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面談が終わった後、夕食までの間にコロンさんからいろいろ聞くことができた。
そう、念願の『説明』をしてもらえたのだ!
ここはどこなのか。
なぜ私はここに居るのか。
前の転生者はどうしているのか。
後、神話についても聞きたい。
なんて、どんどん聞いていたら、いつの間にか窓の外は真っ暗になっていた。
「そろそろ、晩御飯にいたしませんか」
「え?もうそんな時間ですか。お願いします。」
そう言えば、お腹が空いた。
お昼ご飯は美味しかった。こちらに来て初めての食事だったが、しっかりとした中華が食べられてよかった。
あの中華料理を残してくれた前の転生者について、もっと聞きたかったな。
とはいえ、今日は色んな事を知りすぎて頭いっぱいだ。
「今日は私が料理当番ではありませんでしたので、どのような料理なのか分かりませんが。」
「え?ああ。」
あ、そりゃそうか。コロンさんは私にずーっと話をしてたわけだし。今夜の中華は無理かぁ。
でも、エンドルの料理ってのも気になってきた。
虫や石を食べたりってことはなさそうだし。
「では、ご準備いたしますね。」
コロンが魔法陣を作り、一旦消える。
私はベッドに横になった。
今日聞いたことを振り返り、整理する。
「要は…。」
独り言だ。
こういうのは声に出した方がうまくまとめられる。
「ここはコーカ王国の首都。その中心にあるコーカ城…。」
コーカ王国はエンドルの中でも五本の指に入る大きな国だそうだ。
「隣のシヘー連邦と今、戦争をしていて…。」
戦争かぁ。
戦争なんて、歴史の教科書とニュースでしか見たことがないよ。
「私たちは戦力強化のために転生させられたと。」
戦力として亜人の力を利用しようということらしい。
だから、私はこんな体になってしまったのだ。
「戦い…ね。」
今でも戦争している国に身を置いている実感はない。
自分が戦争に巻き込まれたという実感もまだない。
「嫌だなぁ。」
さっきまで着せられていた鎧はベッドの横に積まれている。
その鎧を見て、大きなため息が出る。
戦いたくない。
あんなの着て戦いたくないよぉ。
そもそも私には、この国のために何かしようという動機がない。
他の転生者はどう思っているんだろう。
その時、再び魔法陣が現れ、コロンが皿を持って出てきた。
「さあ、晩御飯ですよ。」
私は起き上がって、テーブルの椅子に座る。
コロンが皿を並べる。
焼肉かな…?
骨付きの‥‥スペアリブみたいな。
「これは…なんっていう料理ですか?」
「コーカの伝統的な料理で『闇の炎に抱かれし深淵なるタウロスの断片』です。」
…?
何だって?
「え…何ですか?」
「『闇の炎に抱かれし深淵なるタウロスの断片』です。」
まじか。
なんだその中二病な料理名は。
しかも、それが伝統的な料理なの?
私は笑いをこらえながら、脳内辞書を引く。
タウロス:
taurus(ラテン語)。タウルスとも。英語読みはトーラス。おうし座のこと。
ってことは、牛の肉か。
深淵なる牛…。うん、分からない。牛の種類かなぁ。松坂牛とかホルスタインみたいな?
闇の…ってのもよく分からないが、炎に抱かれるってことはオーブンかグリルで全体から熱を加えているのだろう。
断片ってことは肉の破片ということか。OK。これはスペアリブだ、きっと。
「それから、こちらもどうぞ。」
「おおぉ。パンだ。」
ちゃんとしたパンだ。それにスープもついてきた。
「こちらは転生者の皆様に好評です。いかがでしょうか。」
「ええ、嬉しいです。ありがとうございます。」
あ~、でも箸は要らないよ。コロンさん。
「ナイフとフォークってありますか?」
「あ、はい。ございますが…。こちらをどうぞ。」
だがしかし。
せっかく出してもらったフォークとナイフは役に立たなかった。
ダマスカス鋼で作られた特製の箸とは違い、ちょっと握っただけでひん曲がってしまった。
「ダメかぁ。」
力の加減ができないこの体が憎い。
というか、ナイフとフォークこそ、特製のを準備しておいてよ。
仕方ない。行儀悪いけどワイルドに箸で突き刺して、そのままかじりついて食べるか。
「申し訳ございません。私が切りましょう。」
そう言って、コロンがスペアリブを切り分けてくれる。
「骨も召し上がりますか?」
「え?いや、食べないです。」
骨も丁寧にはずしてくれた。
やっぱり、コロンさんは天然か?
違うな。きっとこの体は平気で骨ごと食べてしまう種族なのだろう。
「どうぞ、お召し上がりください。お代わりもたくさんあります。」
箸で『深淵なるタウロスの断片』を挟んで口に運ぶ。
普段ならスープやサラダを一口先に食べるのだが、せっかく目の前で切ってくれたので、肉からいただく。
美味しい。やっぱり牛肉みたいだ。
口の中で広がるジューシーな肉汁が…
いや、食レポは昼食(※五話参照)でやったので、もういいや。
とりあえず、エンドルの食事は怖がらなくても大丈夫そうだ。
肉を食べ、パンをかじり、スープを飲む。
「そうだ。『闇の炎』って何ですか?…特別な魔法ですか?」
「いえいえ。蓋を閉めて焼くので、光が入らないから『闇』なんです。」
なんだ、本当にオーブンなのか。異世界と言っても、そんなに料理方法は変わらないらしい。
私は安心して『深淵なるタウロス』を食べ始めた。
***
結局、今回もお代わりをいっぱいしてしまった。
コロンさん曰わく、オーガの体が肉を欲しているらしい。
そりゃあ、これだけの体を維持するには、大量に食べないといけないだろう。
ただ、元の私は少食だ。こんなに食べた事がない。
どれだけ食べても満腹にならないという違和感。というか奇妙な感覚が気持ち悪い。
「すみません。報告がありますので、一旦、失礼いたします。」
コロンは食事の後片付けが終わると、そう言って魔法陣の中へ消えていった。
私はまた一人になった。
ふむ。
やることがなくなった。
コロンから、いろんな話を聞いている時にメモがしたくて紙とペンを貰った。だが、やはり力の加減が難しく、すぐ紙は破け、ペンは折れてしまった。
パソコンが欲しいなぁ。スマホが欲しいなぁ。
しかしこの体では、秒で破壊してしまうだろう。
筆記ができない、文章が作れない事務職なんて、何の役にも立たない。
ふと見上げると、窓の外に月が見える。
エンドルの月も満ち欠けするんだな。
……。
やることがない。
寝よう。
私は、ベッドに横になった。
コーカ王国料理講座
『天地の恵みの粒子を集めて包めた黄金の拳』
・天地の恵み=小麦 →の粒子=小麦粉
・集めて包めた=練って丸めた
・黄金=絶妙な火加減で焼き色が金色
・拳=こぶし大の丸
つまりパンのことである。コーカでは手のひらサイズの丸いパンが一般的。
コロンがパンの正式名を言わなかったのは、聞かれなかったから。




