私たちは将軍に部屋の中に引っ張りこまれる。
「俺は隣の護衛室におりますので、終わりましたらお声掛けを。」
ソルはそう言い、扉を閉めた。
将軍の部屋を見渡すと、ホテルのスイートルームのようだった。
いや、スイートなんて泊まった事ないし、中に入ったことも無いから、ホームページの写真でしか知らないけれど。
窓も大きく開放的で、広くて素敵なリビング。奥にも何個か部屋があるようだ。
部屋の真ん中には来客用っぽいテーブルとソファ2つ。ソファもでかい。
壁には大きな絵画が何個も飾られている。
今までの私の部屋が惨めになるくらいだ。
リラ将軍が私の腕をつかむ。
「こっち座って。」
「ちょっ。」
私をソファまで引っ張ろうとするが、この巨体はそう簡単に動かない。
「ぶぅ。」
リラがむくれる。
ほんとにお子様だ。何歳なんだろう? 少なくとも、少女とか女の子という見た目ではない。
まあ、異世界なんだから、見た目では年齢を判断できないだろう。
「はいはい。」
私は、わがままな子どもの相手をするような気分で、やれやれと思いながらソファに腰を落とす。
「ほぁっ。」
思わず変な声がでた。
その最高級のソファは、私のような重い体でも優しくふんわりと包み込む。気持ちイイ。
なんだこのフワフワ。
大きいだけの硬いベッドより、こっちのソファの方で寝たいよ、ほんと。
コロンが私の左隣に座ると、私を挟んで右側にリラが座る。
一つのソファに、オーガを挟んで女性二人が並ぶ。奇妙な光景だ。
いやいやいや。こういう時って、部屋の主はテーブルの向かい側のイスに座るもんだよね。
異世界の文化の違いなのか、それとも将軍がこういう人なのか。
「うはぁっ。この筋肉!」
…残念だが、将軍はこういう人のようだ。ほんとに残念だ。
登場人物紹介
「バルボア」
種族:人間(コーカ人)
年齢:60
身長:167
体重:76
所属:籠城軍将軍補佐(リラ将軍のお守り)
特技:長話
自分でも話が長くなって来ているのは分かっており、できるだけタイマー魔法をかけるよう心がけている。
好物:『波の花に塗れたピスケスは灼熱の炎に踊れ』(川魚の塩焼き)
備考:
兵士学校を主席で卒業。平和な時代で順調に昇進をしていくが、戦争に突入してからは活躍ができなくなる。
今では籠城軍の実質的なトップである副将軍から、リラ将軍の面倒を押し付けられてしまった。
孫にはとことん甘い。




