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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
5章:この人が将軍!?

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 将軍は私の体をじっとりと見つめながら、撫でまわす。


「リラ将軍、お気をつけください。中身が転生者とはいえオーガですぞ。」


 隣に控えていた兵士が心配そうに声をかけた。

 しかし将軍は、関係ないとばかりに私の肩から腕、拳を撫で回す。

 周りの兵士たちは引いている。ドン引きしている。


「御安心ください。暴れることなんてありません。ですよね。」


 コロンさんが私に目配せする。

 ここはしゃべってても良いと言う合図なのだろう。むしろ、しゃべってくれという事だろうな。

 

「はい、大丈夫です。」


 そう私が答えると、周りの兵士達が驚きの声をあげる。


「おお。あのオーガが!」

「大人しくしてるだけでも奇跡なのに。」

「転生者とはかくなる…」


 リラ将軍の目が輝く。


「この肉体がっ、常に護衛してくれる…。実に頼もしいではないかっ!」

「しかし、将軍…」


 兵士たちが心配の声をあげる中、周りの兵士の中で唯一鎧を着ていない兵士が、他の兵士達に声をかける。


「このくらいなら良いではないか。」


 よく響く声だ。さっき「通せ」って言ったのはこの人だろう。立派なひげを蓄えている。

 この人は恐らく偉いさんだ。他の兵士達が静かになった。


 でもさっ。私のことを『このくらい』ってなんだ?失礼なっ!

 私の心ゲージは完全に不機嫌へと突入した。


「バルボア様、よろしいので?」

「このくらい構わんと言っただろ。」


 隣の兵士が確認するが、偉いさんはぶっきらぼうに答える。


 この失礼な奴、バルボアっていうのか。

 私を二度もこのくらい(・・・・・)扱いしやがって。はい、こいつも嫌な奴認定です。


「では、早速にでも将軍直轄部隊に編入する。辞令を準備するように。仕官クラスの待遇でな。それから部屋を準備して…」

「リラ将軍。お、お待ちくださ…」

「バルボアも良いと言っておるではないか。すぐに取りかかるように。」


 将軍はノリノリだ。まるで新しいオモチャを買ってもらった子供みたい。

 リラ将軍の指示に従って、数人の兵士が準備のために下がって行った。


 将軍は、ずーっと私の腕を撫でながら話しかけてきた。


「話したいことがあるから、今から将軍の居室へ来なさい。」

「お待ちください、リラ将軍。」


 それをバルボアが仰々しく止めに入る。


「彼女らには事前に話さねばならないことがあります。それが終わってからにしていただきたい。」

「え~っ。」


 本当にリラ将軍は子供みたいだ。オモチャを目の前に、お預けをくらったような顔をしている。それでも美しい顔なのだから、なんて美人とは羨ましいものか。


「将軍直轄部隊の管理はワシですぞ。」

「…仕方ない。分かった。どのくらいかかる?」

「一時間少し…。」

「いちじかんっ!?」


 リラ将軍は泣きそうな顔になった。バルボアが少したじろぐ。


「…いや、半時間ほどで。」

「そうか。絶対だぞっ!」

「彼女らを案内するまでに、部屋を片付けておいた方が良いのではないですかな。」

「そうだな。そうするっ。」


 リラ将軍は、自分の部屋の片付けに行ってしまった。走る時にぴゅーっと音がした気がする。

 まるで将軍らしからぬ雰囲気だ。私は呆気(あっけ)に取られてしまった。


「立ちなさい。少し話をしよう。」


 バルボアはただただ偉そうに振る舞っていたが、立ち上がった私を見上げて息をのむ。


 やはり、オーガの私が怖いのだろう。

 怖いなら「このくらい」扱いすんなよ。


 それでもバルボアは話を続ける


「聞いておったと思うが、お主は将軍直轄部隊に配属される。ワシが上官となる。宜しく頼む。」


 意外に丁寧な人だ。

 印象値はアップしたが、嫌な奴認定から脱するほどではない。


「分かっておると思うが、お主の任務はリラ将軍の護衛である。」


 ここから約二十分ほど、護衛の仕事についての心構えやら、あるべき兵士の姿勢などの説明が続く。


「自分の命を懸けて、将軍のお身体を守り抜くのが護衛の仕事であり、将軍に危険が迫ろうものなら、率先して自分の身を投げ出して、将軍をお守りするのが護衛である。」


 同じような話を何度も繰り返すのはオッサンの悪い癖だ。


「籠城軍の将軍とは、コーカ王国各地に散らばる二十五の籠城軍のトップであり、その責務を補佐することが、我々直轄部隊の役割なのだ。」


 バルボア校長…話長いです。

 ここが外なら、倒れる生徒が出ますよ。

 

 私が少し眠たくなってきたころ、バルボアの話は一段落する。

 そして彼は深いため息をついて、ポツリと言った。


「リラ将軍はあのような性格ゆえ、お主にはストッパーになって欲しいのだ。」


 あー、なんとなく分かる。

 将軍があんな感じだと、この人も苦労しているんだろうな。


「あのような小娘のお()りは、ワシの手に余る。お主なら間違いなく将軍に気に入られるだろう。」


 あ、本音が出た。

 これは相当に手を焼いているな。


 しかし、なんであんな人が将軍なんて重要なポジションに就いたんだろう。

 あとでコロンさんに聞いてみよう。


「いくら王族が就任するお飾り将軍とは言え、王女にあんなにも引っ掻き回されたら、この緊急事態を乗り切れる訳がない。」


 あ、リラ将軍って王女様なんですか。

 今まで自分からどんどん説明してくれる人居なかったからなぁ。すごいありがたい。


「あれで王位継承権二位だぞ。東宮様にもし何かがあったら、コーカ王国はどうなることか。」


 継承権二位の王女を「あれ」呼ばわりするのもいかがなものかと思うが。


 するとコロンが、静かだけど強い口調で言う。


「東宮様には万が一もありません。」

「おお、東宮様を守護する親衛隊の前でする話ではなかったな。すまぬ。」


 バルボアはしまったとばかりに、バツの悪い笑顔を見せて誤る。


 東宮…って、なんだったけ。脳内辞書を引く。


東宮:

 東宮、または春宮。皇太子の住む場所のこと。転じて、皇太子のこと。


 つまりコロンさんが言う東宮様とは王子。第一王位継承者のことだ。

 親衛隊は王以外の王族を守る組織だから、『王位継承者に何かがあったら』なんて言われたら、コロンさんは引くわけにはいかないだろう。


 とはいえ、コロンさんは親衛隊の一隊員。元の世界での私と同じ、ただのヒラだ。

 それなのに、階級が上の人にぴしゃりと言えるなんて。


 …天然って、怖いもの知らずか?


登場人物紹介

「コロン」

種族:人間(コーカ人)

年齢:「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。」

身長:148

体重:46

所属:第一籠城軍親衛隊エスクード班(特務担当)

   転生者の侍女としての特務についており、籠城軍将軍直轄部隊に出向することになった。

特技:料理と空間魔法

   コーカの伝統料理が得意で、転生者が紹介する新しい料理法にも挑戦中。

好物:『大地の結晶を抱いたタウロスよ、灼熱の海で果てろ』(肉じゃがのような料理)

備考:

 特務担当の班長だったデニが親衛隊長に昇進し、同期のエスクードが新班長となったため、コロンのわがままを聞いてもらえるようになった。

 転生者の侍女としての将軍直轄部隊への出向も、コロンの強い希望によるもの。

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