109
「やあ、久し振り。」
そこには、光る少女が立っていた。
地下迷宮で出会った時と同じ姿。彼女はこの世界の神の一人だ。
「ああ、お久し振りです!」
私は慌てて起き上がる。
ボクっ娘神様は机に腰掛け、ニコニコと笑っていた。
えーと、なんて名前だったっけ。
「えー、ボクの名前忘れちゃったの?」
うわ、心読まれた。名前分かんなくてボクっ娘神様って呼んでたのがバレた。
「神の名前忘れるなんて酷くない?」
「すみません!罰を当てないでください。」
私はベッドの上にひれ伏す。
「大丈夫。そんなことしないって。」
「ありがとうございます。」
「ボクはポジトロだよ。」
ポジトロ様。もう名前を忘れるわけにはいかない。
「気にせずポジトロって呼んでよ。」
「はいっ!」
そんな私を適当に流し、ポジトロは机の上のカップを指差す。
「これ何?」
「プリンです。」
「エレクの世界で食べたことある。プチンってやるやつだ。」
この異世界のプリンと言えば、黒いソーセージだ(七十九話参照)。
ポジトロは私達の世界にも行けるから、プチンとする方のプリンを知っている。
「全く一緒ではないですが、とても美味しいです。食べますか?」
「もらっていいの?」
良い。良いったら良いんだ。自分の食欲に言い聞かせる。
「キミって結構食い意地張ってるよね。」
ポジトロはケラケラと屈託なく笑う。
「うう、否定できません。」
食に対して意地汚くなっていることは認めざるをえない。
転生前も旅行先での食べ歩きとか好きだったけど、今ほど酷くはなかったはずだ。
「お、ホントだ。これ美味しいね。」
ポジトロはプリンを一口食べると、嬉しそうに顔がほころぶ。
「カボが喜びそうだな。奉納するように神託くださなきゃ。」
神託ってそんな感じで出されるんだ。
神官達が、神託のプリンを巡って混乱する様子が目に浮かぶようだ。黒プリンという名のソーセージを奉納してもこれ違うってなるだろうし。神の望むプリン探しに、せいぜい苦労するんだろうな。
「キミ、時々他人を見下すよね。」
「ええっ?ホントですか?」
「自覚ないのか。そこがキミの面白いところなんだけど。」
…これは褒められたのか?
「褒めてはない。」
「はい…」
ポジトロはまた笑う。
「あの…ちょっと聞いていいですか?」
「ん、なに?」
「この世界は何なんです? 私の知ってるファンタジーの要素盛々で。ゲームの世界に来たような…」
前から気になっていたことだ。
空飛ぶ列車だって、ごく最近のアニメだし。人間サイズのエルフなんて、私達の世界の教授が最近生み出した種族じゃないか。
「なんだか、自分の妄想でこの世界ができてるみたいな。」
「何、その中二病な発想。」
ポジトロはお腹を抱えて笑い出した。
神様、中二病なんて知ってるんだ。
そりゃそうか。ネトゲやってるくらいだし。
「残念ながら、エンドルはキミの頭の中の世界じゃない。あっちの世界のモノがあるのは、キミ達みたいな転生者から情報や技術を輸入しているからだよ。」
確かに、ラーメンとかがあるのはマンガンのお陰だもんな。列車もそうなのだろう。
これがなろう小説とかなら、私も転生前の技術を伝えて、私スゲーってできたはずなのに…
「キミの見たことのないモノもあったでしょ。」
思い出してみる。
神殿の地下迷宮で見た半魚は知らない生き物だった。携帯映画館だって見たことのない機械だった。日中に見た恐竜だって、あんなのは初めてだ。
「ふふふっ。キミ達の世界に恐竜が居ないって不思議だと思わない?」
「恐竜は絶滅したから…?」
「でもさ。小型の哺乳類は生き残れたんだから、小型の恐竜が残っててもおかしくないでしょ。」
「でも、それは鳥類に進化したって…」
鳥類は恐竜の生き残り。今じゃ当たり前の定説だ。
「じゃあ海の中は? 首長竜みたいな水生爬虫類はどこにいったんだろうね。」
「ええっと…ネッシー?」
確かに。地上の恐竜は絶滅している。なんで海中の首長竜まで絶滅したんだろう。
今じゃ海の爬虫類なんて、亀と海蛇ぐらいだ。
なんで恐竜や海竜は絶滅したのか。今でも諸説入り乱れている。
「海には昆虫もいないでしょ。魚は絶滅してないのに、なんでだと思う?」
「確かに…」
ポジトロは不思議な笑顔を見せる。
「キミ達の世界は、このエンドルをコピーしたものなんだよ。そして、選ばれた生き物だけをそっちへ持っていったんだ。」
「え、どうゆこと?」
私は目が点になる。
私達の世界は異世界のコピー?
「この世界の生き物以外をコピーして、キミ達の世界を作ったんだ。だから鉱物…、つまり、化石はキミ達の世界に残ってるわけだ。」
「えぇ…」
「そしてキミ達の世界には、こっちから連れてった人間や動物だけが生息している。恐竜やドラゴン、オーガやエルフなんて生き物は、連れて行かれなかったから居ない。」
恐竜は絶滅したんじゃなくて、異世界から連れて来てないから居ないって事?
なんそれ。世界五分前仮説 みたいな。
「まあ、何があってそうなったかは、話せば長いので割愛。」
「は、はぁ。」
私は分かったような分からないような生返事をする。
「話は変わるんだけど、花畑の魔法っての見せてくれる?」
「今ですか?」
ポジトロが現れたのは、これが本当の用件だったのだろう。
「そうだよ、駄目かな?」
「大丈夫です。」
神様に頼まれて断る訳にはいかない。
私は『百花繚乱』を唱え、部屋の中に花畑が広がる。
「うーん。これは…ちょっと対応を考えなきゃ。」
ポジトロが顎に指を当てて悩ましげにする。
「え、対策? 何それ怖い。」
「ははは、怖くないよ。大丈夫。」
ホントに?
「ホント、ホント。」
二度繰り返されると信じにくくなるなぁ。
「はははは、じゃあ帰るね。また、会おう。」
そう言って、ポジトロは姿を消した。
いきなり来て、いきなり消える。一体何者なんだ。
……神様でした。
コンコン。
静かになった部屋に突然のノック。私はビビる。
「あれ、もう起きてるのか。」
ゲンが起こしに来たのだ。もうそんな時間か。
私はさっさと支度をして部屋を出ていく。
「おおい!…なんだよこの花畑。」
ゲンの怒りの叫び。
神様の指示だから、仕方ないよね。片付けは居残り組に任せた!
※1 世界五分前仮説
神が五分前に世界を今のままの状態(記憶も歴史も含めて)で作ったという仮説を立てても、誰も否定できないという哲学上の思考実験。
仮説部分だけが独り歩きしている感は否めない。
ただし、ここで例えとして出すのは少しずれており、一部創造論信者の提唱する「ヤング・アース説」の方が、ポジトロの説明に近い。




