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リラは演説台の前に立つ。
「リラ様、どうされました。あまり目立つ所へ行かれますと危険です。」
バルボアがたしなめる。親衛隊員五人のうち、ギルダーの手伝いをしている二人を除いて、常にリラの周りを警備しているので、そこまで心配はしていない。
「上空から敵だってさ。」
「なんですと!?」
バルボアと親衛隊員が上を見る。
そろそろ夜空が白みはじめる時間だが、まだ空は星をたたえたままだ。
親衛隊員の一人が、魔力探知の魔法陣を開く。そして首を横に振る。
「上空には何も感知できませんが。」
「当然、隠形か撹乱の魔法を使っているのでしょう。」
魔力探知は、術者周辺の魔力を持つモノの位置を把握することができる魔法だ。上級者になると、その魔力の大きさまで分かる。
魔力を持つ生き物や魔道具等の位置を把握することは、戦場を把握するために必要不可欠である。
となれば、当然それをかいくぐる魔法も戦場では不可欠となる。それが、自分の持つ魔力を探知されなくする隠形や探知を邪魔する撹乱の魔法なのだ。
しかし、それはあくまでも魔力の探知を妨ぐだけであって、姿が見えなくなるものではない。
バルボアが光の魔法を打ち上げる。上空まで迫り上がった魔法は、照明弾のように煌々と輝いた。
「あれだ!」
ゴマ粒のような三つの点が光に照らされる。かなり高い所を飛んでいるようだ。
もうすぐ、将軍府の真上にくる。
バルボアは足元の兵士を見る。まだ人数が多く、自由に動けるような状態ではない。上から攻撃されたら、壁に囲まれた兵士たちに逃げ場はない。
どうしても撃ち落とさなければならない。
「ギルダー殿!南上空に敵影、三!」
バルボアはギルダーに叫ぶ。
ギルダーも瞬時に判断して答える。
「魔導兵隊長に連絡して対応させてください。その後、待機中の歩兵隊にも飛べる者を編成させるよう連絡を。」
「分かった。」
バルボアは念話で連絡を入れるが、ここまで接近されてしまったら、恐らく間に合わない。
ギルダーは悔やんだ。
恐らく、こいつらは斥候を兼ねた第一陣だろう。この攻撃が通ってしまえば、次々と空から攻撃が降り注ぐことになる。
「やはり、飛行兵を連れてくるべきだったんだ。」
シェケルに飛行兵の編成は不要と進言されて納得してしまっていたが、後悔先に立たず。
魔導兵を先に全部出撃してしまっていたのも誤算だ。一部護衛に残しておくべきだった。これについては、敵がいる想定をしていなかったから仕方ないが、責任は誰が取ることになるのか。
「リラ様、下がってください。建物の中へ!」
「ちょっと待って〜。これかな?」
親衛隊員に避難を促されるが、リラは演説台の模様を調べている。
「あった、これだ。」
リラはその模様に手をかざした。
***
光に照らされた敵は、急降下を始めた。見つかってしまったのなら、ゆっくり斥候をしている時間はない。
彼らは撤退…を選ぶ前に、急いで将軍府の直上まで飛んでくる。そして三人それぞれが手に抱えていた袋から、運んできた荷物を取り出しバラ撒いた。それは、ビー玉より少し大きな黒い球。歪な球体でゴツゴツとしている。
バードマンは、最後に袋ごとひっくり返すと魔法陣を展開する。
私は悲鳴を上げた。
「何かを投げ捨てました!!」
黒い球は、将軍府に向かって落ちてくる。つまり私たちの真上に降ってくる。
バードマンの魔法陣を通過した黒い球は倍のサイズになった。
私はこの魔法陣を知っている。ルピアほどのインパクトはないけれど、あれは巨大化の魔法陣だ。
タラは指で丸を作って空の様子を覗いていた。指先には遠視の魔法陣を展開して、上空を見つめる。
彼も黒い球に気が付いて叫んだ。
「あれはもしかして爆弾ボールじゃないか!?」
そんなこと、私に聞かれても分かるわけないじゃないか。でも、間違いなく武器だ。きっとタラの言う通り爆弾ボールなのだろう。
今までこの異世界で閃光ボールや騒音ボールなんてのを見てきた。地面に叩きつけると光ったりうるさかったりする魔道具。
となれば、同じ命名規則だとすると爆弾ボールはここに落ちてきて…
「爆発するっ?」
私は両手で頭を抱えた。
周りの兵士も上空に敵を認めて動揺する。私の言葉が聞こえなくても、上から攻撃が来るのは直感できる。
誰かが声を荒げ、空を飛べる魔法を使える兵士がいないか募っている。
しかし、手を挙げる兵士はいない。空を飛ぶ魔法はその魔法陣が複雑なことに加え、長時間の訓練をしないとまともに飛ぶことなどできない。一朝一夕で修得できる魔法ではないから、飛行兵という特別な兵種があるのだ。
「誰か居ないか!」
誰も答えない。声だけが虚しく響く。
伏せて頭を抱える者、背中のバックパックを頭の上に掲げる者、その隣に入ろうとする者。兵士たちは自分の身を守ろうと精いっぱいだ。
門の前には馬が並んでおり、騎馬兵隊が出撃準備をしている。門から逃げ出すことはできない。つまり、この詰め込まれた前庭に逃げ場がない。
動けない場所で、命が危機にさらされる恐怖。
誰も動かない。動けない。
おそらく、あんな上空まですぐに反撃できる手段を持った者はここには居ないのだ。それをみんな理解している。兵士はパニック寸前だ。爆弾ボールのどれか一発でも爆発すれば、それを切っ掛けに錯乱の波が広がっていくだろう。
落ちてくる爆弾ボールを眺めることしかできない。
夜空に対してボールの遠近感を掴むことは難しい。どこまで落ちてきてるんだ? 誰でもいいから、あの爆弾を迎撃してくれないか。
極限の緊張があたりを包む。
「大丈夫だよ〜。」
前庭にリラの声が響く。その声色に兵士たちの緊張感が弛緩する。
次の瞬間、壁の上部から光が立ち上がる。そして半透明の壁がドームのように広がり、将軍府をすっぽりと包んだ。
私はこの魔法陣を知っている。防壁魔法だ。
ルピアの防壁よりもインパクトも規模も桁違い。
でかい!
道具紹介
「爆弾ボール」
・魔法で爆発そのものをボールに閉じ込めたもの。ボールに強い衝撃を与えると弾けて爆発する。時限式のものもあり、こちらは一定時間後に爆発する。
運んでいる最中に爆発しないようにロックが掛けられており、魔力を注ぎ込むことでロックを解除できる。
主に兵器として利用され、今回のように上空から落としたり、地雷のように地面にバラ撒いて使用される。




