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赤く燃える空を背景に、点のような影が見える。
…三つ…いや四つの空飛ぶ小さな影。
「あれ…は?」
私が指差した方向をみんなが見る。
「どこだ?」
「何?」
「あそこです。かなり遠いですけど。」
「どれ?」
「いや、分からない。」
他の人には見えてない。
「何が見えるんだ?」
…もしかして私にしか見えてないの!?
あれって霊的なもの? 空襲を受けたキンユー市民の亡霊?
怖い怖い怖い。
その時、下から複数の光が駆け上がってきた。火の玉?
火の玉の一つが、影にぶつかって花火みたいにはじける。
一つの影が落ちていく。
誰かの攻撃で撃墜されたのだ。
「本当だ!何か飛んでる。何だ?」
タラたちは目を細め、空を指差す。
良かった。幽霊の類ではなさそうだ。
撃墜されたのを見て、残りの影三つは高度を上げる。上空の闇に溶け込み、タラからは影が見えなくなる。
「どこだ?どこに行った!」
かろうじて私には影が近づいてくるのが見える。テルルやブロンズには及ばないものの、オーガってのは人間より目が良いのかもしれない。
「あそこです。」
「どんなのだった?」
「羽の生えた…人。」
人影はそれぞれに羽ばたいている。
私はこんなシルエットを知っている。
「テルルさんみたいな…。」
「きっと羽の亜人、バードマンだな。恐らく敵だろう。」
「でも、後ろを飛んでるのは羽の形が違います。」
タラが空を睨みつける。が、彼には見えていない。
「そっちはガーゴイルかもしれないな。全部で何体飛んでいる?」
敵が空から飛んできているというのに、よくもまあタラは落ち着いて話せることだ。
私は内心ドキドキしながらも、なんとか声を絞り出す。
「…三です。バードマンが一人、ガーゴイルが二人。」
「分かった。」
早速、タラはバルボアに念話の魔法で連絡を入れる。
しかし、すぐに首を降った。
「誰かと話をされている最中のようだ。」
***
『無理を頼む。』
『分かりましたバルボア様、間もなくそちらに向かわせます。』
バルボアは、ギルダーに代わって各所に念話で連絡を入れていた。
ギルダーは兵士長として、この援軍の指揮を取らなければならない立場だ。
軍のトップがすべての連絡を把握する必要はない。本来なら司令部を設置し、その中の者たちで集められた情報を整理する。そしてその情報から判断するのがギルダーの仕事となる。
今は非常事態だ。バルボアが司令部の代わりをするくらい仕方のないことだ。
『東のゴブリン部隊は、ほぼ殲滅。』
『歩兵隊は三割が門を出ました。』
『中央ワイバーンが暴れています!』
『騎馬兵隊出撃準備整いました。』
各隊長から次々と報告が入ってくる。それらを逐次ギルダーに伝える。
ギルダーの隣では、親衛隊員が手元の地図に書き込みながら情報を整理している。
「ギルダー殿、状況は分かってきましたか?」
バルボアは軍では補佐役を任される事が多かった。性格を考えると適性があったのだろう。
階級は年季の長いバルボアの方が高いが、将軍補佐は立場上、兵士長とほぼ同列。それに責任者は兵士長だ、自分がサブに徹する事はやぶさかではない。
「まあ、何とか。我々はシヘーの野営地の真裏に出たようですね。出会い頭の衝突事故みたいなものです。」
ギルダーは地図を見下ろしながら、ニヤリとする。
「しかし、相手にとっては最悪の奇襲となったでしょう。」
ギルダーは先程までの焦燥から、すぐに落ち着きを取り戻していた。さすが若くして兵士長となるだけの器は持っているようだ。
「奇襲の仕返しだな。」
相手は、山越えをしてキンユーへの奇襲をしてきたシヘーの部隊だ。期せずして意趣返しをしたことになる。
バルボアの言葉にリラが続ける。
「奇襲もやられたらやり返す。倍返しだっ!」
「倍返しどころか殲滅してやりましょう。バルボア殿、先に騎馬兵隊を出撃させるよう連絡お願いします。」
ギルダーに頼まれ、再びバルボアは念話で指示を送る。
***
空飛ぶ影はだんだん大きく濃くハッキリとしてきた。
かなり近づいて来ている。
「バルボア様に繋がらない!何とか連絡を。」
タラは隣りにいる兵士に声を掛けるが、近くにいる歩兵隊の兵士たちでは、せいぜい班長、小隊長レベルまでしか連絡がつかない。連絡の伝言ゲームをしていては間に合わなくなる。
バードマンが何か手に持っているのが見えた。
武器かな。だとするとヤバくない?
先程までの密集状態は幾分改善したとはいえ、まだまだ自由に身動きが取れる状況ではない。
つまり逃げられない。
建物の中に入れば助かる可能性が上がるかもしれないが、この状況で入口まで行くのは至難の技だ。
…いや、このオーガの怪力があれば、兵士を押しのけて動けるんじゃないだろうか。
待て待て、よしんば入口に辿り着けたとしても、中には兵士が詰まっていて入れないじゃないか。
打つ手なし。
タラたちは、大きな声を出して敵が空から来ていることを伝えようとするが、壁の外の戦闘音と、出陣していく兵士の鬨の声に掻き消される。
こういう非常時の連絡体制がきちんと取れて居ないのは、第一籠城軍が戦闘を経験していないためかもしれない。
…あ、そうだ。
「リラになら連絡がつく!」
忘れてた。私はリラと連絡先交換してるじゃないか。
あ、リラに「様」つけるのも忘れてた。
「早くしろ!」
タラが急かす。
バードマンたちはかなり近づいて来ていた。夜に紛れていて、まだ私でないと見えないようだ。
私はリラの顔を思い浮かべ、念話の魔法を使う。
『もしもし!』
『モシモシって、何〜?』
こんな状況なのに、いつもの調子のリラだ。呆れると同時に、焦っていた心が少し落ち着く。
「繋がりました!」
「敵のことを。」
タラは短く指示する。
『上空から敵のバードマンたちが来てます。もうすぐそこです!』
『オッケー。まーかっせて。』
リラはふらりと演説台の方へ歩いていく。




