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自分が前線に放り出されない方法を考えろ。
ギルダーが好きそうな言い方を考えろ。
「私は事務職ですから、文官の扱い方を知っています。」
この言葉を聞いてギルダーが座り直した。
よしよし。食いついたかな。
もう少し具体的に。
「私は、文官から金を引き出す方法を知っています。」
ちょっと言い過ぎてる。
たかだか七年目になったばかりの公務員に、そこまでの能力はない。
ちょっと見栄を張って、ハッタリをかましてみた。
「側に置いていただければ、あなたが面倒だと思っている仕事がスムーズにいきます。」
「つまり、私の側近にしろと?その巨体でか?」
別に…お前なんかのそばに居たいわけじゃない。
けれど、兵士長なら一兵卒よりは安全な場所にいるに違いない。
「護衛としても働きます。兵士長の言うとおり、いざという時にこの体は最強の盾になります。」
これでもかと自分をアピールしてみる。
就職試験の面接を思い出すなあ。
さすがに、あの頃はここまでハッタリかますことはなかったけど。
ギルダーが呟く。
「護衛か…」
ギルダーの「盾にしかならん」を尊重しつつ、その上で困っている点についても解決策を提案する。
さらに私の身の安全も確保。我ながら完璧だ。
「悪くない意見だと思います。」
シェケルも乗っかってきた。
そういえば私が転生させられた時に居たのは、この親衛隊長だったな。
きっと転生の責任者なんだろう。
だから「使えん」者が多いと、彼の責任になるから、何とか有効活用したいんじゃないか。
などと、想像しつつギルダーを見る。
さっき投げ出したペンを拾って止まっていた。何かを考えているようだ。
「お前は保留だ。追って処遇を連絡する。」
ギルダーはそう言って立ち上がり、入ってきたドアから出て行った。
「では、これで転生者の面談を終了する。各自、速やかに部屋に戻ること。」
シェケルも紙とペンをまとめて席を立ち、事務的な締めの挨拶をすると、同じドアから出て行く。
「お疲れ様でした。」
コロンが後ろから声をかけてくれる。
私もホッとする。
まあ、成功した方なのかな。最後は「使えん」とは言われなかったし。
「面談の順番が最後で良かったですよ。」
「そうですね。途中、私ハラハラしました。」
コロンさんがハラハラしたのは、ブロンズさんが連れ出されたことだろうか。それとも私が兵士長に意見したことだろうか。
隣のフクロウの人も侍女と話をしていた。
「さあ、テルル様。行きましょうか。」
フクロウの人、テルルって名前なんだ。
やっぱり女の人っぽい名前だから、きっとおばあちゃんだろうな。
「あの…テルルさん。」
私はテルルに声をかけた。
「お互い、大変なことになりましたね。」
「そうね。長く生きてきたけど、こんな事は初めてだわ。」
そりゃあ異世界転生なんて、人生に何度もあっちゃあ困るわ。
「これからどうなるんでしょうね。」
「私は飛ぶ練習をするみたいよ。」
「大丈夫ですか?」
「いえ、楽しみだわ。自分の羽根で飛ぶなんて素敵じゃない?」
なんだ。このばあちゃん、この状況を楽しんでるぞ。
やっぱ長生きすると違うな。
「こんな体にされて、怖くないんですか?」
「そうだね。怖いというよりも、体の痛みがなくなったことの方が嬉しいわ。」
嬉しい!?
「なんだか、体も軽くなったみたい。しかも、こんな素敵な羽根まで。まるで生まれ変わったみたい。」
いや、実際生まれ変わってるんですけど。
大先輩の考えることは違うなぁ。
「テルル様。そろそろ。」
テルルの侍女が急かす。
「あら、もう行かなくちゃなのね。またお話ししましょう。」
テルルは手を振って、部屋を出ていった。
「では、私達も行きましょうか。」
コロンが手を差し出す。手を借りなくても私が立ち上がるのに支障はないが、一応その手を取って立ち上がる。
帰りも兵士二人に挟まれて連行されるようだ。
私たちが扉から出ると、部屋の中からガチャガチャと金属のぶつかる音がした。多分兵士達が警戒を解いたんだろう。
さっきと同じ通路を歩いて、部屋に戻る。来る時よりも早く戻れたと感じたのは、緊張感が全然違うからかもしれない。
あー、喉が渇いた。
緊張して、いっぱい喋ったし。ほんとに疲れた。ウーロン茶飲みたい。
ガチャガチャと鍵のかかる音。また、この部屋に閉じ込められた。
「かなり警戒されてるんですね、私。」
「オーガはとても強い人種なんですよ。暴れ始めたら手が付けられないくらいに。」
へえ、エンドルではオーガも人類に含まれるのか。
モンスター扱いされるんじゃないにしても、これだけ厳重にされるといい気はしない。
「そんなに強いんですか?」
「試してみます?」
コロンは虚空に手をかざし、黄色い魔法陣から缶詰を取り出した。
そして私に手渡す。
あ、缶詰あるんだ。
「これを?」
「はい、ぎゅっと。どうぞ。」
私は右手で掴む。力を入れる。
ベキベキ。ブシュ。
缶は、手の中でつぶれて中身がポタポタと滴る。
柑橘系の匂いだ…中身はオレンジかな…もしかしたらオレンジジュース?
… …
いやいやいやいやいや!
「嘘でしょ!!」
多分、空のペットボトル潰すくらいの力ですよ。
オーガって、こんなに力強いもんなの?
「怖いくらいの力です。」
コロンも滴る缶詰に驚いていた。
できるだろうとは思っていたけど、いざ目の当たりにして驚いたといった感じだ。
「私、よく箸を折らずに持ててたな。」
「あれはですね…。」
コロンがまた魔法陣を描き、今度はハンカチ、そして箸とカップを取り出した。
私の手からボロボロになった缶を受け取ると、ハンカチで手を拭いてくれた。
「ありがとうございます。」
「では、こちらをご覧ください。」
スッキリとした手に、箸とカップを渡される。
「あ、金属だ。」
箸もカップも金属だ。箸にはご丁寧に木目まで入っている。ぱっと見、木と見間違うわ。
アルミみたいに軽いのにステンレスみたいに丈夫。
いや、今の私の握力からするとステンレスの硬さどころじゃないよな。
「ダマスカス鋼で特別に作っていただきました。」
「そんな簡単に作れるものなんですか?」
私がウーロン茶が好きだと知ってから、すぐに準備したのだろうか。
一晩でこんなものまで作れるのか。すごいな。魔法。すごいな。親衛隊。
「いえ、三日ほどございましたので、しっかりしたものを作っていただきました。」
「三日ぁ!?」
「はい、三日間寝ておられました。」
そんなにぐっすり寝ていたのか、私。
そりゃあ、お腹がすくのは当然だ。
そんなことを考えつつ、カップを見つめて思い出した。
「コロンさん、あのお茶いただけますか?」
「はい。少々お待ちください。」
のどがカラカラだ。




