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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
1章:誰か説明してください!
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 私が市役所に入庁してから初めの職場で三年。次の職場でも三年。

 それなりに真面目にやってきたつもり。

 公務員たるもの私生活でも法令遵守が重要だ。飲酒運転でもしようものなら、すぐにクビになってしまう。だから一般人よりルールは守っている。


 そんな品行方正な私なのに、勝手に転生させられて、勝手に閉じ込められて。

 何か悪い事でもしましたかってんだ!もう、訳わかんない!


 私は、鍵が閉められた扉の前でへたり込んでしまう。

 まただ。また涙がポロポロと出てきた。


「大丈夫ですよ。()()()()、我慢して下さいね。」


 コロンと名乗った侍女が、私の肩にそっと手を掛ける。安心させてくれようとしているのだろう、さっきまでの機械的とは違う優しい口調に変わっていた。


   挿絵(By みてみん)


「ベッドでお休みになりますか?」

「ありがとう。」


 コロンは、その小さな体で私を支えてベッドまで連れて行ってくれた。

 第一印象はロボットみたいな冷たい子だと思ったが、本当は優しいんだな。


 ベッドと言っても台の上に布団を敷いただけのもので、スプリングも入っていないから結構固い。私が座るとミシミシと台が軋む音がする。

 壊れないかな?


 コロンはティーポットとカップの準備をはじめた。ハーブだろうか、ポットに茶葉を落とす。


 確かに喉が乾いた。温かいお茶はありがたい。

 待てよ…ここは異世界。どんな物が出てくるか分からない。飲んだことのある味だと良いな。


 部屋を見回して、水道の蛇口はなさそうだけど。と思った瞬間、彼女は何かを唱えて、左手を光らせる。魔法陣のような模様が宙に描かれているようだ。そして、その手から水を注ぎはじめた。


「すごい。」

「水の魔法のひとつです。」


 やっぱり、ここには魔法が存在する。またもや、異世界なんだと痛感する。

 続けてコロンはポットの下の部分を両手で包み、また呪文を唱える。


「お好みは、熱めですか?ぬるめですか?」


 暖まりたい。


「…熱めでお願いします。」

「では、もう少しお待ちください。」


 コロンの両手に赤い魔法陣が光る。やがて、ポットの注ぎ口から蒸気が出はじめる。


 たぶん火の魔法なんだろうな。

 水道もガスもいらない世界かぁ。インフラ整備が楽で良い。

 市の水道事業は大変だ。私は直接関わった事はないが、同期は水道管の老朽化対策に回されて泣いていた。

 破裂もしない、古くもならない、料金未納もない。夢のような世界だ。


 コロンは手際よくカップにお茶を注ぐと、私に手渡す。


「熱いのでお気をつけください。お口に合うと良いのですが。」

「ありがとうございます。」


 カップからは湯気が立ち上る。

 何度か息を吹きかけるが、香りはしない。ドキドキしながら少し口に含む。


 ん、普通。

 少し苦味がある。

 あ。これ、あれだな、ウーロン茶だ。

 ホットウーロン茶。


 良かった、普通で。

 私は安心して一口飲む。身体の芯から温まる気がする。

 思わず涙が頬を伝う。でも、これは安心の涙だ。

 コロンが心配そうに私を見ている。


「いかがですか?」

「おいしいです。とてもおいしい!」


 少しオーバーに返事をしてしまったが、私の様子を見てコロンは胸をなで下ろした。


「良かったです。前に転生で来られた方と、葉っぱの調合を試行錯誤したお茶なんです。」


 そうかぁ、その人がコーヒー好きだったら、もっと良かったんだけどな。

 …ん?


「他にも転生させられた人がいるんですか?」

「はい、何人も居られます。」


 私と同じ境遇の人が他にもいるのか。ぜひともお話ししたい。


「あの…色々と説明をして欲しいんですが。」

「わかりました。ただ…一体、どこからお話ししたら良いものでしょうか…」


 コロンは左手を顎に当てて思案している素振りを見せる。

 こういう仕草は異世界なのに同じなんだなと不思議に感じた。


「一からお願いします。まず、ここはどこでしょうか?」

「わかりました。では、まずこの世界(エンドル)の成り立ちの神話からお話ししましょう。」


 おいおい。神話って。

 本当に最初の最初から説明する気か、この子は!?


「遠い遠い昔、世界(エンドル)の初め。ここには何もありませんでした。光も大地も命も、時間さえ無かったの…」

「お話し遮ってごめんね、コロンさん。」


 ここはどこ?の質問に対して、旧約聖書の光あれ!から説明するか、普通?

 そうか…ここは異世界だった。私の常識が通じるとは限らない。


 コロンが立ったままなので、テーブル横の椅子に座るように促す。


「ありがとうございます。失礼して、座らせていただきます。」

「あの…先ほどエンドルって言ってましたが、ここがエンドルって場所なんですか?」

「はい。あなた方の『世界』と言う言葉が、ここではエンドルに当たります。」


 丁度、その時だった。


 どぉぉぉぉぉぉん!


 何かが爆発するような低い音。そして伝わってくる振動。

 たぶん近い場所だ。

 私は怖さで固まってしまう。

 今度は恐怖でまた涙が出る。


「攻撃っ!?」


 コロンは立ち上がって、窓の方を見る。

 攻撃ってなんですか!攻撃?


 どおおおおおおん!


 まただ。さっきより音が大きい。私は思わず頭を抱え、カップのお茶をベッドにこぼしてしまった。


「ここに居てください。この部屋は四方を頑丈な鋼板で囲ってあるので安全です。」

「え!えー?」


 私は立ち上がり、カップをテーブルの上に置く。


「すみません。お話しの途中ですが、わたし行きます!」

「ちょっ待っ…」


 コロンは手のひらを下に向けて集中する。彼女の足元に小さな黄色の魔法陣が現れる。

 次の瞬間。コロンは消えてしまった。


 私は部屋に一人取り残された。


「あ~、瞬間移動の魔法ってやつね~。はいはい、魔法すごいすごい。」


 誰に聞かせるでもなく、大きな声でしゃべる。


 どぉぉん…


 今度の爆発音は遠くなった。

 窓から外を見てみる。


 窓の外には鉄格子…。四方の壁は鉄板が入っていると言っていた。

 わかった。やっぱり、この部屋は牢屋なんだ。

 私が逃げ出せないようにしている。

 なんで?


 本当に誰か…私に説明してください。


エンドル魔法講座『魔法陣の色』

 魔法陣の色は魔法の属性に関係している。

 火属性の魔法は「赤」、水属性の魔法は「青」、土属性の魔法は「黄」。

 そして魂に関する魔法は水属性と土属性が組み合わさった「緑」になる。

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