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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
23章:超絶!瞬間移動要塞コーカ将軍府

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 将軍府の敷地には地上三階建ての建物が一つだけ。コーカ駅よりもずっと小さい。建物の周りには庭や小さな運動場のような広場があり、それらが四方にある城壁で囲まれている。


 私たち直轄部隊が将軍府についた頃は、まだ周囲は真っ暗だった。先頭を行くタラの光魔法を頼りに前庭に並ぶ。私たちは一番端っこで、建物のすぐ隣だ。

 前庭には戦車や馬、恐竜たちが並んでおり、既にいっぱい。それなのに更に更にと兵士たちが入場してきていた。


「こんなに?多くない?」

「できるだけ沢山の援軍を送らないといけないからな。」


 全兵士が揃うには、もう少し時間がかかった。



 そして、リラが現れた。

 彼女が立つのは将軍府の正面玄関の上。ここには演説台のような場所があり、私たちを見下ろしている。

 リラは、私が最初に将軍府で会った時と同じ鎧を身に纏っていた。赤いラインの入った黒の鎧。兜は被らず、金属でできた鉢巻のような物を額に付けている。


 暗闇の中には幾つもの魔法の光が灯っていた。その光に照らされて浮かび上がる兵士の姿。

 リラの足下に並ぶのは、キンユーへと援軍に向かう第一籠城軍の精鋭。総勢千余人。


 将軍補佐指揮下

  将軍直轄部隊   精鋭十名

 兵士長指揮下

  親衛隊分隊      四名

  歩兵隊大隊   五百十二名

  魔導兵隊中隊  百二十八名

  騎馬兵隊三個小隊 四十八騎

  恐竜騎兵隊小隊   十六騎

  戦車隊二個小隊 六両十八名

 工兵長指揮下

  整備隊中隊   百二十八名

  修繕隊小隊    三十二名

  埋設隊分隊     十六名

 兵糧長指揮下

  医療隊二個小隊  六十四名

  補給隊小隊    二十四名


 彼らは出陣の時を待っていた。



 とはいえ。玄関前広場なんて、そんなに広くないので裏手の方に回っている部隊も居るし、四分の一くらいは建物の中で寿司詰めになっている。


「もう少し詰めてくれ。」

「ちょっと臭うんだけど。」

「うぅ…きつい…」


 建物の中から、悲しい声が漏れ聞こえてくる。

 できるだけ沢山の兵士と物資を輸送するために詰め込んだのだ。謁見室やリラの部屋ですら、武器や食糧、医療品などでパンパンになっている。

 建物の外も外でぎゅうぎゅうだ。戦車の上に立っている人たちも、車から落ちないように必死で掴まっている。


「押すなって。」

「あとどのくらい?」

「瞬間移動なんてあっという間だ。」

「ちょっと臭うんだけど。」

「我慢しろ…」


 早くしてくれ。

 兵士たちは戦争に駆り出される恐怖よりも、今の状況から解放される事を望んでいた。


「うふふふっふふふっ」


 そんな状況を知らないで、リラは笑う。笑い方がマッドサイエンティストな友人クーナに似てきた気がする。



 空の端が黒から濃紺、藍、群青と少しずつ明るくなっていく。星々は徐々に見えなくなり、雲一つない空が白み始めた。

 夜が明けようとしている。


 冷たい空気の中、兵士たちはじっとリラを見守る。


「いい天気…」


 これから起きる事なんて考えられないような美しい色の空。戦争に行くのだという事を忘れてしまいそうになる。


 リラの髪が、夜明けの風に吹かれてたなびく。

 リラの頬が、魔法の灯りに照らされて揺らめく。

 そしてリラの瞳が、強い決意に動かされて煌めく。


 リラは将軍府に詰める兵士に檄を飛ばした。


「みんな行くわよっ!…キンユーを守るわ!」



 本当なら、ここで(とき)の声でもあがるのだろうが、こんな押しくら饅頭状態では誰も大声を出せない。

 逆にヒソヒソ声だけが聞こえてくる。


「まだかよ。」

「ちょっと臭うんだけど。」

「もう限界だって。」

「早く早く。」


 そんな恨み節は、高い位置に立つリラには聞こえない。


「ちょっとノリ悪いわよ、みんな緊張し過ぎじゃない〜?」

「リラ様。時間がありません。」


 リラの後ろに控える将軍補佐バルボアが急かす。


「あれの用意を…。」

「はっ!」

「昔話で聞いてから、これを一回やって見たかったのよね。」


 リラは演説台に彫られた模様に手をかざし、魔力を注入する。

 模様は小さな魔法陣となって光りだす。巨大な魔法陣を起動させるためのキーとなる魔法だ。


 リラは子供のような笑顔を見せ、そして叫んだ。


「コーカ将軍府、瞬間移動要塞モードセットオン!」


 城壁に埋め込まれたたくさんの魔法石が、溜め込んだ魔力を放出する。

 将軍府の壁を取り囲むように、巨大な正方形の魔法陣が光り始めた。魔法陣は黄金色に輝く。


 二百年の間使われなかった魔法によって、城壁はヴーンという低周波の音を響かせて小刻みに振動させる。


  ゴゴゴゴゴゴゴゴ


 全体がグラグラと揺れ始めた。地面が動いているようだ。

 黄金色の魔法陣に吸い込まれるように、建物全体がゆっくりと沈んでいく。


 リラは片腕を掲げ、誰に聞かせるためでもなく叫ぶ。


「さあ!黄金の大海原にダイブする将軍府の勇姿。!とくと見せてやるわ!!」


 兵士たちから恐怖にも似た声が上がる。

 建物ごとを飲み込む魔法陣なんて、なかなか見ることはない。スケールの大きさに改めて驚いているのだ。


「なんでこんなに揺れるんだ!」

「瞬間移動の魔法陣って、青色じゃないのか?」

「やばい、落ちる…」

「きついきついきつい。」

「ちょっと臭うんだけど!」


 違った。みんな振動による圧迫に恐怖していた。


 私たちも、隣りにいる兵士から押し付けられていた。もう、何が何だか分からない。

 タラも建物に押し付けられながら、ノリノリなリラの様子に呆れている。

 こっそりとタラに聞く。


「黄金の大海原ってなんですかね?」

「…知らないよ。なんかの呪文だろ…」


 魔法陣の展開に呪文は要らないんじゃなかったっけ?


 リラは一人悦に入って叫ぶ。


「ブラボー コーカ!」


 何なんだ、あのリラのテンションは…。


 将軍府と兵士たちを城壁ごと飲み込んで魔法陣は消えた。そこには広大な空き地だけが残っていた。


※リラのセリフの元ネタは某大作RPGの第六作、フィガ□城の潜航モードです。

プロットの時点で、このセリフを使うことは決まってたんです。

ワールドカップ日本代表の人が叫んだから便乗したんじゃないやい!

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