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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
23章:超絶!瞬間移動要塞コーカ将軍府

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 将軍府の上空から飛んできた魔導兵の叫びを受けて、兵士たちが色めき立つ。


「敵襲?」

「敵だって!」

「どうして…」


 敵はキンユー北側から侵攻してきていた。だから将軍府を反対側の南に移動させるのが当初の計画だったはずだ。

 全ての兵士に、作戦はそのように説明されていた。


「キンユーの南側まで敵が来ているのか?」

「とりあえず、俺らを出撃させろ!」

「敵はどれだけ居る?」


 兵士たちに混乱と動揺が広がっていく。

 壁の向こうから聞こえてくる戦闘音も、その戸惑いを増幅させている。


 恐らく正解は、タラが心配していたとおりの事だろう。

 私はリラの立つ演説台の方を見上げる。何やら揉めているようだ。


***


 整備隊員が演説台の所に走り込んできた。


「瞬間移動の到着地点がずれています!」


 リラの後ろに控えるバルボアやギルダーも報告を聞く。

 ここに居るのは、将軍リラ、将軍補佐バルボア、兵士長ギルダー、そして護衛の親衛隊員である。


 第一籠城軍の軍団長と工兵長、兵糧長は別室で待機していた。彼がいるのは将軍府の一階の奥の小部屋。整備隊員たちが瞬間移動の魔法陣を制御している部屋だ。

 トップが集合している場所で何かがあれば、指揮系統が潰れてしまう。だから戦場では、将軍と軍団長は分散して、常に別の場所に居る事になっていた。副将軍のクワンザはコーカ王都で留守番だ。


「やっぱりそうかぁ…。みんな、将軍の号令を聞いてから動くべきだよね〜。」


 リラは深いため息をつく。


「何故だ!?どうしてこうなった!」


 ギルダーが食ってかかる。その剣幕に整備隊員は何も喋れなくなる。


「あ…え…」

「原因は何だ!」

「それは、まだ…」


 ギルダーは更に詰め寄る。


 門を開くように指示したのはギルダーだ。リラの茶番なんて待っていられない。(ひし)めきあう兵士の事を思っての指示だった。

 その負い目が余計ギルダーを焦らせる。


「周囲の確認を怠って飛び出た結果か…。」


 バルボアも苦い顔をする。しかしあの状況では、兵士たちの熱意を止めることができなかったのではないかとも思う。人を詰め込みすぎた。それが失敗の根本原因だろう。


 もう一度瞬間移動して、キンユーの南側に移動できるか?

 いや…原因が分かっていない。次の瞬間移動も失敗する可能性がある。そもそも、それをするとコーカ王都へ戻るだけの魔力がなくなってしまう。

 そして、すでに戦闘が始まっている兵士たちを置いていくこともできない。


 …つまり、ここで対処しなければならない。

 そんな事を考えながら、自身の持つ老獪な部分をフル稼働させる。


「理由など後で良い。まずは現状報告だ。ここはどこで、いま何と戦っている。」


 バルボアは落ち着いた口調で整備隊員に問う。


「はっ。キンユーの真北です。キンユーの城壁から二キロも離れておりません。」

「でっ? 何が襲ってきているんだ!」

「え…」


 ギルダーは落ち着かない様子で更に詰問する。しかし、瞬間移動の魔法陣を担当していた整備隊員が、敵について知ることは何もない。


 そこへ、魔導兵の隊長から念話魔法が入る。


『ギルダー様、敵襲です!』

「見たら分かる! 報告が遅いっ!」


 ギルダーは念話が苦手だ。自分から念話をかけることはできないし、目を閉じていないと念話は切れてしまう。何より声に出さないと話をすることができない。


『申し訳ございません。体制を整えるのを優先しまして。』

「言い訳はいらん、敵は何だ!?」


 バルボアたちにも、ギルダーが誰と話しているかがすぐ分かった。


『ゴブリンとドワーフを主力とした部隊。ワイバーンとバードマン、ガーゴイルも居るようです。』

「…シヘーの空挺部隊だな。規模は?」

『正確には把握出来ていませんが、連隊規模かと。』

「連隊…。」


 バルボアはそれを聞くと、整備隊員に戻るよう促す。


「工兵長に報告を。」


 整備隊員は走って行った。


***


「あれ? 動き始めましたね。」


 門の前で止まっていた兵士たちが、再び外に出はじめた。兵士たちは剣を構え、自らを奮い立たせるように声を出しながら出撃していく。

 彼らは歩兵だ。様々な道具が入った荷物を背負っており、主な武器は剣や槍。荷物は携帯食料や小型の武器、救急用品などであり、様々な状況に対応する。


 ある程度前庭に余裕ができてくると、戦車部隊や騎馬隊も出発の準備をはじめる。


「今、バルボア様から指示があった。」


 タラは念話で指示を受けたようだ。手短に状況を説明していく。


「ここはキンユーの北側。シヘーの部隊から攻撃を受けてる。」

「キンユーを攻撃してきたやつらか?」

「間違いないだろう。」


 キンユー周辺の貴族の子息たちが目の色を変える。


「我々にも出陣はあるのか?」


 そのうちの一人が息巻く。


 やめてよね。

 壁の向こうで殺し合いが怒っていること自体が恐怖なのに、その中に飛び込もうだなんて発想が信じられない。

 私はそんな自殺志願者じゃない。


「いや、我々は予定通りだ。」


 タラがすぐさま否定してくれる。


 よかった。

 予定では、私たち将軍直轄部隊は安全な任務しかない。

 まず、いま建物の外にいる戦闘系の援軍部隊が、将軍府からキンユーまでの安全な経路を確保する。

 そして建物の中に居る修理や補給を担当する部隊を誘導するのが私たちの任務だった。

 いきなり敵の本隊とぶつかるという想定外の事態にはなっているが、やることは同じということだろう。


「我らの訓練の成果を見せられないのは残念だ。」

「しかし、このままでは何が起こるかわからないぞ。心の準備だけはしておいた方が良い。」


 血気盛んな若い貴族の子息に、タラが忠告する。


 私は、壁の向こうの戦闘音がどんどん大きくなっていくことが気になって仕方がない。

 この壁、突き破られたりしないよね。


「外は大丈夫でしょうか…」


 私は思わずつぶやく。


「どちらにしろ、シヘーの部隊とはぶつかる予定だった。それが早いか遅いかだよ。」


 タラはそう言うが、キンユーに入って準備してからと、到着していきなり戦うのとでは全然違うと思うんだけど。


 私は音がする方の壁を見た。そしてそのまま目線を上げた。

 …何かが飛んでくるのが見えた。


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