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ソルが将軍府の門の前で、私を止める。
「ありゃ、これは通らないな。」
倉庫の高さが門の大きさを超えていた。
私の背丈でさえ頭を打つ高さ(十八話参照)なのだから通らないのも当然だ。
「横にするか。」
「倒してもいいんですか?」
「緊急事態だから仕方あるまい。」
私はもう一度倉庫を持ち上げることになる。
ガラガラガラガラ
何か崩れるような音がしている気がするが、気にしない。上司の許可が出ている。
倉庫を倒して台車に載せ直す。次のは最初から横にして載せよう。
「よし、これなら通るな。」
とはいえ、高さはギリギリだ。
これで通らなかったらどうするつもりだったんだ。私は頭を屈めながら押していく。
とりあえず、運動場の端まで台車を運んで、倉庫を縦に置く。
ガラガラ ガシャン パリン
何か壊れるような音がしている気がするが、気にしない。上司の許可が出ている。
「軽かっただろう?」
ソルがニヤリとする。
気になるのはそこかよ。中身が壊れたっぽいのは良いのかな。
「浮遊魔法をかけてもらっているんだ。半分くらいの重さになっている。」
道理で、こんな重そうな建造物を私が運ぶことができたわけだ。オーガのパワー半端ないなとか感心して損したよ。
………っていうか、どうせだったら重さ半分とは言わず、ほぼゼロとかにしてくれませんかね!!
「あと五回頼む。終わったら声をかけてくれ。」
そう言ってソルは先に戻って行った。
私は一人になると、深いため息を吐いた。台車を牽きながら、ゆっくりと戻る。
「…なんでこんな事してるんだろう。」
こういう転生モノって、転生前の知識とか技術で無双するんじゃないのか。もしくは、転生時特典で付いてくる特殊能力で大活躍だろう?
なんで、私はこんな地味な仕事させられているんだ。
公務員の知識や経験なんて、全く役に立たない。法律も文化も仕事のやり方も全部違う。違いすぎる。
しかも、求められている事も全く別。だから私はトラック代わりの仕事しかさせて貰えない。
「テルルさんやブロンズさんはどうしてるかな。」
同じ転生者だけど、彼らは転生前の経験が生きている。
私も何か資格とか取っておけば良かったかな。公務員の仕事続けてたら、行政書士とか取れるんだっけ。
「ああ、でも事務系の資格なんて役に立たないか…」
余計気が沈む。
そう言えば、魔力が百倍以上あるって転生時特典があった(六十七話参照)けど、魔法が使えないから意味ない。
何回か往復している間に、運動場へ戦車が数台運びこまれていた。
戦車というよりも、屋根の上に大砲を載せただけの車といった感じの乗り物だ。移動砲台というべきものだろうか。せめてキャタピラだったらもっと戦車っぽいのに。
「蒸気機関なんだ…。」
車には煙突がある。燃料は石炭なのかな? それだとスピードはあまりでなさそうだ。
ディーゼルエンジンとか誰も発明しなかったのか。あれなら電気がなくても動かせるのに。
旧時代の兵器といった感じがする。
魔法を使った戦争をしていたから、武器が発達しなかったんだろうか。いや、二百年前の戦争っていうのが、コーカ王国の最後の大きな戦争だったとしたら、仕方ないのかもしれない。
私たちの世界では、戦争のたびに技術が革新していった。たった三十年で二度の世界大戦を行い、その後も直接の戦闘は無くとも大国同士が睨み合い、兵器の開発競争に明け暮れた。
しかも各地で戦争は続いていて、密かに、時にはあからさまに最新の兵器は試され続けていた。
文明は戦争で進歩してきたのだ。
最後の倉庫を運び終わる頃には、戦車に弾薬や携行武器が積み込まれていた。
きっとあれも、もうすぐ将軍府に運ばれ、戦場へと出ていくのだろう。
「さてと。」
そろそろお腹が空いてきたなぁ。と、思いつつ台車に腰掛ける。
一段落したから、ちょっとだけ休憩。決して、サボりではない。
「何あれ…」
私の視線の先に、見慣れない生き物がいた。
短い羽毛で覆われていて、鳥っぽい顔付き。でもちょっと違うな、嘴じゃない。大きさはダチョウよりも大きいが、翼ではなく鈎爪のついた腕がついていた。
「恐竜…?」
思わず立ち上がる。
あの生き物、ハリウッドの大作映画で見たことある。いや、映画のはもっとギザギザの牙が生えていたような気がする。あと、色も全然違う。
「クァ!」
鳴いた。マジか。
映画ではCGだった生き物が目の前にいる。しかも生きてる。
確か、役所同期の椎津が恐竜マニアだったはず。泣いて喜ぶだろうな。
何の恐竜かすぐに教えてくれるだろう。
「クヮ」「クァ」「クヮ」
しかも何頭も…いや、何羽?何匹?
数え方なんてどうでもいいや。
よく見ると、少し大きい別の種類のやつもいる。恐竜たちはみんな背中に鞍を付けていて、手綱を持った兵士に連れられスタスタと歩いてくる。
異世界すごい。恐竜までいる。しかも飼い慣らされている。多分背中に乗って戦うんだ。
恐竜を連れた兵士が並び、点呼を受ける。恐竜たちは隣に並ぶ戦車を不思議そうに眺めている。
肉食だろうか。でもそれだと手懐けるのが大変そうだ。しかし草食恐竜って足が遅いイメージあるし。
そもそも恐竜が絶滅していないんだったら、どうやって哺乳類は繁栄したんだろう。
そういえば、ワイバーンとかはプテラノドンっぽかったし、翼竜とか首長竜とかも居るんだろうか。
待て。ワイバーンは火を吐いてたよな…もしかしたら、この恐竜たちも火を吐いたりするんだろうか。異世界なんだから、そういう恐竜が居てもおかしくない。
恐竜ってどんな味なんだろう。ペガサス食べてる世界なんだし、恐竜くらい食べててもおかしくない。
おぅふ。
恐竜に舞い上がって、時間を忘れていた。さすがに、これ以上サボってたら怒られるかもしれない。
我に返ると、運動場に戦車と恐竜が整列しているのを、倉庫の前のオーガが眺めているという不思議な構図が誕生していた。
「…何だこの状況。」
私は、台車を牽いて運動場を後にした。




