ⅭⅦ
シェケル目線 101話の前夜
深夜。
将軍府の一室にコーカ軍の首脳陣が集まっていた。
まずは籠城軍のトップ三人。将軍リラ、副将軍クワンザ、将軍補佐バルボア。
そして侵攻軍将軍フランクと第一侵攻軍軍団長。彼らはこの会議のために前線から戻ってきていた。
続いて第一籠城軍の軍団長。その配下の兵士長、兵糧長、工兵長。
シェケルは、兵士長補佐として兵士長ギルダーの後ろに控えていた。
軍のトップがずらりと並ぶ中、心なしかギルダーも気圧されているようだ。
(さすがのギルダー様も、このメンバーでは強気になれないか。)
シェケルは、生暖かい目でギルダーを見守ることにした。
彼らが集まった理由の一つ目は、日没とともに伝えられたキンユー奇襲のニュースだ。
「第七侵攻軍の司令部は何やってたんだ。北部要塞を落とされたのが全ての始まりだろうが。」
「シヘー軍も主力を投入していた。第七は壊滅したが、被害から言うとシヘーの方が倍以上だ。」
籠城軍の実質的なトップである副将軍クワンザと侵攻軍トップのフランクが言い争う。
「要塞に入ったシヘー軍は一握りに過ぎない。第七はしっかりやった。シヘー軍がすぐに追撃できなかったのも、消耗が激しすぎたせいだ。」
「しかし、第四侵攻軍が到着する前に攻撃が始まってしまったではないか。」
「それは想定外だ。まさか山脈を越えて直接キンユーに来るとは誰も予想しなかった。」
「北部要塞の包囲にキンユーの籠城軍を当てる羽目になったから、今回の奇襲を受けたんだろう。」
「要塞の包囲には、そちらも同意しただろうが。」
「そもそも王都が空爆された時点で、シヘーが今までの戦略とは違う戦い方を仕掛けていると気付いただろうが。」
「シヘーに新しい参謀が入ったとは聞いてない。」
白熱する論戦。
しかし、それはトップ同士による責任のなすりつけ合いだ。意味のない時間。
シェケルはあまりの疲れから、思わずニヤリとしてしまう。一番後ろで誰にも見られなくて良かった。
そこへギルダーが振り向く。危うく見られてしまう所だった。
「各部隊の隊長を集めてくれ。」
「こんな夜中に?」
「これが終わり次第、会議だ。…緊急出撃があるかもしれない。」
ギルダーからの指示に、シェケルは念話魔法を使って、各部隊に連絡を入れる。
兵糧長や工兵長も念話を使っている。この後も長くなりそうだ。
「キンユーが陥とされたら、他の侵攻軍の補給線に影響出るだろう。」
「影響があるのは、第一、第三、第六あたりか。」
「主力部隊だな。シヘーへの反撃が止まってしまうかもしれない。」
トップ同士の言い合いは、やっと建設的な話へと移りはじめる。
そこで、今まで静観していたリラが口を挟む。
「だ〜か〜ら、将軍府を瞬間移動して援軍送ろうって言ってるんでしょ。」
会議をしているもう一つの理由がこれ。リラ将軍の提案があったからだ。
誰も思いつかなかったアイデア。
将軍が前線で指揮できるように、将軍府は瞬間移動させられるよう設計されていた。将軍府を取り囲む壁には魔法石が埋め込まれており、日々魔力を溜め込んでいる。この魔力を使って魔法陣を展開し、任意の場所へ跳べるのだ。
二百年前の戦争で実際に使用され、勝利に貢献した。
…などといわれているが、今ではお伽噺と変わらない話だ。
バルボアが報告する。
「将軍府には、キンユーまでの瞬間移動なら三回分の魔力が溜まっている。起動に問題はありません。行きに援軍を載せ、帰りに負傷者を載せたとしても、往復には余裕があります。」
「既にそんなことまで調査済みなのか。」
クワンザが驚きの声を上げる。バルボアは少し嬉しそうに答える。
「たまたま一週間ほど前に、将軍直轄部隊で調査を行っていたのでな。」
(たまたまだと?)
シェケルは訝しくバルボアを見上げた。
(二百年も使っていなかった機能をこのタイミングで調査していただって?)
副将軍が知らなかったのだとしたら、誰が調査の指示を出したのか。
もちろんシェケルは、ギルダーや工兵長が出した指示ではないことを知っている。
もしかしたら将軍直轄部隊の中に、この奇襲を予見したか、知っていた者がいたのかもしれない。それで、将軍府を使った援軍を計画したのか…
戦争は情報戦でもある。知っているものが勝つのだ。
(スパイか…)
故に、相手の国にスパイを送って情報を集めさせる。どこの国でもやっていることだ。
今回の奇襲はシヘー軍のトップシークレットだ。となると、シヘー軍の中枢部にスパイが入っている可能性がある。
(しかし、奇襲の情報を籠城軍の将軍直轄部隊が入手するとは考えにくい。)
将軍直轄部隊なんて貴族の子息たちのお遊戯会だ。トップは王女。脇を固める将軍補佐と隊長は、平和な時代だけを過ごしてきたボケの始まった老害。
そんな所に戦争の情報を流しても、意味があるとは思えない。
それなのに、結果的に今回はそれが功を奏している。
(直轄部隊にキレ者がいて、奇襲を予測した可能性もあるが…スパイを疑った方が良いだろう。)
シェケルがそんな事を考えているうちに、話はどんどん進んでいた。バルボアが瞬間移動機能の説明をしている。
「将軍府を動かすには、籠城軍将軍が発動しなければならないのです。」
「二百年前の将軍は一人。後から侵攻軍将軍のポストができたから、ワシに権限が無いのはそのためか。」
侵攻軍将軍であるフランクがぼやく。リラはそれを指差して自慢げに言う。
「そゆこと。」
「だからと言って、王女たるリラ様が前線に立つなどと…」
「今から将軍就任の儀式をやるわけにもいかないでしょ。」
儀式には王の立ち会いが必要で、色々な手順があって一週間はかかる。将軍に何かがあったときの事を考えずに発動条件を絞ってしまったのだろう。
「リラ様は責任を持って将軍直轄部隊が守ります。」
バルボアは「前線に出るとなった時の隊員たちの反応を見れば、士気の高さが分かるな」と算段する。
「では、第一籠城軍から援軍部隊を編成する。どの部隊が何人出るかは、兵士長たちで話し合って決めてくれ。」
今まで一言も喋らず空気だった第一籠城軍の軍団長が突然話をまとめだしたので、全員が驚いた。
(いたんだ軍団長…)
登場人物紹介
「フランク」
種族:エルフ(コーカ人)
年齢:481
身長:192
体重:110
所属:コーカ侵攻軍将軍
自称:ワシ
特技:大剣、補助魔法
座右の銘:機を逃すな
備考:
叩き上げの武人。将軍でありながら最前線に出たがる上に、直接戦果まであげてしまうような人。
個人では、自らバフをマシマシに積んで大剣で特攻する脳筋な戦術を得意とするが、軍を動かす戦略となると、大局を見た作戦を考えられる頭脳派である。




