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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
3章:圧迫面接

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 うぅ、とうとう私の番が来た。来てしまった。

 ギルダーの視線が怖い。

 自分の名前を言わない自己紹介なんて聞いたことがない。が、こいつに名前を憶えて欲しいとも思わないし、まあいいか。


「元の世界では、地方都市の公務員をしていました。」


 しまった。「公務員」はこちらで通じる言葉だろうか。

 ちょっと微妙だったかな~。


「役人だと?」


 良かった。通じた。

 ギルダーやシェケルの表情は…無表情。

 いや、シェケルの方は眉をひそめてる気がする。


「どんな仕事をしていた。」


 ギルダーが聞いてくる。


 公務員が仕事をするうえで重要なことの一つに、平易な言葉で説明するというものがある。専門用語を使わずに、一般市民でもわかりやすい言葉を選ぶ必要がある。

 私は、自分してきた仕事を簡単に説明しなきゃならない。


 行政事務。

 市町村の行政の仕事の範囲は広い。

 議会・税金・福祉・保健・水道・交通・消防・保育・教育・市場・建設・住宅・公園・清掃などなど。

 自治体の大きさにもよるだろうが、かなり幅広い分野にわたっている。


 つまり役所の仕事と言っても、どの業務を経験するかで千差万別。

 しかも、それを知らない一般人に説明するとなるとかなり無理がある。

 私は一番簡単で、この世界にもあるはずの言葉を選ぶ。


「税金や福祉についての事務職です。」


 それを聞いてギルダーはため息をついた。深い深いため息だ。


「そうか…お前は文官か。」


 えらい古い表現だが、事務職=文官は間違いじゃないと思う。

 だけど、文官の対義語は武官だから、私は戦わない役人というくくりで、ひとまとめにされてしまったのだろう。

 まあ、そう思われても間違いじゃない。こっちは平和な島国の公務員だ。


「つまり、ウギアと同じか…。手も貸さぬ癖に口だけは出す!」


 ギルダーが謎の愚痴モードに入る。

 ウギアってなんだ?


「やれ、書類を揃えろ。やれ、字が違う。承認とれ。金は出せん。まどろっこしい事この上ない。」


 仕方ないね。役所仕事ってのは迅速さより正確さ。結果より手順が重要なんだ。

 それは失敗が許されないから。みんなの税金使って、失敗出来ないから必要以上に慎重になることがある。


「あいつのせいで、どれだけの機を逃したと思う…。」


 どうやらギルダーの逆鱗というかトラウマに触れてしまったらしい。

 だけど、私は聞かれた質問に答えただけで、何も悪くない。


「何か、運動とかの特技はないか?」


 ぶつぶつ言いはじめたギルダーに代わって、シェケルが質問する。


「いえ、特に有りません。」

「そうか。」


 もう質問が終わった。

 ギルダーがペンを放り投げる。そして一言。


「使えん。」


 ですよね~。

 私なんて、そちらの目的には何一つ噛み合わない人材です。能力としては後方支援特化、間違っても前線に出ていくタイプじゃない。


 シェケルもフォローのしようが無いらしい。何も言わない。

 ギルダーの演説がはじまる。


「その亜人の体を無傷で手に入れるのに、どれだけの労力と費用がかかったことか!それこそ、あいつら頭の固い文官の部屋を行き来して、やっと捻出したのだ!」


 知らんがな。


「人類最強の(つの)の亜人だぞ。大人になれば単体で兵士百人に匹敵する。その中身が、ただの文官だと?」


 そうか。この体はそんなに強いのか。


「シェケル殿。寄りによって、なぜ『こんなの』なのだ?」


 『こんなの』とは酷いな。

 私からしたら、「寄りによって、なぜ『こんな体(オーガ)』なんだ?」って感じですよ。


 魔法があって、城があって、モンスターがいる。

 最高に楽しそうなファンタジー世界なのに、寄りによって、なぜ自分はモンスターなんだ。


「転生では魂の大きさしか指定できません。どの魂が転生されてくるかは神の気まぐれです。」


 シェケルが真面目に答える。


 シェケルのおっさん…。多分ギルダーは、回答が欲しいんじゃなくて愚痴りたいだけだよ。クソ真面目に答えてもイライラさせるだけだよ。

 私は市民対応で嫌というほど、それを経験してきた。


「言い訳は要らぬ!その神がなぜ最強の体に役立たずの文官なんかを選んだのだ。」


 誰も言い訳なんてしてないよギルダー。イライラしすぎだって。

 そんなにオーガの体に期待してたのか。


「あちらの世界の神のことですから、我々の神とは考えが違うのでしょう。」


 慰めになってないよシェケル。

 ブロンズさんのくだりから、こうなりそうな予感はしてたんだ。

 ただ、ギルダーの怒り具合は想像より激しいけれど。

 こういう輩は、怒りのぶつけ場所がないだけだから、熱量が尽きるまでそのままにするに限る。


「ちょっと待て、ひどい言い方じゃないか。そもそも俺たちは転生させてくれなんて頼んでない。」


 ブロンズがたまらず口を出してしまった。


 ああ、ブロンズさん!

 それは正論だ。

 だが、今あなたが言うべきじゃない。


「お前の意見は聞いていない。」


 ギルダーが冷たく言い放つ。


 あ~あ。面倒くさい。

 もうちょっと、聞き流してれば終わったのに。


 周囲の兵士がブロンズに少し距離を詰める。

 さっきのこともあって、ブロンズも立ち上がることはないが、今までの怒りをぶちまける。


「俺は、気付いたらエンドルに居て、気付いたらこの体だった!そして使えないと言われた。なんだこれは!」


 やっぱブロンズさんもそうだったのか。


「鱗の亜人、うるさい。」


 ギルダーが後ろのドアを指さす。

 ブロンズの後ろに控えていた侍女が声をかける。


「ブロンズ様、お静かにお立ちください。」


 ブロンズはしぶしぶ立ち上がる。

 兵士たちに囲まれて、退室させられていった。


「やはりあいつも使えんのではないか?」

「彼は大丈夫です。」


 ギルダーはため息交じりに言うと、シェケルがすぐ答える。


 ああ、シェケルのおっさんも、ギルダーには思うところがあるんだろうな。

 自分より若くて勢いのある上司。しかも短気ときたもんだ。

 絶対に苦労してる。


「おい、土塊(つちくれ)


 だめだ。とうとうギルダーから人としても扱われなくなった。

 でも土塊は酷くない?

 よっぽどイライラしているようだ。


「せっかくの巨体だが…。盾にしかならんか。」


 こいつムチャクチャ言い始めたよ。

 かといって、このまま前線に投入されて使い捨てにされるのはゴメンだ。


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