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「おはようございます。」
コロンさんの挨拶で起こされた。
窓の外は明るくなっていた。
「おはようございます、コロンさん。」
あー、嫌な夢だった。
仕事の辛かったとこを思い出してしまった。
あの頃とオーガに転生した今と、どちらが幸せ何だろうか…。
いやいや!
そもそも私は、あの日から次の職場に異動だったから、もうあんなきつい仕事にはならなかったはず。
オーガの体で幸せなわけないじゃない!
「良く寝ていらっしゃったのに、起こしてしまって申し訳ありません。」
「そんなに寝てましたか…。」
とは言え、頭はスッキリとはしていない。
んん…どのくらい寝てたんだろ?
「はい、二日間ほど…」
「え?そんなに!」
オーガの体って、そんなに沢山寝られるようになってるの?
「ですから、反睡眠魔法で起きて頂きました。」
「そんな魔法もあるんですね。ありがとうございます。」
反睡眠…目覚ましの魔法ってことか。魔法で起こされたから、スッキリしないのかな。
まあ、大声で叩き起こされるよりはマシか…。
ん、待てよ。
「コロンさん。もしかして、前に起こして貰った時も、反睡眠魔法を使ってくれてます?」
「はい、そのとおりです。」
そうか、どおりで前回と同じで仕事の夢で目覚めた訳だ。
あんまり使って欲しくないなぁ。
ぐ~
そんな時に、おなかが鳴る。
恥ずかしい。
「あ、すみません。」
「ふふっ、大丈夫ですよ。朝食をご用意いたします。」
コロンが料理を準備し始めた。
そう言えば、前に起こされた時には面接があったな。
今回も魔法を使ってまで起こしたって事は、何か用があるに違いない。
「今日は何があるんですか?」
ベッドから降りながら、コロンに聞く。
「配属が決まりましたので、その挨拶まわりです。」
やっぱりか。
そのために魔法まで使って無理やり起こしたんだろうな。
ギリギリまで寝かせてくれるってのは良いんだけど、もう少し早く起こしてくれても良いんじゃないかな。
「配属ですか…。一体どこに?」
面接では「側に置いていただければ」なぁんて言ってしまったが、正直、ギルダーの護衛なんて嫌だ。
あいつ、絶対性格悪いだろ。
側に居たら、パワハラで胃に穴が開いてしまいそうだ。
「将軍様の直轄部隊です。」
「へぇ。」
良かった。
ギルダーは兵士長だから、あいつの下で働かなくても良さそうだ。
私はコロンの並べてくれるお皿を眺めていた。今朝はハムエッグみたいな料理だ。それが大量に乗っていたので、ついつい皿に目が行ってしまう。おかわりをしなくても良いようにという配慮だろうか。
…ん?
「え…は?ショーグン!?」
「はい。将軍様です。」
***
今日はちゃんと、ダマスカス鋼で作られたナイフとフォークが付いていた。
さすがコロンさん、仕事が早い。
エンドルのフォークは二股のものらしい。音叉みたいな形をしている。
本日は『黄昏より舞い降りたガルーダの業火になんたらかんたら』という料理名だそうで。
おそらく(何らかの)鳥肉とその卵の料理だろう。
味はまあまあ。昨日のスペアリブのジューシーさには及ばないが、あっさりしていて朝にはちょうど良い。量は半端じゃないが。
というか、朝ご飯をまともに食べるのは久しぶりだな。
前回、実家帰った時以来だと思う。
まあ、それはさておき。
「コロンさん。将軍様ってなんですか!?」
「将軍様は、籠城軍の将軍様です。」
将軍様って聞くと、歴史上の幕府の将軍様とか、かの北の国の将軍様が頭に浮かぶ。
しかし、ここは王国だからトップは王様なはず。
どの辺りの地位の人なんだろう。
「あの…コーカ王国の軍隊についてお聞きしてもいいですか?」
「大丈夫ですよ。どこからお話ししたら良いものでしょうか…」」
このセリフはヤバい。
先日も『どこからお話ししたら…』の後で、説明にかなりの遠回りを余儀なくされた。
上から聞くか、下から聞くか…。
「コロンさんも軍人なんですよね。所属はどこですか?」
下から聞くことにした。
「はい。わたしは今、親衛隊のエスクード班に所属しています。」
確か、親衛隊長がシェケルのおっさんだったな。コロンさんの上司だったのか。
「そのエスクードさんが班長?」
「はい。」
ということは、班長が主任クラスで、親衛隊長が係長クラスってとこかな。
一個一個聞いていく。
「親衛隊長の上は?」
「兵士長様です。兵士長様の下に、親衛隊、騎兵隊、砲撃隊、水軍隊などがあります。」
兵士長…つまりギルダーだ。
やはりシェケルの上司だったか。課長クラスかな。
あんな課長だったら苦労するだろうな。
「兵士長の上は?」
「第一籠城軍の軍団長様です。その下に三人の長がおられます。戦闘部隊を指揮する兵士長様、補給部隊を指揮する兵糧長様、整備補修部隊を指揮する工兵長様です。」
軍団長=部長だな。
なんとなく組織構成が分かってきたが…まだ将軍は出てこない。
第一籠城軍ってことは何個か籠城軍があるんだろうな。
「籠城軍ってのはどういう部隊なんですか?」
「はい、籠城軍は防衛に特化しており、それぞれの城や城下都市の防衛を任されています。ここ王都に配備される第一籠城軍は最大規模を誇ります。」
コロンさんの説明は的確だな。
質問の仕方に気を付けたら、分かりやすいことこの上ない。
「軍団長の上は?」
「籠城軍の将軍様です。籠城軍は各都市に大小合わせて二十五軍団あり、二十五人の軍団長をまとめておられます。」
将軍…局長クラスか。
私も役所で働いていた頃に、局長となんて喋ったことない。
「何で、そこに私が…?」
「わかりません。昨日その配属が発表されて、私も非常に驚きました。」
組織のトップが居る所は、前線より安全な場所だとは思っていた。
だからといって、まさか将軍付の護衛だとは思わなかった。
将軍が戦場に出ることはないはず。
その護衛なんだから、よっぽどのことが無い限りは、私の身の安全が保障されたと言っても過言ではないだろう。
ナイフとフォークを置いて、ウーロン茶を飲む。
そして窓から空を見上げた。
私は心底ホッとしていた。
「大丈夫ですよ。安心してください。」
コロンが私を見つめて、そう言ってきた。
どうやら私が空を見上げたのが、将軍付きになるということに不安を感じたと思ったようだ。
「私の侍女の任は解かれておりませんので、配属後も、あなたの側におりますから。」
「あ、ああ。コロンさん、ありがとう。」
お礼は言ったけど、不安なんてこれっぽちも感じてないんだ。
ごめんね。
ナイフとフォークを手に取り、続きを食べ始めた。
コロンもそれを見て、私が安心したと思ってくれたみたいだ。
山盛りの鳥肉をぺろりと食べてしまった。
こんな量を簡単に食べてしまえる自分が怖い。
食器を片付けたコロンが、でかいバケツとデッキブラシを取り出した。
掃除でもするんだろうか。
「さあ食後には、お風呂に入りましょうか。」
なんですと!?
エンドル魔法講座『反魔法』
反対の効果を与える魔法のこと。反睡眠魔法は睡眠の反対、つまり覚醒させる効果を持つ。
反加熱魔法は冷却魔法となり、反送風魔法は吸引魔法となる。
効果は反対でも属性は同じであるため、魔法陣の色も同じ。つまり氷の魔法陣は火属性の赤色である。




