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将軍は私の体をじっとりと見つめながら、撫でまわす。
「リラ将軍、お気をつけください。中身が転生者とはいえオーガですぞ。」
隣に控えていた兵士が心配そうに声をかけた。
しかし将軍は、関係ないとばかりに私の肩から腕、拳を撫で回す。
周りの兵士たちは引いている。ドン引きしている。
「御安心ください。暴れることなんてありません。ですよね。」
コロンさんが私に目配せする。
ここはしゃべってても良いと言う合図なのだろう。むしろ、しゃべってくれという事だろうな。
「はい、大丈夫です。」
そう私が答えると、周りの兵士達が驚きの声をあげる。
「おお。あのオーガが!」
「大人しくしてるだけでも奇跡なのに。」
「転生者とはかくなる…」
リラ将軍の目が輝く。
「この肉体がっ、常に護衛してくれる…。実に頼もしいではないかっ!」
「しかし、将軍…」
兵士たちが心配の声をあげる中、周りの兵士の中で唯一鎧を着ていない兵士が、他の兵士達に声をかける。
「このくらいなら良いではないか。」
よく響く声だ。さっき「通せ」って言ったのはこの人だろう。立派なひげを蓄えている。
この人は恐らく偉いさんだ。他の兵士達が静かになった。
でもさっ。私のことを『このくらい』ってなんだ?失礼なっ!
私の心ゲージは完全に不機嫌へと突入した。
「バルボア様、よろしいので?」
「このくらい構わんと言っただろ。」
隣の兵士が確認するが、偉いさんはぶっきらぼうに答える。
この失礼な奴、バルボアっていうのか。
私を二度もこのくらい扱いしやがって。はい、こいつも嫌な奴認定です。
「では、早速にでも将軍直轄部隊に編入する。辞令を準備するように。仕官クラスの待遇でな。それから部屋を準備して…」
「リラ将軍。お、お待ちくださ…」
「バルボアも良いと言っておるではないか。すぐに取りかかるように。」
将軍はノリノリだ。まるで新しいオモチャを買ってもらった子供みたい。
リラ将軍の指示に従って、数人の兵士が準備のために下がって行った。
将軍は、ずーっと私の腕を撫でながら話しかけてきた。
「話したいことがあるから、今から将軍の居室へ来なさい。」
「お待ちください、リラ将軍。」
それをバルボアが仰々しく止めに入る。
「彼女らには事前に話さねばならないことがあります。それが終わってからにしていただきたい。」
「え~っ。」
本当にリラ将軍は子供みたいだ。オモチャを目の前に、お預けをくらったような顔をしている。それでも美しい顔なのだから、なんて美人とは羨ましいものか。
「将軍直轄部隊の管理はワシですぞ。」
「…仕方ない。分かった。どのくらいかかる?」
「一時間少し…。」
「いちじかんっ!?」
リラ将軍は泣きそうな顔になった。バルボアが少したじろぐ。
「…いや、半時間ほどで。」
「そうか。絶対だぞっ!」
「彼女らを案内するまでに、部屋を片付けておいた方が良いのではないですかな。」
「そうだな。そうするっ。」
リラ将軍は、自分の部屋の片付けに行ってしまった。走る時にぴゅーっと音がした気がする。
まるで将軍らしからぬ雰囲気だ。私は呆気に取られてしまった。
「立ちなさい。少し話をしよう。」
バルボアはただただ偉そうに振る舞っていたが、立ち上がった私を見上げて息をのむ。
やはり、オーガの私が怖いのだろう。
怖いなら「このくらい」扱いすんなよ。
それでもバルボアは話を続ける
「聞いておったと思うが、お主は将軍直轄部隊に配属される。ワシが上官となる。宜しく頼む。」
意外に丁寧な人だ。
印象値はアップしたが、嫌な奴認定から脱するほどではない。
「分かっておると思うが、お主の任務はリラ将軍の護衛である。」
ここから約二十分ほど、護衛の仕事についての心構えやら、あるべき兵士の姿勢などの説明が続く。
「自分の命を懸けて、将軍のお身体を守り抜くのが護衛の仕事であり、将軍に危険が迫ろうものなら、率先して自分の身を投げ出して、将軍をお守りするのが護衛である。」
同じような話を何度も繰り返すのはオッサンの悪い癖だ。
「籠城軍の将軍とは、コーカ王国各地に散らばる二十五の籠城軍のトップであり、その責務を補佐することが、我々直轄部隊の役割なのだ。」
バルボア校長…話長いです。
ここが外なら、倒れる生徒が出ますよ。
私が少し眠たくなってきたころ、バルボアの話は一段落する。
そして彼は深いため息をついて、ポツリと言った。
「リラ将軍はあのような性格ゆえ、お主にはストッパーになって欲しいのだ。」
あー、なんとなく分かる。
将軍があんな感じだと、この人も苦労しているんだろうな。
「あのような小娘のお守りは、ワシの手に余る。お主なら間違いなく将軍に気に入られるだろう。」
あ、本音が出た。
これは相当に手を焼いているな。
しかし、なんであんな人が将軍なんて重要なポジションに就いたんだろう。
あとでコロンさんに聞いてみよう。
「いくら王族が就任するお飾り将軍とは言え、王女にあんなにも引っ掻き回されたら、この緊急事態を乗り切れる訳がない。」
あ、リラ将軍って王女様なんですか。
今まで自分からどんどん説明してくれる人居なかったからなぁ。すごいありがたい。
「あれで王位継承権二位だぞ。東宮様にもし何かがあったら、コーカ王国はどうなることか。」
継承権二位の王女を「あれ」呼ばわりするのもいかがなものかと思うが。
するとコロンが、静かだけど強い口調で言う。
「東宮様には万が一もありません。」
「おお、東宮様を守護する親衛隊の前でする話ではなかったな。すまぬ。」
バルボアはしまったとばかりに、バツの悪い笑顔を見せて誤る。
東宮…って、なんだったけ。脳内辞書を引く。
東宮:
東宮、または春宮。皇太子の住む場所のこと。転じて、皇太子のこと。
つまりコロンさんが言う東宮様とは王子。第一王位継承者のことだ。
親衛隊は王以外の王族を守る組織だから、『王位継承者に何かがあったら』なんて言われたら、コロンさんは引くわけにはいかないだろう。
とはいえ、コロンさんは親衛隊の一隊員。元の世界での私と同じ、ただのヒラだ。
それなのに、階級が上の人にぴしゃりと言えるなんて。
…天然って、怖いもの知らずか?
登場人物紹介
「コロン」
種族:人間(コーカ人)
年齢:「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。」
身長:148
体重:46
所属:第一籠城軍親衛隊エスクード班(特務担当)
転生者の侍女としての特務についており、籠城軍将軍直轄部隊に出向することになった。
特技:料理と空間魔法
コーカの伝統料理が得意で、転生者が紹介する新しい料理法にも挑戦中。
好物:『大地の結晶を抱いたタウロスよ、灼熱の海で果てろ』(肉じゃがのような料理)
備考:
特務担当の班長だったデニが親衛隊長に昇進し、同期のエスクードが新班長となったため、コロンのわがままを聞いてもらえるようになった。
転生者の侍女としての将軍直轄部隊への出向も、コロンの強い希望によるもの。




