ⅩⅢ
ギルダー目線
転生者との面談が終わり、ギルダーとシェケルは隣の小会議室に移ってきた。
「ギルダー様、お疲れ様でした。」
「シェケル殿も御苦労であった。」
それぞれが椅子に腰掛ける。
シェケルは歴戦の勇士だが管理職には興味がないようだ。そのため俺のような若輩が上司でも、ちゃんと上下関係を守って対応してくれる。
「シェケル殿。すまないが飲み物を頼めるか?」
「いつもので良いですか?」
「ああ。」
シェケルが念話の魔法を飛ばす。
俺は念話の魔法が苦手だ。あちらの世界には電話という、魔法を使わなくても離れた人間と話ができる機械が有るらしい。なんとうらやましいことか。
「今回の転生者は一勝一敗一分けだな。」
俺がそう言うと、シェケルが笑う。
「いえ、二勝一分けです。」
「かなりの自信だな。使い物になると?」
「はい、必ず。」
シェケルは今回の転生者に自信を持っているようだ。一体彼らをどう運用するつもりなのか。
「失礼いたします。」
若い兵士が入ってきた。シェケルの念話で呼び出されたのだ。彼の持つトレーにはティーセット一式が載っている。
兵士はささっとカップを机の上に並べると、ポットから飲み物を注ぐ。
「ギルダー様は砂糖二つでしたな。」
そう言ってシェケルが目配せすると、兵士は俺のカップに砂糖を入れる。
シェケルは何も入れない。砂糖がないと苦すぎるのだが、それは俺がまだ若いせいかもしれない。
兵士が「失礼しました」と言って出て行く。
俺たちはそれぞれにカップを口に運ぶ。
「お、旨いな。香りも良い。」
「カワセ産の上物です。」
そんな高級品を持ってくるとは、俺を説得する気まんまんだな。だが、そう簡単に懐柔される俺ではない。
「この非常時に…、親衛隊は良いものを持っているんだな。」
先日の城への直接爆撃。
前例のない王都への攻撃によって籠城軍は戦闘モードに切り替わり、いろいろな物資が規制され始めている。
「いえいえ、これは私物です。親衛隊の食糧庫は『非常事態だから』と言って、兵糧長に押さえられてしまいました。」
「そうだろうな。司令部のも半分持っていかれたよ。」
二人で笑った。
しかし、本来は笑っていられない状況である。
一つ深いため息をついて話を戻す。
「資料を。」
シェケルから三枚の紙を受け取り、再度目を通す。
「まずは、バードマンについてですが。」
「見張り兼衛生兵だな。」
バードマンは目と耳が良い。もともと見張りとして使う予定だった。
前世は看護師。訓練なしで医療選別までできるとなると、前線で重要な人材だ。
もし飛べるようになれば、戦線が拡大しても広域を対応できるようになる。飛べなくても、見た目より非常に軽いバードマンの体なら、飛行兵に運ばせるという手もある。
「まずは軍立病院で我が国の医療を学ばせる。有事の際には籠城軍のどこかの部隊に入ってもらおうか。」
「了解しました。そのように病院長に伝えます。飛行訓練は親衛隊で実施します。」
シェケルが資料に書き込んでいく。
「シェケル殿、人間だった者が亜人の羽根を動かして飛べるようになるかね?」
「わかりません。やるだけやってみます。では続いて、リザードマンですが。」
強引に話を変えたな…。
まあ、羽根の亜人については飛べなくてもいい。問題は鱗の亜人だ。
「泳げないのに、どう使うつもりだ。」
彼に関しては、我々二人の評価は大きく割れていた。水中では無双の体を持つのに泳げないなんて宝の持ち腐れだ。
銃の腕に自信があるのだろうが、我が籠城軍には粒ぞろいの射撃手たちがいる。猟師だからどうしたというのだ。
シェケルがポットからお代わりを注いでくれる。そして砂糖を二つ入れて、こちらに渡す。
「考えがあります。」
シェケルの顔から決意を感じた。この顔は嫌いだ。
「…水軍か。王都防衛には、やはり水軍が必要か?」
かねてよりシェケルが提案していた水軍。
王都に流れる二つの河と、そこから縫うように広がる水路。王都防衛には水路と河川の利用が重要だという進言だった。
それは分かる。だが。
「次の敵襲がいつあるか分からぬのに、今から準備して間に合うか?」
俺は現在の戦力を裂いてまで水軍を組織するより、今ある戦力で防衛を固めた方が良いと考えている。上司である籠城軍の軍団長も同じ意見だ。
「間に合わせます。すでに候補は選定しております。」
今回のリザードマンの射撃手が、シェケルの水軍構想の決定打であったようだ。
「シェケル殿が水軍を指揮すると言うのか?」
「可能ならばそのつもりです。」
「親衛隊長はどうする気だ?」
「班長のデニが適任です。彼は親衛隊の副官もしっかりこなしております。先日の爆撃の際も、彼のお陰で貴人の誰一人として怪我をされた方はおられません。」
そこまでの人選を終えているとは…、準備万端だな。
俺は、カップの中の飲み物をゆっくりと流し込む。
…うまい。
これだけの上物を出してきて…。本気なのだろう。
「こんな非常事態に人事異動をすべきではないのだが。」
「いざという時が来てからでは遅いのです。」
この男は本当に現場が好きらしい。管理職として後方に居るのが性に合わないのだろう。
気に入らない。
「わかった。軍団長にもそのように具申する。」
「ありがとうございます。」
「ただし。シェケル殿には司令部に入ってもらう。兵士長補佐だ。」
シェケルは微妙な顔をした。
全て彼の思い通りにさせるわけにはいかない。こちらにも意地がある。
水軍は作ってやるが司令部直属だ。シェケルは昇進。
「わ…わかりました。」
シェケルは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながらも、水軍のために了解した。
良い顔だ。
彼はメモを取りながら、念話の魔法を飛ばす。
そして、俺は最後の紙を見る。
「最後はこの土塊だな。」
お互いが「一分け」と判断した角の亜人。
当初は、先鋒部隊に編成して相手の陣地を引っ掻き回す役を与える予定だった。
そもそもオーガとは、そういう人種なのだ。
その強靭な肉体をフル活用して、どんどん前に出て破壊していく。
「…護衛か、どう思う?」
シェケルは少し考えて、ぼそっと答えた。
「未知数です。おそらく戦いに出たくないから、あんなことを言ったのでしょう。」
「だろうな。」
あいつは、あちらの世界で文官だったと言った。
と言うことは、法律や前例を盾に、口先だけの仕事をしてきたに違いない。
「しかし、あれに護衛をさせるのも面白いとは思わないか?」
「は、司令部付にするのですか?」
まあ、それも悪くないが、もっと有用な使い方がある。
「いや、…将軍の護衛だ。」
「わかりま…え? はぁ!?」
シェケルが間抜けな声をあげる。
ふむ、良い顔だ。




